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児童相談所とは?「子どもの最善の利益」を目指して

「児童相談所」とは、どのようなところでしょうか?虐待事件が報道されるたびに登場し注目されるものの、どのような人たちがどのような仕事を行っているのか、あまり知られていません。関係者の間で「児相(ジソウ)」と呼ばれるこの機関、「虐待」への対応が主な業務と思われがちですが、その守備範囲はとても広く、「社会全体の子育て」に、さまざまな形で深くかかわっています。

 

1. 児童相談所とは?「子どもの権利」を守るために

 

児童相談所とは、児童福祉法が対象とする「18歳未満」の児童(子ども)について寄せられた多岐にわたる相談に対し、さまざまな専門的立場から、相談を受けた子どもと家庭(養育環境)について理解を深めつつ、その子どもにとって「最善」と考えられる支援を、地域住民や関係施設などとともに行う機関です。

 

その最大の理念は、「子どもの権利を守ること」。単に相談に応じるだけではなく、虐待など子どもの命や尊厳が奪われかねない事象や、健やかな成長に著しく支障をきたす事象に対しては、親の意志に関係なく子どもを親から引き離し一時保護するなど、強い権限を持っていることに特徴があります。

 

2. 児童相談所の役割 一時保護や親権停止など「強い権限」

 

子どもの権利を守るために、他の相談機関などと比べて非常に強い権限を持つ児童相談所ですが、具体的にはどのような役割があるのでしょうか。

 

相談対応

「児童相談所」=「虐待」のイメージが強いですが、子どもの問題行動や障害、養育上の問題など、対応している相談内容はとても多岐にわたります。詳しくは後ほどご紹介しますが、これらの相談に柔軟に対応するべく、児童相談所には、電話相談員、受付相談員の他、児童福祉司や児童心理司などの専門家が配置されています。相談内容によっては、アドバイスに留まらず専門機関への連携なども行います。

 

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一時保護

緊急度が高く、「子どもの安全を確保する必要がある」「子どもの行動を観察しながら支援の方針を立てる必要がある」と児童相談所長が判断した場合には、親の同意を得ることなく、児童相談所が一時的に子どもを保護します。虐待が疑われる場合に多いですが、児童相談所職員が警察とともにその家庭を訪れ子どもを一時保護することもあり、このような強い権限を行使することを「介入」ともいいます。

 

措置

一時保護された子どもは、一時的に親元を離れ、一時保護所と呼ばれる施設で、短期間、生活支援を受けながら暮らします。児童相談所は、この期間に調査を進め、これまでの子どもの養育環境を振り返りながら、生活を立て直すための支援策を検討します。

 

一時保護後、子どもが家庭を離れて生活した方がよいと思われる場合には、児童養護施設への入所や里親家庭への委託など、措置を行います。措置には、「親権者の同意」と「子どもの納得」の双方を得て行う必要があり、親権者の同意が得られない場合には、児童相談所は家庭裁判所に承認の審判を申し立てることができます。

 

また、「親権者の親権を停止・喪失させる」「子どもに未成年後見人を立てる」必要がある場合には、家庭裁判所へ審判請求するなど、児童相談所には子どもの権利を守るための強い権限が与えられているのです。

 

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3.児童相談所への相談内容 多岐にわたる相談と支援

 

子どもや家庭に関するさまざまな課題に対し最善の支援を行う児童相談所では、実に多岐にわたる相談を受け付けています。厚生労働省が「福祉行政報告例」などで公表している統計では、相談内容を「養護相談」「障害相談」「育成相談」「非行相談」「保健相談」「その他の相談」の6つに区分しており、「虐待相談」は、「養護相談」に含まれます。

養護相談

保護者の家出・失踪・死亡・入院などによる養育困難、虐待、養子縁組など

障害相談

言語発達・知的障害・発達障害・重症心身障害など

育成相談

家庭内のしつけ、不登校、進学適性など

非行相談

虞犯(ぐはん)行為、触法行為、問題行動のある子どもなど

保健相談

未熟児、疾患など

その他の相談

里親、いじめなど
(①〜⑤に含まれない相談)

養護相談 〝親子の絆〟つなぎ直す

養護相談は、「保護者のない児童」「保護者に監護させることが不適当」とされる「要保護児童」に関する相談で、児童相談所が対応するすべての相談の基本になると位置づけられています。

 

子どもに適切な養育が行えず、安定した成長が保障できないと判断された場合には、児童養護施設や里親家庭などの「社会的養護」やNPO法人などと連携しながら、親といっしょに、もしくは親の代わりに養育を支援します。

 

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養護相談の背景には、家庭の経済的困窮、親の疾患や障害、アルコール依存、両親の不仲やDV(ドメスティックバイオレンス)、ひとり親家庭、非血縁の親子関係、外国にルーツがあることに伴う社会的困難、住まい確保の問題など、一筋縄ではいかないさまざまな事情が複雑に絡んでいますが、このうち、児童虐待に至るケースは「虐待相談」として「他の養護相談」と区別されています。

 

養護相談への対応の基本は、「親子関係を再構築し、親子の絆をつなぎ直す」ことです。子どもの「家庭復帰」に向けた安定的な養育環境を整えるため、一時的に子どもを保護し、児童養護施設や里親家庭などの社会的養護のもとで養育しながら支援の道を探りますが、虐待の場合、事態が深刻で親子関係の再構築が難しいケースも少なくありません。そのため、虐待相談においては、子どもの安全性の観点から、従来の養護相談とは異なるアプローチが求められているのです。

 

障害相談 “告知”に難しさ

障害相談は、知的障害や発達障害などに関する相談で、かつては相談件数全体の半数を占めていました。

 

子どもの生育歴や精神発達、日常の生活状況などについて調査・診断・判定を行い、必要な援助につなぐのが目的で、「療育手帳の申請に伴う判定」「障害児入所施設への措置や利用契約に関する相談」などがあります。

 

障害福祉の制度やサービスの対象となるか判断し、その結果を本人や保護者に伝える必要があります。「障害の告知」という重い役割を担うため、「伝える側」「伝えられる側」双方に「難しさ」があり、よりていねいな説明が求められます。

 

育成相談 「家族療法的視点」を大切に

育成相談は、子どもの性格行動(犯行、緘黙、夜尿、習癖、自傷行為、家庭内暴力、集団不適応)や、不登校(ひきこもり)、適性(学業不振)、育児・しつけ(発達の遅れ、遊び)などに関する相談です。

 

その支援内容は、助言や指導が中心の比較的軽いものから、継続的なカウンセリングが必要なもの、子どもだけでなく家族など関係者も対象に含めた「家族療法的視点」が求められるものなど非常に幅広く、かつ専門性を要します。

 

育成相談を通じ、児童相談所はさまざまな相談技術や対応法を磨いてきた、ともいえます。

 

非行相談 原因に目を向け 立ち直り支援

非行相談は、万引きなどの比較的軽微なものからときには殺人などの重大事件まで、子どもの非行に関する相談です。

 

「犯罪少年」(14歳以上20歳未満)が刑事事件を起こすと、原則、家庭裁判所に送致され、少年審判を受けます(一部、検察官送致後、起訴される場合もあります)。しかし、「触法少年」(14歳未満)の場合、責任能力の観点から、殺人などの重大事件も含め警察による調査後、家庭裁判所の前に児童相談所に送致され、児童相談所が第一義的に「援助方針」を検討します。

 

少年法(第6条の7第1項)は、一定の重大事件について、児童相談所に対し、「“原則”家庭裁判所に送致しなければならない」と規定しています。このため、児童相談所が、個別の事件ごとに「児童福祉法」「少年法」のどちらで対応するのが適切か調査、検討し、家庭裁判所への送致が適当と判断して初めて、家庭裁判所が触法少年を審判できるのです(少年法第3条第2項)。

 

少年非行の刑法犯などの認知件数(触法少年も含む)は、1983年の約31万7000件をピークに2021年には10分の1に、児童相談所の非行相談件数も、1961年の6万6438件を境に、近年は4分の1まで減りました。

参考:法務省「令和4年版犯罪白書/第3編 少年非行の動向と非行少年の処遇」

 

しかし、現在でも、非行少年の中には「不適切な家庭」で育ち、結果的に非行に至るケースが少なくありません。虐待から逃れるため家出したり、空腹から万引きしたり、同じ境遇の子どもたちが繁華街に集まり問題行動を起こしたり……。非行の「原因」に目を向け、立ち直りを支援していく必要があります。

 

保健相談 子どもの健康問題に対応

保健相談は、未熟児や虚弱児、内部機能障害、小児ぜんそく、事故・けが、その他の疾患など、子どもの健康に関する相談です。問題が複雑だったり、解決が困難だったり、専門的な支援が必要とされる場合には、保健所や医療機関などとの連携も求められます。

 

その他の相談

里親、いじめなど、①〜⑤に含まれない全ての相談です。

 

厚生労働省の調査によると、児童相談所の相談対応件数は、2012年度の38万4261件に対し、2021年度は57万1961件と、10年間で1.5倍に増えています。さらにその内訳を見ると、2012年度に全体の半数近くを占めていたのは「障害相談」でしたが、近年は「虐待相談」含む「養護相談」が増加傾向にあり、相談件数の半数近くを占めるようになりました。

 

参考・引用:厚生労働省「平成24年度 福祉行政報告例の概況」
参考・引用:厚生労働省「令和3年度 福祉行政報告例の概況」

 

4.児童相談所での相談の進め方 専門的な視点から5段階で

相談を受けた後の基本的な流れは、「①情報収集」→「②アセスメント」→「③支援方針の策定」→「④経過観察」→「⑤相談終結」の大きく5段階に分けられますが、適切な支援を行うため、それぞれに重要なポイントがあります。

 

①情報収集

相談内容を整理しながら、実際に、子どもがどのような状況に置かれているのか、事実関係に基づいて把握する必要があります。一時保護した子どもを観察した内容などとともに、必要な支援について次の段階で検討するための重要な判断材料になります。

 

②アセスメント

集めた情報をもとに、問題の構造がどうなっているのか、専門的な視点から診断します。児童福祉司や児童心理司、保健師や医師といったさまざまな専門職が、それぞれ役割分担して分析した結果を会議に持ち寄り、相談者についての理解を深め、最善策を探ります。多職種連携の話し合いは一時保護前にも行い、共通認識を持ちます。一時保護した子どもを観察した内容なども判断材料になります。

 

③支援方針の策定

アセスメントの内容や議論をもとに支援方針を立て、子どもや保護者に説明し、具体的に実行していきます。在宅のまま児童相談所に通いながら指導する「通所指導」にするのか、子どもの安全を守るため親元から離れ、児童養護施設に入所したり里親家庭に委託したりする「施設措置」とするのか。支援方法を具体化します。

 

④経過観察

支援を進めていく中で、状況の変化にも目を配ります。支援が効果を生んでいるのか、取り巻く環境に新たな要素が加わっていないか。そうした経過観察を踏まえ、必要に応じて再びアセスメントを行い、支援方針を見直し、さらに経過観察を継続します。早めに、こまめに「軌道修正」を行っていくことが望ましいとされています。

 

⑤相談終結

問題が一定程度解決し、親子で順調に生活できていると判断された場合、相談が集結します。

 

 

5.児童相談所の職員 多職種連携で専門性を発揮

児童相談所は、働く人たちの顔ぶれも多様ですが、その中心となる専門職が、「児童福祉司」と「児童心理司」で、「車の両輪」に例えられます。

 

児童福祉司
児童福祉司は、子どもや家族と面接する一方、関係機関から情報を収集し、「社会診断」(社会的な調査)を進めたり、関係機関と連携して養育環境を調整したりしながら、子どもや保護者に助言を行います。「社会福祉士の資格を持つ」「児童福祉司・児童福祉施設職員の養成学校を卒業した」など、いくつかの資格要件があります。

 

児童心理司
児童心理司は、子どもや家族と面接し、心理診断やカウンセリングを行います。「大学で心理学を専修した卒業者」などの資格要件があります。

児童福祉司も児童心理司も、設置自治体の公務員採用試験を経て採用され、厚生労働省の定めたカリキュラムに沿って各自治体で人材育成しますが、近年の虐待相談対応件数の増加に鑑みて、いずれも増員を図っています。
参考:厚生労働省「令和4年度における児童福祉司・児童心理司の配置状況について」

 

このほかにも、「児童精神科医」「保健師」「弁護士」「一時保護所職員」などが関わっており、多職種連携チームが児童相談所を支えています。子どもや家族への理解を深め、必要な支援方針を立て、関係機関と適切に連携していくために求められる「専門性」は、こうした児童相談所を中心としたソーシャルワークにより担保されているのです。

 

児童相談所の人事事情 >>

 

 

6.児童相談所の現状と課題 “社会全体で子育て”を

 

急増する虐待相談などに対応するべく、国が児童相談所の増設や児童福祉の専門職の増員を進める一方、悩ましい課題も存在します。

 

急増する設置数 一部地域で〝反対〟も

児童相談所は、児童福祉法第12条に基づく「行政機関」で、全国47都道府県と20の指定都市では設置が義務化されています。そのほか、62の中核市や東京23区を含む他の地域も、個別に政令指定を受ければ設置することが可能です。

 

2013年には全国で207カ所だった児童相談所も、2022年時点で229カ所まで増設されており、国はさらなる体制強化を図っています。しかしながら、一部の地域では、住民から設置に対して反対の声が上がるケースもあり、「児童相談所」がどのような機関なのか、理解不足による〝誤解〟も少なくないようです。児童相談所が担う役割について、広く周知していくことが求められています。

 

やりがい感じるも、忙殺される日々

多種多様な問題に対し、量も質もカバーしなければならない現場の人手不足も深刻です。

 

首都圏における児童福祉司の「取り合い」の激化、採用の難航により、千葉県では2023年1月の採用試験で初めて、福祉系大学のある愛知県にも会場を設けるなど、対策を講じています。

 

また、児童相談所では、長くかかわった子どもや家族が元気に生活する様子を見聞きし、やりがいや喜びを感じる一方、“一人の人間“として、戸惑いや怒り、やるせなさ、憤慨などを抱く場面も多いのが実態です。過酷な職場環境から児童相談所職員が精神的に追い込まれてしまい、精神疾患で長期休職するケースも珍しくありません。元児童相談所職員が、残業代などの支払いを求め提訴する例も出てきています。

 

私たち一人ひとりにできること

このように、児童相談所は、急増する虐待相談をはじめとした各種対応に日々追われながら、社会的な声などを背景に目まぐるしく変化する児童福祉の政策や、国から大量に出される通知に翻弄されているのが実情です。

 

こうした中、児童相談所と他の機関との役割分担や連携方法を見直し、児童相談所がこれまで培ってきた専門性や相談対応力など本来の持ち味を最大限に生かし、発揮できる体制づくりの必要性を訴える専門家や現場関係者もたしかに存在します。

 

そもそも、児童相談所に任せきりではなく、相談の根っこにある社会的な矛盾や課題について、同じ社会に生きる私たち一人ひとりが理解し、考え、根本的な原因を減らす努力をし、“社会全体で子育て”をしていく。そんな考え方を浸透させていく必要があるのではないでしょうか。

 

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参考図書:川松亮、久保樹里、菅野道英、田﨑みどり、田中哲、長田淳子、中村みどり、浜田真樹.『日本の児童相談所 子ども家庭支援の現在・過去・未来』,明石書店,2022年9月,p.384
参考図書:青山さくら、川松亮.『ジソウのお仕事 50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所』,フェミックス, 2020年1月刊(データ改訂版第2刷:2022年1月),p.256

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