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虐待が子どもの成長に及ぼす影響
コラム【子ども虐待3:虐待が子どもの成長に及ぼす影響】のアイキャッチ画像(雲に隠れる月)

虐待死に至らなかったとしても、虐待を受けた経験は子どもの心身に、その後の長い人生を左右するほどの深い傷を与えます。

 

◆虐待を生き抜いたとしても

身体面では、殴る蹴る、熱湯を浴びせるなどの「身体的虐待」によって、頭蓋内出血ややけどなどの障害が残ることがあります。十分な食事を与えないなどの「ネグレクト(育児放棄)」によって、身体の成長が阻害されることもあります。栄養不足だけでなく、適切な世話がなされず、必要な刺激を与えられないことで、脳の発達に遅れが生じ、知的発達や学習能力に悪影響が及ぶこともあります。

心の発達には、より複雑で深刻な影響を与えます。PTSD(心的外傷後ストレス障害)は比較的よく知られていますが、虐待による恐怖や強い精神的ストレスは、何年経っても折に触れて生々しくよみがえり、心を苦しめ続けます。

 

◆関係構築の難しさと問題行動                     

子どもは、親または親に代わる養育者に愛情をもって保護されることで、「愛着」と呼ばれる深い信頼関係を形成します。「愛着」はその後の安定した人間関係や、共感性・道徳性の基礎となるもので、「愛着」が形成されないまま育つと、対人関係にさまざまな困難が生じることになります。相手かまわずベタベタしたり、逆に誰に対しても拒絶的な態度を取ったりする「反応性愛着障害」はそのひとつです。大人をわざと怒らせ、時には暴力をふるわせるような挑発的言動をする子どももいます(「虐待的人間関係の再現性」と呼ばれます)。

 

ささいなことでカッとなって暴れるなど、自分の感情をうまくコントロールできない子どもも目立ちます。不快感や不安を、養育者から愛情をもってやわらげられた経験がないために、感情をコントロールする力が育っていないのです。虐待経験による恐怖や激しい怒りを心の奥深くに抱え続けていることも原因といわれます。

 

自分自身や他者に対する認知にもゆがみが生じます。幼い子どもは虐待を受ける理由を「自分が悪い子だから」と考えがちで、その結果、自分は価値のないダメな人間だ、と思い込んでしまうのです。一方、他者は常に自分を害する存在であると考えがちで、人を信頼することが難しくなります。

 

こうした心の深い傷が抑うつや不安障害、解離などの精神症状をもたらしたり、自傷行為や薬物乱用、万引きなどの逸脱行為につながる例も報告されています。

 

◆回復に欠かせない心理治療と長期にわたる支援

子どもたちの心身の傷をいやすためには、適切なケアが必要です。施設や里親などの安全な場所で、誰かが親に代わって子どもと安定した関係を築き、「育て直し」をするのです。それによって得られた信頼関係を基礎として、子どもは自分自身や他者との関係を築き直していきます。必要に応じて心理的な治療を受けることも大切です。虐待の影響を乗り越える道のりは険しく、長い年月が必要です。いったんは乗り越えたように見えても、環境の変化などをきっかけに問題が再燃することもあります。

 

施設などで育った子どもは、原則として18歳で退所し、自立しなくてはなりません。10代の若者が家族などの支えなしに一人で生きていくのは誰にとっても大変なことですが、心身に深い傷を抱えた若者にとってはとりわけ困難がつきまといます。人間関係がうまくいかないなどの理由で不安定な仕事を転々とせざるを得なくなる若者が多いのです。

 

結婚や出産などをきっかけに問題が生じることもあります。温かな家族関係を知らないために、パートナーと良い関係が作れなかったり、どうやって子どもを愛したらいいのかわからなかったりすることがあるのです。子育てを通して自分自身のつらい記憶が呼び起こされ、その葛藤が子どもに向かってしまうこともあります。虐待が連鎖するといわれるのはそのためですが、適切な支援があれば、そうした危機も乗り越えることができます。

 

虐待が子どもの心身に及ぼす影響の深刻さを社会が認識し、長期にわたる支援体制を構築することが、子ども虐待の問題を解決するためには絶対に必要なのです。

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