ニュース・活動報告

高3が自立と向き合う半年 一人暮らし のスキル伝える「巣立ちプロジェクト」

 

認定NPO法人ブリッジフォースマイル(B4S)が、社会に巣立つためのスキルや知識を高校3年生の子どもに伝える「巣立ちプロジェクト」。団体設立当初から続く看板プログラムが、2023年度も8月から始まりました。知らない場所に出向き、自立のノウハウを大人から直接教わるということは、社会の疑似体験とも言えます。 半年間のプロジェクトを通じて、感情のコントロールや自分の考えの適切な伝達が「できる」と実感する子どもが大幅に増加しました。一方、自立に向けた不安の解消では課題も見つかっており、プログラムの改善に向けた取り組みも進んでいます。

 

社会で生きるノウハウ 仲間と学び不安軽減

「仕事が忙しすぎて、ふと電車に飛び込みそうになるぐらい精神的に追い詰められたこともありました」。8月に東京都内で開かれた2023年度1回目の巣立ちプロジェクト。社会人ボランティアが語る過去のつらい経験に、多くの子どもが深刻な表情で耳を傾けていました。「信頼して相談できる人をつくることは本当に大切です」。 周囲の助けをきっかけに困難を乗り越えたという体験を聞き終わった後、もし自分ならどうするかについて子どもたちが意見交換しました。

 

巣立ちプロジェクトは、B4Sが創立した翌年の2005年から始まったプログラムです。対象は児童養護施設からの巣立ちを翌年に控えた高校3年生で、2023年度はオンラインを含め全国から265人 が参加。引っ越しの手続きや金銭管理、危険から身を守る術など、1人暮らしに必要な知識やスキルを学ぶセミナーが、半年間にわたって月に1回開かれます。子どもとほぼ同人数の社会人ボランティアがサポート役を務めており、初対面の大人と関係を築く学びにつながるほか、同じ境遇の仲間と一緒に学ぶことで孤独感の解消にも役立ちます。

 

 

「自立する時にかかるお金のことなども学べて、1人暮らしに対する不安が少し減った」「自分の将来について、今までよりも深く現実的に考えることができた」――。前回の2022年度に参加した関東圏の157人からは、こうした声が寄せられています。この子どもたちが回答した事後アンケートからも、成果が見えました。

 

子どもの伝達力磨く ホウレンソウや多様な価値観

「失敗した時やトラブルが発生した時にポジティブ・前向きに気持ちを切り替えることができますか」という質問に対して、巣立ちプロジェクト受講後に「できる」「ややできる」と答えた割合は70.3%で、受講前を8.2ポイント上回りました。 学校では教わることのない「ポジティブシンキング」といったメンタルトレーニングの実施が効果を生んだと考えられます。

 

 

「相手の立場を考えながら、自分の考えや状況を適切に伝えることができますか」という質問でも、受講前後で「できる」「ややできる」の割合は10.6ポイント増の83.3%に高まりました。会社においては必須の所作ともいえる「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」のやり方や重要性を伝えていることが、結果につながったとみられます。また、「自分とは違った考えがたくさん聞けて面白かった」「自分とは違う価値観があふれていて、参加するのが楽しかった」と感じるなかで、物事の伝え方が磨かれた側面もあるようです。

 

 

家を借りる際の初期費用や消費者相談窓口、失業給付金などといった巣立ちに必要な15の知識についてのクイズでも、受講前は7.6だった正解数の平均が9.4 に向上。知識も着実に蓄積していることがわかります。

 

「自立に不安」プログラム修了後もなお7

B4Sでは、親を頼れない子どもが笑顔で暮らせるようになるためのステップを、独自のロジックモデルとして複数考案しました。巣立ちの準備では、巣立ちプロジェクトを含めたB4Sの活動で目指す初期成果として、「必要なスキル・知識の習得」「同じ境遇の仲間との交流」「初対面の大人との関係作り」といった項目を設定しています。これらの初期成果については、アンケートの結果からも成果が明らかになりました。

 

一方、 課題も見えてきました。「一人暮らしのイメージ獲得」や「巣立ちへの不安や孤独の解消」といった項目では、下記の図表の通り一定の効果が出ているものの、他の項目の伸びに比べると改善の度合いは相対的に物足りない状態です。

 

 

特に自立することへの不安については、プログラム修了後もなお69.7%の子どもが「不安」「やや不安」と回答している 実態は見過ごせません。実際に体験していないからわからないほか、きちんと自分の先行きを考えているからこそ不安になるといった見方もできますが、できる限り緩和するプログラムを考案していく必要があります。

 

 

 

 

 

子ども・ボランティア・アンケート 三位一体で模索する最適解

B4Sでは7月、巣立ちプロジェクトに参加する社会人ボランティア を対象としたワークショップを開催。アンケートで得られたデータや感想を踏まえて、プログラムの内容はもちろん、アンケートの実施方法や質問内容、社会人ボランティアの募集や研修など、あらゆる観点 から課題の改善点や成果の向上について議論しました。

例えば、 プログラムの内容では「巣立ち後に必要なスキルにコンテンツが偏っている」「大人たちの成功談や失敗談を話すことで、巣立ち後の生活にリアルを感じてもらえるのではないか」といった意見が出ました。また、ある参加者は「一部の子どもはプログラムを受講することで自立への不安が高まったようだ」と指摘。「リスクばかりを説明してしまい、怖がらせてしまっているのでは。もっと希望を持てる楽しい話をしてもいいのかもしれない」と語りました。

 

8月から始まる巣立ちプロジェクトの前に集まり、プロジェクト運営上改善できそうな点や工夫できそうなところを議論して洗い出した

 

 

 

ワークショップに参加した 社会人ボランティアの1人は、「自分自身の体験を補う客観的なデータがあったので、ボランティア同士の議論がぶれず具体的な打ち手まで想起できた」といい、「『今年はこれを改善してみようかな』という具体的な目標が見えて、心躍る瞬間もあった」と感想を寄せました。

20年近く実施してきた巣立ちプロジェクトですが、まだまだ模索は続いており改善に向けた意見も様々です。仮にその時点での最適解に行きついたと感じたとしても、社会の情勢が変化して価値観の多様化も進み、向き合う子どもたちが毎回異なるなかでは、次のステップに向けた検討が必要となります。

今回の巣立ちプロジェクトも1月に修了を迎えます。そこから得られたアンケートの結果を踏まえつつ、子どもたちの反応や表情、社会人ボランティアの声を織り交ぜて、さらに進化した巣立ちプロジェクトを模索していきます。

 

 

 

 

 

こちらもお読みください 

>>ブリッジフォースマイル社会的インパクト記事シリーズ「ジョブプラクティス」

 

社会的インパクト評価とは
https://simi.or.jp/social_impact/evaluation

内閣府 社会的インパクト評価の推進に向けて(概要)
https://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/link/shakaitekijigyou/shakaitekijigyou_04.pdf

 


巣立ちプロジェクトでは、参加する高校生たちにポイントを付与しており、社会に出る際に生活に必要なものをそれぞれ選んでポイントと交換できます。
ブリッジフォースマイルが運営する >>がんばる子どもたちを応援する寄付仲介サイト「トドクン」

 

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中谷庄吾
2023年6月にボランティア登録。
自分の子どもと仲の良い友達が児童養護施設で生活していると知ったことが、登録のきっかけでした。新聞社で培った問題意識と執筆力を活かして、親を頼れない子どもが住みやすい社会を実現する一助になれたらと思います。

Bridge for Smile

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