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児童養護施設や里親家庭の子どもたちの進学支援|親を頼れないすべての子どもが笑顔で暮らせる社会へ

文部科学省の学校基本調査によると、日本全国の2021年度大学進学率は54.9%に達し、過去最高を記録しました。

参考:文部科学省「令和3年学校基本調査(確定値)の公表について」(令和3年12月22日)

 

同時に、児童養護施設や里親家庭などの社会的養護下で育った子どもたちの進学についても、ここ10年ほどで奨学金などの制度の整備が進み、徐々に支援の輪が広がりつつあります。一方、その進学率は全国平均に比べて大幅に低く、教育格差を象徴する大きな課題としてまだ改善の余地があるといえます。

*社会的養護:虐待や親の病気などさまざまな理由によって保護者のもとで暮らすことができない、または適切ではない場合、公的な責任のもとで子どもを育てること

 

子どもたちが安心して自分の未来を描き、切り開いていくためにはどのような支援が必要なのでしょうか。

 

 

1. 児童養護施設・里親家庭出身者の大学進学の現状

 

◆進学率

 

厚生労働省の調査結果から、児童養護施設や里親家庭出身の子どもたちの高校進学率については、全国平均98.8%に対し、それぞれ94.9%、97.2%と比較的高水準を維持できるようになってきたことがわかります。

 

ところが、大学進学率については、全国平均が50%超えなのに対し、児童養護施設出身者が約18%、里親家庭出身者が約30%*と大きな格差が生まれてしまっているのが実情です。進学を諦めざるを得ない子どもたちは、高校卒業と同時に就職の道を選ぶケースがほとんどですが、その選択肢が狭まってしまうことは想像に難くないでしょう。

*専修学校等を含めると、全国平均が70%超え、児童養護施設出身者が約30%、里親家庭出身者が約60%の進学率
参考:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」(令和4年3月31日)

 

◆児童養護施設出身者の進学希望

 

厚生労働省では、児童養護施設出身者を対象に進学希望に関する調査も過去おこなっており、次のような結果が示されています。

  • 高校進学希望者は80%を超えるが、大学進学希望者は30%程度に留まる
  • 中学3年生の大学進学希望者は40%近くいるのに対し、高校2年生以降になると20%台後半に落ち込む

参考:厚生労働省子ども家庭局 厚生労働省社会援護局障害保健福祉部「児童養護施設入所児童等調査の概要」(令和2年1月)

 

児童養護施設・里親家庭出身者の大学進学率の低さの背景にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

 

2. 児童養護施設・里親家庭出身者の大学進学の課題

 

私たちブリッジフォースマイルは2004年の創立当初より、虐待、貧困、親の病気などが理由で親と暮らせず、児童養護施設や里親家庭などで過ごす子どもたちが18歳で独り立ちするための支援や社会に巣立ってからのサポートに携わっています。さまざまな活動や独自調査を通して見えてきた進学の課題について、整理したいと思います。

 

◆進学率の低さと理由

 

・経済面
児童養護施設・里親家庭出身者は原則18歳で独り立ちしなければなりません。学費はもちろん、その後の住居費・生活費も一人で賄うことを踏まえると、「大学は贅沢品」と諦めてしまったり、「奨学金という数百万円の借金」を背負って大学に行くよりも就職して早期に収入を得ることが優先されてしまったり、といったことが起こりがちです。奨学金や住居費・生活費支援などの経済的支援は拡充されつつあるものの、“一人で生きていかなければならない”というプレッシャーは親に頼ることができない子どもたちにとって想像以上に大きく、進路を考え始める時期になると進学から就職へと希望変更を余儀なくされる子どもも少なくありません。

 

・精神面
周囲から大切にされた経験がないことで、自分自身を大切にすることに不器用になってしまう子どももいます。夢を持つこと、生きる希望を持つことを諦め、中長期的な未来を描けずに、進学の意義を見出せずにいるのです。また、日常生活を送るのも困難なほどの精神的トラブルを抱えている場合、通学自体が難しいことさえあります。

 

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・学力面
虐待などの辛い経験は、精神面だけでなくさまざまな側面で子どもたちに影響を及ぼします。私たちが独自におこなっている「全国児童養護施設 退所者トラッキング調査 2021」では、児童養護施設入所者が社会に巣立つ前の段階で、「発達/知的障害の診断または疑いあり」とされる子どもが33%にのぼるということがわかりました。

 

 精神疾患や精神障害の有無          発達障害や知的障害の有無

参考:認定 NPO 法人ブリッジフォースマイル「全国児童養護施設 退所者トラッキング調査 2021」(2021 年 10 月)

 

障害を持つ子どもは特別支援学校に通いながら、幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準ずる授業内容を学びつつ、自立に向け必要な知識の習得に努めますが、大学や短大への進学率は極めて低く1%未満とのデータも出ています。

参考:文部科学省「学校基本調査 大学・短期大学等への進学者数」(令和2年度)

 

また、障害の診断を受けていなくとも、複雑な家庭において勉強に集中できる環境が整っておらず、学力に差が生じてしまうこともあります。

 

◆中退者の多さと理由

 

このように、児童養護施設・里親家庭出身の子どもたちにとって、進学までの道のりは決して平坦ではないですが、ここ数年の支援の拡充にともない徐々に改善されつつあります。しかしながら、進学の機会を得ることができたとしても、学業を継続することが難しく、残念ながら中退に至るケースも多く存在しています。

私たちは児童養護施設退所者に関する独自調査を実施していますが、2021年度の調査結果からは、大学・短大・専門学校などに進学した若者の27.1%が、高校卒業後2年3カ月のうちに学校を中退していることがわかりました。学業を継続できない大きな理由として、「学習意欲の低下」や「メンタル不調」など退所者の「内面の課題」が浮き彫りとなっています。

 

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3. 進学の助けとなる支援制度

 

それでは、児童養護施設や里親家庭など社会的養護*下で育った子どもたちが進学という道を諦めることなく、18歳で安心して施設や里親家庭を巣立っていくために活用できる支援にはどのようなものがあるのでしょうか。一部をご紹介したいと思います。

 

◆高等教育の修学支援新制度

「世帯収入や資産の要件を満たしていること」「学ぶ意欲がある学生であること」という2つの要件を満たす学生を対象に、「授業料・入学金の免除または減額(授業料等減免)」「給付型奨学金の支給」などの支援を国がおこなっています。
※社会的養護下の学生だけでなく、「住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯の学生」が対象となります

参考:文部科学省「学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度」(令和4年度)

 

◆「東京スター銀行奨学金」プロジェクト

児童養護施設退所者等を対象に、東京スター銀行が資金提供し、ブリッジフォースマイルが運用する返済不要の奨学金制度です。金銭面の支援だけでなく、若者たちが自分自身でお金の管理ができるようになるためのトレーニングプログラム、悩みを気軽に相談できるメンター(行員ボランティアを含む)との定期ミーティングなどがセットになっています。

 

「東京スター銀行奨学金」詳細はこちら>>

 

◆児童養護施設・里親家庭での措置延長

児童養護施設や里親家庭での措置は児童福祉法に基づき原則18歳までとされていますが、進学や就労をしながら自立生活を営む上で継続支援が必要と判断された場合、措置延長が可能となります。2022年に入り、厚生労働省による年齢制限撤廃を含む法案は成立したものの、実際に対応できるか否かは施設や里親家庭によるところもあり、確認が必要です。

 

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◆児童養護施設退所者等に対する自立支援資金貸付事業

「児童養護施設や里親家庭等の社会的養護下にある子どもたち」や、「施設や里親家庭を巣立った若者たち」を対象に、自立に必要な資金について無利子での貸し付けを各都道府県が主体となっておこなっています。
参考:厚生労働省「児童養護施設退所者等に対する自立支援資金の貸付について」(令和3年2月3日)

 

◆身元保証人確保対策支援事業

児童養護施設入所中の子どもたちや退所後の若者などの就職や住宅賃貸において親族の代わりに施設長などが保証人となった際に損害賠償や債務弁済の義務が生じた場合、国と措置委託元の都道府県等が一定額を補償する制度です。
参考:全国社会福祉協議会「児童福祉施設等に関する身元保証人確保対策事業」(2022年7月版)

 

4. 子どもたちが進学という道を安心して選べるように

 

社会的養護下の子どもたちへの進学・生活支援は数年前と比較すると大幅に改善してきているものの、万一の時に親に頼ることができず、自身で経済基盤を確立していくことは簡単なことではありません。子どもたちは通学しつつもアルバイトなどの就労に多くの時間を充てなければならないことも珍しくなく、他者との出会いやコミュニケーションをとる機会が減ってしまい、だれにも悩みを相談できずに精神的に不安定な状況が続いてしまうこともしばしばあります。

子どもたちが安心して学生生活を送るためには、金銭面の支援だけでなく、困った時に相談できる場の提供が必要不可欠です。具体的ケースとともに理解を深めていきましょう。

 

◆奨学金とボランティアメンター

前述の「東京スター銀行奨学金」プロジェクトでは、返済不要の奨学金を提供しつつ、東京スター銀行の行員やブリッジフォースマイルのボランティアがメンターとなって子どもたちとの月に一度の談やメールでのコミュニケーションを通じて、いっしょに金銭感覚を養うトレーニング=「金トレ」をおこなったり、進学先での生活面や学習面、交友関係の悩みなどについて話し合ったりしています。
*奨学金を受け取る子どもとボランティアメンター間には、居住地などの詳細な個人情報は交換しないなどのルールを定め、子どもたちの心理的安全性を高めることに努めています

 

 

ここでは実際に本プロジェクトで奨学金を受け取り、2022年4月から大学に通うAさんのケースをご紹介したいと思います。

 

<大きな買い物をしてしまった…金銭管理について相談したい>

奨学金を受け取っているAさんは、4月から大学に進学しましたが、コロナ禍のため、アルバイトによる収入が計画よりも見込めず、経済的に不安な状態が続きました。そのような中、Aさんからメンターへ「数万円という大きな買い物をした」旨の相談が寄せられました。メンターは次のように回答しました。「たしかに大きな買い物に違いないですが、まずはAさんが相談してくれたこと、これを嬉しく思っています。買い物の前には非常に悩んだ上で、決断をしたことでしょう。その決断を否定することはしません。なぜ大きな買い物をしたのかというよりも、これからの金銭管理をどうするのか、その買い物は真に必要なものであったのかどうか、これをいっしょに振り返って欲しいと思います」

 

子どもたちが金銭管理について学ぶ場はほとんどありません。そして、親に頼れない環境下では万一金銭トラブルに巻き込まれてしまった場合に相談する先がないことも多いです。子どもたちが一人で悩むのではなく、メンターといつも繋がっていること、悩みについていっしょに考えていく社会があるということを感じてもらう必要があります。

 

<何気ない日々の悩みを聞いてほしい>

翌月もメンターはAさんとオンラインで対話しました。今回の相談内容は「食費が高額になってしまうこと」「アルバイト先がうまく見つからないこと」でした。メンターはAさんが話す内容に耳を傾けながら、対応策を自らの力で導けるよう対話を続けました。

 

「東京スター銀行奨学金」プロジェクトでは、金トレやメンターとのコミュニケーションを通じて、最初は支援を受けながら、やがて子どもたち自身のチカラで日常生活で求められるタスクを遂行できるようになることを目指しています。そのためには、子どもたちが試行錯誤しながらも、自身の行動から生ずる結果とその過程をメンターといっしょに考え、振り返り「学び」や「経験」に結びつけていくことが重要です。子どもたちの自発的な行動を否定したり、反省を促したりするようなことはせず、子どもたち自身が「気づく」ために必要なサポートをおこなっています。

 

◆巣立ち支援

私たちブリッジフォースマイルでは、子どもたちが児童養護施設や里親家庭で暮らしている間におこなう「巣立ち前」の準備から、施設や里親家庭を出たあとの「巣立ち後」の継続的な支援まで、さまざまなニーズに合わせたプログラムを提供しています。

 

これからの社会を支える子どもたちに「学び」の機会が公平に与えられていない現状を改善するためには、経済的不安はもちろん、精神的不安もあわせて解消していくことが一層求められているのです。

 

「安心」と「希望」の格差を乗り越える。巣立ち支援>>

 

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