
ニュース・活動報告

「常に、今目の前にいる子どもが社会へ出たときに、ここでどう関わったら困らないか、うまく人付き合いができるかという視点を持って対話しています」。
そう語るのは事務局スタッフの、ニックネーム「オタケン」こと大高賢太郎です。一般企業の人事として新卒採用などの仕事を経て、2023年6月に認定NPO法人ブリッジフォースマイル(B4S)へ入職しました。現在は居場所事業や巣立ち支援などのプロジェクトを担当し、親を頼れない子ども・若者たちの自立を支えています。
オタケンは、どのような道のりを経て「今」に至ったのでしょう―
■人事から教育へ。30代半ばで新たな挑戦
オタケンはもともと、高齢者介護のベンチャー企業で人事として働いていました。新卒採用を担当し、学生たちと向き合う日々。入社したばかりの新人が、2年、3年とキャリアを積むにつれて成長していく姿を見守ることに、大きなやりがいを感じていました。
しかし、人事の仕事を続けるうちに、こんな疑問も芽生えました。
介護を志す若い人たちと話す中で、『教育の段階から変えていかないとダメだよね』と思ったんです。いち人事ではできることに限界があります。根本から人の成長に関われる仕事をしたくて、教員免許を取ろうと決めました。
36歳で通信制大学へ入学し、働きながら教員免許の取得を目指したオタケン。大学では教員免許に加えて、社会福祉に関する授業も受講しており、学びを深めるうちにオタケンの視野は次第に広がっていきます。
福祉系の授業を受ける中で、福祉と教育が交わる世界に興味を持ち始めたんです。せっかくなので、社会福祉士の資格も取得することにしました。
教員免許と社会福祉士の両方を取得したオタケン。その後、教員採用試験に挑戦する中で、オタケンの中には新たな問いも生まれていました。ベンチャー企業という自由な環境で働いてきた自分が、公務員として教育に携わることは本当に正解なのだろうか。自分のやりたいことが、公教育の枠組みの中で実現できるのだろうか――。
パートナーとも相談を重ね、オタケンは少し視点を変えてみることにしました。公教育にこだわらず、もっと違う世界も見てみよう。子ども支援の領域で、別の選択肢を探し始めたのです。

「B4S PORT しもきた」で若者たちに提供する食事をつくるオタケン
■一杯の飲み会が運んだ、運命的な出会い
2023年初頭、オタケンが児童福祉に興味を持ち始めた頃のことです。ある日、以前働いていた会社の上司と久しぶりに飲みに行く機会がありました。近況を報告し合い、これからのキャリアについて話していると、その上司がふとこんなことを口にしました。
「俺の同期で、困ってる若者を助けるNPOを立ち上げた人がいるよ。当時から、すごい人だったんだよ」。
その上司が教えてくれたのが、B4Sでした。実は、その上司はB4S理事長 林恵子の会社員時代の同期だったのです。
帰宅後、オタケンはすぐにB4Sについてインターネットで検索をしました。ちょうど説明会の募集が行われており、しかもリモートで働ける環境だということがわかりました。4人の子どもを育てるオタケンにとって、リモートワークという働き方は大きな魅力でした。
2023年3月の説明会に参加したオタケンは、B4Sの活動内容と理念に共感し、すぐに応募を決意。4月に履歴書を送り、5月からB4Sでインターン活動を開始、6月には正式に入職をしました。
本当にあっという間でしたね。でも、これもご縁だなと思います。あの時、あの人と飲みに行かなければ、B4Sとは出会っていなかったでしょうから。
■居場所で気づいた、本当の支援のかたち
現在、オタケンは主に居場所事業(B4S PORT しもきた)の運営スタッフとして勤務しています。そこは、児童養護施設や里親家庭などで育った子どもたちが、入所中(中高生)から退所後でも気軽に立ち寄れる居場所です。近年では、公的支援の網からこぼれ落ちてしまった、親を頼れない若者たちの来所受け入れも開始しました。さまざまな理由で親を頼れない若者たちが集う「居場所」。そこでオタケンは、若者たちと日々向き合っています。
B4Sには、スタッフが必ず受講する「基礎4研修」があります。オタケンもそこで子どもたちへの関わり方の基本を学びましたが、最初の頃は現場での対応に戸惑うこともあったといいます。
虐待を受けた経験がない自分が、そういう経験をした子どもたちと接するとき、どうしても「かわいそう」という感情が湧いてきてしまう。だから、優しさを与えてあげたい、もてなしてあげたいという気持ちが先に立っていました。居場所に来てくれたことへの感謝の思いから、まるでお客様のように接してしまう部分もあったのです。
しかし、居場所での経験を重ねるうち、考えは大きく変わっていきます。
優しさだけじゃ、この子たちは自立しないと気づいたんです。過去のつらかった話をずっと聞いて受け止めるだけでは、その子は前に進めない。むしろ、依存してしまう可能性もある。
過去の話をただ聞くだけでは、社会に出たときに必要な力は育ちません。オタケンがシフトに入る日に居場所へ行けは過去の話を聞いてもらえるから行く――毎回同じ話を繰り返すだけでは、本当の自立にはつながらないのではないか。そう考えるようになりました。
たとえば、毎回同じ過去の話を繰り返すユース(若者)がいました。オタケンはその話をしっかり受け止めたうえで、視点を少しずつ未来へ向けるような問いかけをするようになりました。それで、次はどうしたいのか。その経験を、これからどう活かしていきたいのか――。
社会に出たときのことを想像するんです。たとえば会社で毎日同じ話を同僚にしていたら、『それ、この前も聞いたよ』って言われますよね。だから、居場所でその小さな体験をしてもらう。厳しい言い方で傷つけないよう、友達や家族のようなフランクな関係の中で、さりげなく次のステップへ促していく。それが今の自分の関わり方です。

「B4S PORT しもきた」で若者たちとカードゲームを楽しむオタケン
■「お父さんみたい」と言われて
ある日、B4Sの広報スタッフがオタケンと関わりのあるユースにインタビューをしました。その際、そのユースが語った言葉を、後から聞く機会がありました。
「オタケンは、お父さんみたいな感じで話を聞いてくれるから、話しやすいんだよね」。
オタケンがシフトに入っている日、そのユースはふらっと居場所にやってきて、自然な調子で近況を報告してくれます。「そういえばさ、仕事決まったんだよね」と切り出し、就職が決まったことを教えてくれました。オタケンは「そうか、良かったな。がんばれよ」と応じます。
深刻すぎず、でもちゃんと報告し合える関係。まるで家族のような、自然な会話です。これは、オタケンが意識的に作り上げた関係性というよりも、自然と築かれていったものでした。その話を聞いたとき、心から嬉しく思ったといいます。
すごく嬉しかったですね。自分では『お父さんみたい』なんて意識していなかったんですけど、その子が安心できる大人として自分を見てくれているんだなって。それが何より嬉しかったです。
■リモートワークで叶えた、理想のライフワークバランス
B4Sはリモートで働ける環境が整っています。打ち合わせは主にオンライン、居場所のシフトが入っていない事務作業の日は自宅で仕事をこなしています。
これはオタケンが入職を決める大きな理由のひとつでした。4人の子どもがいるオタケン。パートナーと協力して家事や育児をこなさなければならない生活の中で、リモートワークという働き方は非常に大きなメリットをもたらしました。
リモートだと、仕事の合間に洗濯を回したり、食器を洗ったりできます。パートナーとお互いに持ちつ持たれつで、すごく助かっています。
また通勤時間がない分、時間を有効活用できるのも大きなメリットです。B4S入職から半年後、以前から興味のあったピアノ教室にも通い始めました。
通勤がある仕事だったら、夜帰ってきてからレッスンに行くなんて、多分できなかったと思います。仕事で疲れたときも、休憩がてら30分くらいピアノを練習して、リフレッシュして仕事に戻る。そういう時間の使い方ができるんです。
通勤時間に携帯電話を触っていた時間を、自己成長やリフレッシュの時間に充てられる。これは、オタケンにとって理想的な時間の使い方でした。仕事、家庭、趣味――すべてのバランスが取れている今の働き方に、満足しているといいます。
■これから、もっとできることを
居場所スタッフとして働く中で、オタケンは今、新たな目標を持っています。
もっと自分のスキルを高めたいんです。B4Sのスキルアップ研修でまだ受けられていないものもありますし、外部の研修も受けてみたいです。居場所に来る若者の層も変わってきていて、さまざまな方が増えています。友達や家族のように関わる中にも、支援者としての視点が必要なんです。
その背景には、居場所に来る若者たちの変化があります。オープン当初と比べると、より専門的な支援を必要とする方も増えてきています。そのためB4Sではスタッフへの研修提供や居場所への心理職スタッフの導入、弁護士相談会の紹介などの機会を設けています。
また、B4Sには居場所事業以外にも、個別支援や就労支援、巣立ち支援など、さまざまな支援を行う部署があります。オタケンは、居場所という視点だけでなく、別の角度からも若者支援を見てみたいと考えています。
居場所だけじゃなくて、別の視点からも若者支援を見てみたいです。個別支援の視点、企業連携の視点――いろんな角度から若者支援に関われるのが、B4Sの魅力だと思うんです。もっと支援の質を高めて、団体全体で子どもたちのためにできることを増やしていきたいですね。
人を育てることに情熱を注いできたオタケン。その想いは今、親を頼れない子どもたちの未来を支える力となっています。
<オタケンの1日のスケジュール>
■デスクワークの日
8:00~9:00 行政からのメールチェック、上司やスタッフの連絡確認・返信
9:00~10:00 居場所運営に関する事務作業
10:00~11:00 休憩(近所のジムで軽く汗を流す)
11:00~12:00 ユースとの連絡や支援に関する事務作業
12:00~13:00 昼食
13:00~15:00 居場所に関するミーティングなど
15:00~16:00 休憩(ピアノ練習)
16:00~17:00 居場所運営に関する事務作業
■居場所勤務の日
10:00~11:00 行政からのメールチェック、上司やスタッフの連絡確認・返信
11:00~12:00 居場所運営に関する事務作業
12:00~13:00 休憩
13:00~14:00 居場所開所準備
14:00~16:00 居場所運営
16:00~18:00 夕食準備
18:00~19:00 ユースとコミュニケーションをとりながら夕食
19:00~20:00 個別相談
20:00~21:00 振り返りミーティング・個別記録
◆職員紹介 居場所スタッフ でらちゃん「目線を合わせて、みんなで居場所をつくりたい」
◆職員紹介 居場所スタッフ みみろん「児童福祉は、すべての経験が生かされる仕事」
◆職員紹介 居場所スタッフ りゅうりゅう「彼ら彼女らがいるから、自分も頑張れる」
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