ニュース・活動報告
◆夢を見せてはいけなかった、10年前
高校生向けのセミナーを行っているとき、就職を控えた高校生が「ホントは漫画家になりたかったんだ」と言うので、ボランティアが「夢をあきらめなければ、きっとかなうよ」と励ましました。その後、施設職員から電話がかかってきました。「子どもに無責任なことを言わないでください。漫画家になって、生活していけると思いますか。私たちは子どもに夢をあきらめさせなければいけないんですよ」と。
また、ある会社で仕事体験をさせてもらったときのこと。中学生が目をキラキラさせて、「この会社で働くにはどうすればいいですか?」と聞いてきました。とても嬉しいと思いつつも、この会社は、高卒の採用を行っていませんでした。「まずはきちんと勉強して、高校に行くことだね」。中途半端なことしか言ませんでした。
なぜなら、10年前、大学に行くことは、退所者にとって狭き門、いばらの道でした。進学のために高校時代にバイトで100万円貯めること、進学後もバイトで月10万円を稼ぐことが目標とされました。そうしないと、進学後、学費も払えないし、生活もできないから。
実際、学業とバイト、一人暮らしの両立に疲れ、約半数が中退していました。別の子は、貸与型奨学金を月に12万円受け取っていたため、卒業時になんと700万円の借金をかかえていました。そんな状態で、施設職員たちは気軽に進学を後押しできないし、本人のためにはあきらめさせることも必要でした。
2020年から、非課税世帯の子どもたちを対象にした画期的な給付型奨学金制度ができました。それにより経済的なハードルが大きく下がり、施設出身者でも進学できる、夢をかなえられる環境が整ったのです。
◆生きる意欲、よりよく生きる希望を育むには
今後、確実に進学率は上がっていくと思われますが、もう一つ、子どもたちが夢や希望を持つためのハードルがあります。そもそも生きる意欲、よりよく生きる希望が持てないことです。
ある施設にて、中高生向けにセミナーをしたときのことです。テーマは、働くことを考える、でした。「将来、どんな仕事をしたい?」と聞くと、ある女子高校生が「キャバ嬢になりたい」と答えました。想定外の答えに内心動揺しながら「キャバ嬢じゃ若いときしか働けないよ」と言うと、「いいのいいの。30歳まで生きるつもりないから」と返ってきました。
実際、退所者たちの中には、いわゆる“夜のお仕事”や、犯罪に関わる仕事で稼ぐ人もいます。理由は2つ。ひとつは、経済的に厳しい状況に置かれていて、手っ取り早く稼ぐ必要があるから。もうひとつは、自分の人生を大切に感じられず、将来どうなってもいいと思っているから。
そんな子どもは狙われやすく、簡単にだまされたり、誘いにのってしまったりするのです。
子どものときに大切にしてもらった経験がないと、自分自身を大切な存在と思えなくなります。虐待で心や身体を傷つけられた子どもたちは、自分がダメな子だから、自分が悪いから、と思ってしまいます。自分の生きる意味、存在価値を見出せずにいる子どもたちは、どうせ自分なんて、どうせがんばったって、と思いがちです。自分で自分を傷つけたり、生きることをあきらめたりする人もいます。
経済的な環境は大きく改善された今、本人がよりよく生きたいと思う意欲にどう働きかけるか。ロールモデルを見せること、自分を大切に思う気持ちを育むことの両面から、アプローチする必要があります。
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