ニュース・活動報告

「児童福祉は、すべての経験が生かされる仕事」 居場所スタッフ みみろん

「児童福祉は、すべての経験が生かされる仕事」。そんな思いで、子どもや若者たちと向き合ってきた事務局スタッフがいます。認定NPO法人ブリッジフォースマイル(B4S)の「運営チーム」で「居場所事業」を担当するニックネーム「みみろん」こと、遠藤智子(26)。2022年6月にB4Sへ入職し、現在は居場所事業「よこはま Port For(YPF)」(神奈川県横浜市)の運営を担いつつ、2023年度に東京・世田谷区児童相談所から新たに委託を受けた「居場所事業」(世田谷区下北沢)の開設に向け、急ピッチで準備を進めています。児童養護施設の職員を全力投球で務めた5年間の経験を生かし、児童養護施設や里親家庭など「社会的養護」のもとを離れた若者たちとの向き合い方や、新たなかかわり方を模索しています。 

 

「YPFは、6月いっぱいで最後。7月からは世田谷担当になるのよ」。YPFを利用する若者に、そう打ち明けると、「じゃあ、世田谷にも行くよ!」と明るい声が返ってきました。入職以来、1年余り。YPFの運営メンバーとして横浜に通い続けました。児童養護施設や里親家庭など社会的養護を離れ、自立を目指す若者たちの「よりどころ」となる居場所事業。児童養護施設の職員時代とは違った「気付き」や「発見」があるといいます。 

 

 

「自然」と「友達」に鍛えられ 

 

長野県で生まれ育ちました。父の転勤で、小学生時代に新潟へ2回、山形へ1回、引っ越しを経験しています。中学生になってからは、長野で暮らしました。 

 

兄2人と妹に挟まれた4人きょうだいの3番目。年齢の近い下の兄と妹とは、その友達とも分け隔てなく一緒に遊ぶ機会も多く、「兄の友達の家へ一緒に泊まりにいった」ことも。 

 

もともと、誰とでも友達になれるタイプではありませんでした。でも、一緒に遊びながら、子どもなので、思ったことを遠慮せず言葉に出します。そういう中で、コミュニケーション能力が鍛えられ、育ててもらったな、と実感しています。 

 

特に思い出深いのが、小学生時代、新潟に住んでいたころ。 

 

家の裏がスキー場で、冬は学校帰りにスキー板を持って滑りに行ったり、夏は山菜をバケツいっぱいに採ったり。近くに川があって、飛び込みをしたり、カジカという小さい魚を銛で獲って、唐揚げにしたり、湧き水をみんなで汲みにいって、ごはんを炊いたりしました。今思えば、とても、いい体験しました。 

 

■「挫折」で気付いたこと 

 

母がピアノを弾き、ボランティア活動をしていた影響で、音楽好きに。小学生のころは合唱、中学・高校では吹奏楽に打ち込みました。担当パート(楽器)はアルトサックス。 

 

ところが、その「吹奏楽」で、中学時代、挫折を味わいます。全国大会を目指す強豪校で、小学生の時からマーチングバンドで鍛えてきた子も多く、なんとなく「落ちこぼれ」に。 

 

できない日々が積み重なり、自己肯定感は下がる一方。「反抗期」も重なり、荒れる時期。家族の問題に悩む友人と夜中まで語ることも、たびたび。そんな体験もあり児童養護施設の職員を目指そうと思ったのが、中2の時でした。 

 

吹奏楽では、暗澹たる気持ちが続いていました。その暗いトンネルから救ってくれた人がいました。吹奏楽部の外部講師の先生です。 

 

私の鳴らす音、ほめてくれて。「曲を吹かせたら、プロはうまいけど、音だけで勝負しようと思ったら、勝てるよ」と。そこで、「もうちょっと、吹奏楽、頑張ってみようかな」と思って。外部講師の先生に認められたくて、なんとか続けられた。私にとって、光になってくれました。 

 

もう一つ、気付いたことがあります。 

 

反抗しながらも大人の力がないと生きていけない、ということ、支えられていること。私を心配して、担任の先生が友達の家まで迎えに来て、自宅まで送ってくれたりとか、部活の先輩から気に掛けてもらったりとか。「大人に振り回されている」と言いながら「助けてくれる」のも大人だな、と。必然的に、今度は自分が「助ける大人」の側になりたいと、その道を目指すようになりました。 

 

児童養護施設での「真剣勝負」 

 

どうすれば、児童養護施設の職員になれるのか、調べます。「最短距離」で、短大を卒業し、保育士の資格を取ればよいことが分かり、まず幼児教育科のある高校に入学しました。 

 

短大へエスカレーター式に上がる高校もありましたが、幼稚園の就職率が高く、児童福祉には力を入れておらず、むしろ進学系の幼稚園に焦点を当てている印象でした。結局、オープンキャンパスに足を運びながら、児童福祉を専門にする教員のいた短大に入学し、そのゼミに入りました。ゼミ担当の先生は虐待経験を持っている方でした。当事者目線での訴えや現場で必要な知識や視点、他のゼミでは学ぶことが出来ない大切なことを多く学びました。 

 

そして卒業後、満を持して、長野県内の児童養護施設に勤め始めます。 

 

幼稚園や保育園だと、見守れて3年。でも、施設職員なら、人生の大事な時期、長年かかわれる。そこに魅力を感じました。勤務していた5年間、ずっと担当していた子とのかかわりが深く、印象に残っています。担当は「学童男子ユニット」でした。物が壊れたり、喧嘩になって蹴られたり、技を掛けられて倒されたり、というのは日常茶飯事でした。 

 

親への対応も大変だったといいます。 

 

「家庭復帰を目指そう」という国の方針で、親とのかかわりが必須になってきます。一緒に授業参観に行ったり、入学式や懇談会の調整をしたり、誕生日プレゼントの相談をしたり。私の方が子どもたちと年齢の近い中、ご両親の子どもに対する思いを尊重し、大切にしながら、でも、伝えなければいけないことは、きちんと伝える必要があったり、一方で子どもの気持ちもあったりするので、そのバランス調整に、エネルギーを使いましたね。 

 

5年間担当した男の子は、小3の時、学級崩壊の一端を担い、担任もさじを投げかけるまでに。腹を決めて、向き合う。 

 

「あなたはいま、そういうふうに思われているんだよ。それでいいの?」。小3の男の子に言う言葉じゃないと自覚しながらも、率直に、担任の評価などを話しました。そして「なにがしたいの?」と聞くと、「塾に行きたい」という。上司に掛け合い、小4から予算が出て。通い始めたら、メキメキ学力が伸び、小5のころには「中学受験したい」って言い出した。成績が思うように伸びず、何時間も話し合ったり、泣いたり、喧嘩したりしつつ、なんだかんだありながら合格を果たしました。学校生活でも、学級委員長になったり、学年会長の選挙に立候補したり。その成長ぶりを心から「尊敬している」と伝えていたら、私が退職するとき、「俺の方が、ずっと尊敬していました」って、泣きながら言ってくれました。その子から、大きなものをもらったな、と。 

 

「1人じゃないんだ」 より広い視野で 

 

思うところあって、いったん児童養護施設職員に区切りを付け、B4Sに入職します。 

 

「現場」じゃないからこそ、見える視点で、もっと広い視野で、かつての「現場」を見てみたい。そんな思いがありました。入ってみて、まずびっくりしたのは、長野県という地方と、関東圏の「支援のギャップ」に、パンチを受けました。B4Sに入ってみて、「こんなにボランティアさんがいて、支援してくれる企業さんがあるんだ」「こんなに児童福祉に関心を持って、行動を起こそうとしてくれている人がいるんだ」というところに、一番衝撃を受けました。児童養護や社会的養護って、マイナーな世界だと思っていたのですが、そうじゃないのだと。もはや、社会全体で支えていく、かかわっていく、取り組んでいく。そういう枠に入ってきているのだ、と。 

 

 

目からウロコが落ちる一方、勇気づけられもします。 

 

長野では「自立支援事業、どうする?」の段階でしたが、関東圏の子どもや若者たちは、居場所だったり、相談支援機関だったり、いろいろと選択肢がある。同じ日本なのに、こんなにも違うのか、と。アフターケア(退所後の自立支援)一つとっても、施設職員時代は、勤務外に自分の時間を使って、その子の家に行って、アフターフォローする感じでした。でも、私1人で支えなくても、社会全体で、その子にかかわり、支えていくのだ、と。私は、その中の「1人」なんだと。なんか、視界が開けた感じでした。 

 

子ども時代の楽しかった思い出も、思春期のつらかった挫折感も、すべてが糧になる。その思いを強くしながら、次を見据えます。 

 

自分が経験しているからこそ、想像ができ、語れる。特に、児童福祉は、自身の経験すべてが生かされる職業だと思います。境遇も、挫折も、趣味も、すべて— 

 

<メモ>知的好奇心を埋めたい、というタイプ。興味あれば、とりあえず、行動してみようと、ジムに、ドライブ、中医薬膳指導員、ボディージュエリーアーティスト、ヴィーガン、オーガニック…。関心に向けば、何にでも挑戦し、「自分のすそ野」を広げてきました。 

 

<1日の動き> 

 10:00~12:00 事務作業(コエール運営・準備など) 

 12:00~13:00 休憩 

 13:00~14:00 世田谷区児童相談所の新規「居場所事業」の開所準備 

 14:00~16:00 横浜市の居場所事業「YPF」の運営・個別相談 

 16:00~18:00 「YPF」夕食準備 

 18:00~20:00 「YPF」ボードゲームなどの交流 

 20:00~21:00 「YPF」振り返りMTG・個別記録 

 

◆職員紹介 居場所スタッフ りゅうりゅう「彼ら彼女らがいるから、自分も頑張れる」 

◆職員紹介 施設コミュニケーションチーム あめり「子どもたちと社会の〝架け橋〟に」

◆職員紹介 人材開発チーム しのたー 「誰しもが変われる」 もう一人の伴走者として

Bridge for Smile

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