
ニュース・活動報告

ブリッジフォースマイル(B4S)では、児童養護施設を退所した若者たちの状況を継続的に調べるトラッキング調査を行っています。
◆中退者の半数 「学習意欲の低下」
2024年度の調査によると、高校を卒業して大学・短大・専門学校などに進学した若者の16.4%が、卒業後1年3カ月のうちに学校を中退しています。中退の理由(複数回答)は「学習意欲低下」が最も多く58.6%、次いで「出席日数不足」が38.9%、「メンタル不調」が35.7%と、気持ちの問題で中退に至るケースが多いことがわかります。
中退理由

全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2024
また、高校を卒業して就職した若者は、当初は70.1%が正社員・正規公務員となりますが、そのうち22.5%が就職後3カ月までに離職。3年目までには約56%が最初の勤務先を離職しており、約30%が正社員・正規公務員ではない就労形態で働き、約8%が無職となっています。
◆「内面の課題」 退所後も影響
施設退所者の多くがなぜ早期に中退・離職してしまうのか。その理由のひとつが、彼らの抱える「内面の課題」であると考えられます。
トラッキング調査では、退所者の「内面の課題」を客観的につかむため、精神科や心療内科へのメンタルに関する通院状況を調べました。2024年3月に施設を巣立った退所者の24.2%に、この1年間のメンタルに関する通院経験があり、その多くは6か月以上の定期通院をしています。この傾向は過去6年間(現在23歳以下)の退所者についても同様で、それ以前の退所者では通院割合がやや低くなっています。
この1年の精神科・心療内科への通院割合
(2024年6月現在、「わからない」除く)

全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2024
また退所前と退所後を比べると、退所前に定期的に通院していた人の7割強がこの1年間でも短期・単発あるいは定期的に通院している一方、退所前に通院経験のなかった人も、7.6%がこの1年間に通院しています。
18歳3月末以前のメンタル通院状況別
この1年の精神科・診療内科への通院割合
(2024年6月現在/「わからない」を除く)

全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2024
厚生労働省のデータによれば、2020年の15~24歳のメンタルに関する外来患者数は35.7万人で、同年代の人口比は約3.1%と推計されます。これに比べ、退所者のメンタルに関する通院率は約8倍と著しく高くなっています。退所前には通院経験のなかった退所者の通院率も7.6%と一般の2倍以上にのぼり、退所者を取り巻く状況の厳しさがうかがわれます。
また、高校や高校卒業後の進学先を中退したか否かに分けて、この1年間の通院経験の有無をみると、高校中退の場合は特に関連は見られませんが、進学先を中退した人の場合は通院率が明らかに高くなっています。問題があっても周囲のサポートが得やすい高校生時代に比べ、退所後は中退による失意がメンタルに悪影響を及ぼしやすい、あるいはメンタルに問題が生じた際、サポートが十分でないことから中退に結びつきやすいと考えられます。
学校中退と、この1年間のメンタルに関する通院の関係

全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2024
厚生労働省が全国の児童養護施設を対象に行った調査(2018年時点)では、入所児童の36.7%が心身に何らかの障害を持っていると診断されています。最も多いのは「知的障害」の13.6%で、他にも「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)」8.8%、「注意欠陥多動性障害」8.5%、「反応性愛着障害」5.7%、「外傷後ストレス障害(PTSD)」1.2%などがみられます。
B4Sのトラッキング調査ではこうした状況を、診断のついていないグレーゾーンにまで対象を広げて調べています。この調査では、退所者たちが施設から巣立つ前の段階で、「精神疾患の診断または疑いあり」が19%、「発達/知的障害の診断または疑いあり」が33%にのぼりました。
精神疾患や精神障害の有無 発達障害や知的障害の有無

全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2021
また、「対外感情コントロール」「対自感情コントロール」「依存傾向」「社会性欠如」「金銭管理」の項目ごとに問題があったかどうかを職員に尋ねたところ、どの項目でも「非常に問題があった」「問題があった」「やや問題があった」など何らかの問題があったケースが35~45%程度でした。また、退所者の9.3%が不登校、5.9%が自傷行為を過去に経験しています。おおむね退所者の4割が何らかの「内面の課題」を抱えた状態で施設を退所しているのです。
内面的な問題傾向の有無

全国児童養護施設 退所者トラッキング調査2021
児童養護施設の入所児童の6割以上が虐待を受けた経験を持っており、その経験が彼らの「内面の課題」と深く関連しているとみられます。施設の職員たちはその深刻さを理解していますが、診療やカウンセリングなどの専門的なケアが十分に行われている施設は決して多くありません。ケアができていた場合も、退所後は時間的・経済的な制約もあり、継続できなくなるケースが多いようです。
退所者たちが困難を乗り越え、自らの人生を切り開いていけるようにするためには、出身施設や自治体、NPOなどが気軽な相談場所を提供するなど、社会全体でサポートを行っていく必要があります。
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