「親を頼れない」
子どもの現状
日本にも、親からも社会からも、
「守られることのない」
子どもたちがいます
なぜ「親を頼れない」子どもが
生まれるのか
日本には、親が生きていても親を頼れない子どもがたくさんいます。近年増加の一途をたどる「虐待」はその最たる例です。親から暴力を受けている子どもにとって、家庭は安心できる場所ではなく、親は自分を守ってくれる存在ではありません。
増え続ける虐待
児童相談所への相談件数は、右肩上がりで増えています。家庭内の虐待は 外部から見えにくく、また干渉しづらい特徴がありますが、社会の意識、関心は確実に高まっています。
しかし、虐待で子どもが命を落とす事件は後を絶ちません。日本では1週間に1人の割合で子どもが虐待により亡くなっています。命を落とさなかったとしても、虐待は子どもの未熟な身体と心に深刻なダメージを与え、その後の人生に大きな影響を与えます。
「親を頼れない」理由はさまざま
親を頼れない子どもの大多数を占めるのが、親から虐待されていた子どもたちです。ほかにも、親が精神疾患を抱えていたり、病気で入院していたり、就労と育児の両立が困難だったりします。受刑中というケースや、離婚した親のいずれもが養育を放棄することもあります。
多くの子どもたちは、児童養護施設や里親家庭といった、「社会的養護」といわれる公的な仕組みのもとで暮らします。しかし、保護されず、不適切な環境下の家庭で暮らす子どもたちもおり、実態は明らかになっていません。
パンク寸前の児童相談所
児童相談所は、子どもに関わる相談にのり、親や家庭を支援する公的機関です。近年は、虐待の相談件数が増加していることに加え、対応業務の範囲が拡大・複雑化しており、パンク寸前になっています。虐待を受けた子どもの保護は確実に増えていますが、人手も設備も追いついておらず、適切な環境で預かることができていないケースも散見されています。さらに、親に対する「相談支援」と、虐待が疑われるケースなどへの「介入」という、異なる役割を同じ組織で行う難しさもあり、その役割についても見直しが求められています。
国が進める改革
「新しい社会的養育ビジョン」
日本は、子育てに関わる社会制度の整備の遅れが、国内外から指摘されてきました。これに対し厚生労働省は、2017年に「新しい社会的養育ビジョン」として改革の方針を打ち出しました。
親が育てられない子どもを保護し育てる「社会的養護」から、子どもを社会全体で育てる「社会的養育」への転換を図り、子どもの最善の利益を考えた制度の大幅な見直しが進められることになりました。
重すぎる「親の責任と役割」
日本では制度、価値観の両面で、親の責任と役割が重すぎる傾向があります。親は「自分たちだけでわが子をしつけなければ」というプレッシャーから、SOSを出せず、孤立しがちです。また、傍から見て「おかしい」「不適切では」と思われるような子どもへの対応があっても、まわりが口を出しにくくなっています。社会全体でも、まだ「しつけに体罰は必要」と考える傾向が強く、親が虐待を「しつけ」として正当化することが少なくありません。
軽んじられる「子どもの権利」
日本は、国際的に見ても「子どもの権利」の保障が遅れています。日本が国連の「子どもの権利条約」に批准したのは1994年、世界で158番目でした。その後22年経ってようやく2016年に「子どもの権利」が、日本の法律(児童福祉法)に明記されました。しかし日本では、子どもに関わる福祉や教育の現場ですら、子どもの権利を尊重しているとは言い難く、国連から度重なる勧告を受けています。
- 生きる権利
- すべての子どもの命が守られること
- 育つ権利
- もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療や教育、生活への支援などを受け、友だちと遊んだりすること
- 守られる権利
- 暴力や搾取、有害な労働などから守られること
- 参加する権利
- 自由に意見を表したり、団体を作ったりできること
「親の代わり」に
子どもを育てる人たち
児童相談所が「親が育てるのは難しい」と判断した場合、子どもは親代わりとなる養育者のもとで生活します。現在は児童養護施設が主な担い手となっていますが、国は里親家庭や特別養子縁組を増やすことを目指しています。
児童養護施設や里親家庭などで、子どもたちはようやく、学習の遅れや生活習慣の乱れを補い、「育ちなおし」の機会を得ます。施設職員や里親は、子どもたちに寄り添い励まし、抑え込んでいた怒りや悲しみを受け止めます。
しかし、親の虐待が心に与える影響は大きく、問題行動として表出することも多々あります。難しい対応を迫られ、職員や里親が心身ともに疲弊してしまうこともあります。