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増え続ける児童虐待 ~定義や現状を知り、発見したら“189(いちはやく)”相談を~

「児童虐待」と聞いて、あなたは、どんな状況か想像できますか?

「もしかして虐待?」。そう感じたとき、あなたは、どう行動しますか?

 

厚生労働省によると、全国225カ所の児童相談所が「児童虐待相談」として対応した件数は、2021年度(令和3年度)が20万7659件(速報値)と、31年連続で「過去最多」を更新しました。

 

なぜ、児童虐待は増え続けるのでしょう?そもそも「児童虐待」とは、どんな行為や状況を指すのでしょう?こうした疑問を解きつつ、あなたが、もし「児童虐待」と疑われる現場に直面したときにできることを一緒に考えていきましょう。

 

1. 児童虐待とは

「児童虐待」について、厚生労働省は児童虐待防止法に基づき、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト(育児放棄/怠慢・拒否)」「心理的虐待」の4つに分類し、それぞれ次のように定義しています。

*ネグレクト:一般的には「育児放棄」のこと。警察庁は「怠慢・拒否」という説明を補っています

 

◆身体的虐待

 

「身体的虐待」は、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などで一室に拘束する—などを挙げています。

 

子どもの体に傷やアザ、たばこを押しつけたようなやけどなどの痕跡が残るため、4分類の中では「最も見つけやすい」と言われています。しかし実際には、感情に任せた暴力以外にも、衣服に隠れ外からは見えない部分にだけ継続的に暴行を加える悪質なケースも多く、大けがをして病院に運ばれたり、学校や保育所などで健康診断や身体検査を受けたりした際、初めて発覚するという例も珍しくありません。

 

深刻な場合、身体に重い後遺症や障害が残ったり、恐怖が伴うため、長期間にわたり身体的虐待を受け続けた結果、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」に至ったりするケースもあります。

 

◆性的虐待

 

「性的虐待」は、子どもへの性的行為、性器を触ったり触らせたりする、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にする—などを例示しています。

 

被害に遭ったことを知られるのが恥ずかしくて誰にも相談できなかったり、画像や映像を撮影されて脅されたり、年齢が低いと被害に遭ったことを自覚・認識できなかったりし、繰り返し性的虐待を受けるなど、エスカレートしていくケースも少なくありません。

 

「性的被害者=思春期以降の女子」というイメージが強いですが、児童ポルノが拡散している影響で被害者の低年齢化が進んでいたり、明るみに出にくいですが、男子の被害も少なくないとされています。

 

性的虐待は、被害を受けた子どもの心と体の双方に深い傷を残しますが、心の傷は、大人になっても「忌まわしい記憶」として深く刻まれ、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」となり、急に記憶がよみがえる「フラッシュバック」などの形で、本人を苦しめ続ける深刻な例もあります。撮影された画像や映像がインターネット上などに公開されたり、誰かに見られたりするのではないか、との不安や恐怖に、ずっと悩まされるケースもあります。

 

◆ネグレクト

 

「ネグレクト(育児放棄/怠慢・拒否)」は、家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にしたままにする、車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない—といった行為を示しています。長時間、車の中に放置されたまま熱中症などで死に至るケースも後を絶ちません。

 

これも、発見されにくいケースですが、衣服がひどく汚れていたり、極端に元気がなさそうだったり瘦せていたり、子どもの外見的な〝異変〟から周囲が気付くこともあります。身体を物理的に拘束されていなくても、家に閉じ込められたまま放置されている場合もあり、「家族の姿は見るのに、子どもは見かけない」といった状況が続く場合は、強く疑われます。

 

◆心理的虐待

 

「心理的虐待」は、言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的な扱い、子どもの目の前で家族に暴力をふるう(面前DV=ドメスティック・バイオレンス)、きょうだいに虐待行為を行う—など、心理的な圧迫や恐怖を与える行為を挙げています。

 

「産まなければよかった」「生きている資格はない」など、子どもの尊厳を傷つける暴言を吐いたり、「できないこと」を命令し続けたり、バカにするような言葉を浴びせ続けたり。家族間の暴力や、きょうだいへの虐待も「その行為が、自分に向けられるかもしれない」「拒否したら、恐ろしいことになる」といった脅しや心理的な圧迫につながります。

参考:厚生労働省「児童虐待の定義と現状」

 

 

2. 児童虐待の現状

 

◆増加しつづける虐待件数 「心理的虐待」6割に

 

厚生労働省が公表した2021年度の速報値で見ると、虐待件数の総数は20万7659件と、31年連続で「過去最多」を更新しています。

 

割合の高い順に、心理的虐待60.1%、身体的虐待23.7%、ネグレクト(育児放棄/怠慢・拒否)15.1%、性的虐待1.1%—となっており、心理的虐待の増加件数は、前年度と比べ3388件と4つのタイプの中で最も増えていて、2021年度は初めて全体の6割を超えました。

参考:厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」

 

警察庁は、厚生労働省への通告児童数の統計で、心理的虐待のうち「面前DV」について、2012年から独自に内訳を集計しています。2012年が「5431人」だったのに対し、2021年は「4万5972人」と10年で8.5倍に急増し、全体の42.5%に達しています。「面前DV」と言うと、家族間の一方的な暴力行為と思われがちですが、双方が激しく言い争う「夫婦げんか」も「面前DV」に当たり、現場に子どもがいると「心理的虐待」と判断され、警察が児童相談所に通告する例も増えています。子どもたちに深刻な影響を与える恐れがあるという研究もあり、注意する必要があります。

 

ちなみに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「自粛」などが原因で、親子が一緒に自宅で過ごす時間が多くなったことを理由に、児童虐待の増加を不安視する声もありますが、コロナ流行以前や、緊急事態宣言などの時期とその前後とのデータの比較などから、厚生労働省も警察庁も「関連性はみられない」との見方を示しています。

参考:警察庁生活安全局少年課「令和3年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」

参考:東洋経済ONLINE『実は激増「夫婦喧嘩が児童虐待になる」衝撃事実 7年で8倍!脳にダメージ与える「面前DV」』

 

関連記事:虐待が子どもの成長に及ぼす影響>>

 

◆見えない虐待

 

厚生労働省が毎年公表している「虐待件数」とは、全国の児童相談所(2021年度は225カ所)が「児童虐待相談として対応した相談対応件数」(認知件数)をいいます。

 

児童相談所が相談を受け、「児童虐待」事案と判断して対応を協議する「援助方針会議」に諮り、在宅のまま児童相談所に通所して指導する「通所(指導)」や、児童を施設に保護するための「施設措置(措置)」などを行った件数を集計しているため、援助方針会議の対象にならなかったケースや、児童相談所が認知・把握できていない場合は「児童虐待件数」に含まれず、専門家や関係者らは「データはあくまで“氷山の一角”にすぎず、実際の件数はもっと多い」とみています。

 

特に「性的虐待」は、4分類の中で最も表面化しにくいとされ、他の3つに比べて極端に件数が低くなる傾向にありますが、実際には、もっと多くの子どもたちが、性的虐待に遭っているとみられています。

 

◆虐待死・重症事例件数

 

厚生労働省の児童虐待などに関する専門委員会が、虐待に伴う死亡・重症事例について、2020年度分を詳しく分析した結果も報告しています。

 

児童虐待に伴う死亡例(虐待死)は66例77人、その内訳は「心中以外の虐待死」は47例49人、「心中による虐待死(親が生存し、子どもが死亡した「未遂」も含む)」は19例28人、このほか重症事例は14例14人でした。「0歳」を中心に、「4歳」までの幼い子どもの被害が目立ちます。

参考:厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」資料8〜16ページ「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第18次報告)の概要」

 

◆社会的に高まる関心

 

一方、虐待件数増加の背景には、「社会的な関心の高まり」もあります。児童虐待と疑われるケースや、死に至る悲惨な事件が後を絶たず、連日の報道などで社会全体が敏感になり、通報数が増えているとみられます。

 

厚生労働省が自治体に聞き取りした調査でも、相談窓口の普及で、家族親戚・近隣知人・児童本人などからの通告が増えた、とする回答が多かったといいます。

 

 

3.なぜ児童虐待は起こるのか

 

◆「孤立」が招く「虐待」

 

なぜ、虐待が起きるのでしょう?
「家族間のストレス」や「経済的な困窮」など、さまざまな理由が挙げられますが、その根本にあるのが「孤立」です。

 

親が社会から「孤立」する。例えば—
・子育てのストレスや悩みを相談できる人が身近にいない。どうすればいいのか
・経済的に苦しい。やりくりできない。でも、助けてくれる人がいない
・祖父母など家族に介護や看護が必要な人がいて、思うように働けない
・忙しさやストレスで、心身共に疲れ切っている。頼れる人がいない

 

親自身が、社会的に弱い立場に置かれ、理不尽な扱いをされたり、差別されたりすることで、「やり場のない」怒りや悲しみ、思いなどの矛先が、子どもなど家庭内で弱い立場の人に向かいます。実際、子どもだけでなく、年齢を重ねた祖父母が虐待される例もあります。

 

一方、経済的にも裕福で安定し、社会的な立場もしっかりして、外からは「恵まれた家庭」「普通の家庭」に見えるのに、実際には、子どもがひどい児童虐待を受けている例も見られます。こうした場合も、加害者となる親が何らかの形で「孤立感」を深めているケースもあります。

 

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◆「しつけ」と称した「体罰」

 

「児童虐待」を「しつけ」だと主張するケースも、多く見られます。児童虐待防止法では、「児童虐待」を4分類に定義し「しつけ」とは一線を画していますが、それでも正しい知識が十分に伝わっているとは言えません。児童虐待と疑う周囲も、しつけを主張されると、家庭内の出来事だけに反論しづらいのも事実です。

2018年3月に目黒区で5歳の女児、2019年1月に千葉県野田市で小学4年の女児が虐待死した事件は、いずれも父親から「しつけと称した体罰」として繰り返し暴力を受けていたと報じられました。

 

「体罰」が、子どもの成長や発達に悪影響を与える研究などもあり、「しつけと称した体罰を許さない」とする世論の高まりを受け、国は2019年6月に児童福祉法などを改正し、「親権者などは児童のしつけに際して、体罰を加えてはならない」と法令に明記しました。

 

「体罰」には、「叩く」「殴る」「正座させる」など「身体的虐待」に当たるもののほか、子どもの存在を否定するような暴言を吐いたり、欠点をあげつらって笑ったりして尊厳を傷つける「心理的虐待」、罰として食事を与えないなど「ネグレクト(育児放棄/怠慢・拒否)」に相当するものも含まれます。

 

ひとり親が、交際相手や再婚相手との〝力関係〟で、「しつけ」と称した虐待に至る例もあります。一般家庭も含め、「体罰禁止」の認識を徹底することが大切です。

 

「虐待が起こる理由」と言っても、一筋縄ではいきません。そのため、先入観や思い込みで受け止めず、慎重に原因を探り、社会全体で考えていく必要があります。

 

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4.児童虐待から子どもを守る取り組み

 

児童虐待を防止するための取り組み

 

児童虐待を防ぐ取り組みは、年々強化されています。「児童福祉法」「児童買春・児童ポルノ禁止法」「学校教育法」といった子供を守る法律に加え、2000年に「児童虐待防止法」が制定されました。この法律は1933年(昭和8年)に制定されたことがありましたが、1947年(昭和22年)に児童福祉法ができた際に内容が引き継がれ、いったん廃止されています。しかし、1990年以降、児童虐待の相談対応件数が増加の一途をたどるなどの社会的事情を踏まえ、あらためて制定されました。
参考:厚生労働省「児童虐待防止対策」

 

|出産前後 親や家庭へのケアに重点

 

児童虐待を防ぐためには、そもそも児童虐待を引き起こす原因に目を向け、「予防」することが必要です。

 

親が子どもを虐待するには、動機や理由となる原因があり、それを取り除くため、親や家族、家庭を支援する必要がある、という考え方です。

 

児童虐待の多くは、乳幼児期に重なり、子育ての初期に当たります。「加害者」が「実母」である割合が高く、妊娠や出産、育児期のストレスが大きく影響するとされています。

 

実際、厚生労働省によると、心中以外で虐待死に至ったケース(47例49人)では、主な加害者は「実母」が59.2%を占め、加害の動機(複数回答)も「子どもの世話・養育をする余裕がない」が10.2%、「泣きやまないことにいらだったため」が8.2%となっています。さらに、妊娠期・周産期の問題(複数回答)として、「妊婦健康診査未受診」が38.8%、「予期しない妊娠/計画していない妊娠」が28.6%、乳幼児健診を受診しない例も目立ち、養育者(実母)の心理的・精神的問題などでは、「養育能力の低さ」「育児不安」が各30.6%で、合わせて6割を超えています。

参考:厚生労働省「令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」資料9ページ「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第18次報告)の概要」から抜粋

 

このため、産前産後に心身の不調や悩みを一人で抱え込まないようにしたり、必要な時に周囲の支えが得られるような相談体制を構築したりすることが大切です。国は「子育て世代包括支援センター」を設置し、妊娠期から子育て期までの相談支援に力を入れています。具体的な支援事業として、「乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)」「養育支援訪問事業」「地域子育て支援事業」に取り組んでいます。

 

 

|「社会全体で子育てする」考え方広めよう

 

子育て中の親たちが家庭内で孤立しないよう、「社会全体で子育てする」という考え方を広めていくことも大切です。

 

厚労省は、毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と定め、児童虐待の防止に向け、さまざまな広報・啓発活動に取り組んでいます。「子どもの虐待防止推進全国フォーラム」を開催する一方、「児童虐待の防止」と「虐待を受けた子どもが幸せになれるように」との祈りを込めた「オレンジ・リボン運動」を全国展開しています。

 

私たち認定NPO法人ブリッジフォースマイルでも、児童虐待などで「親を頼れず苦しんでいる子どもたち」がいることを多くの人たちに知ってもらうため、児童虐待の経験者らが体験談を交えてスピーチし、社会に向けて解決策を訴える啓発イベント「コエール」を毎年7月に開くなど、啓発活動にも力を入れています。

 

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児童虐待を早期に発見するための取り組み

 

|〝閉ざされた空間〟から救い出すために

 

「家族」や「家庭」という言葉に、明るく、前向きで「ポジティブ(肯定的)」なイメージを持つ人が少なくないかもしれません。しかし、児童虐待の経験者の多くは、暗く、後ろ向きで「ネガティブ(否定的)」なものとしてとらえています。

 

なぜなら、児童虐待の多くが「家族間」「家庭内」で起き、外の世界には知られず、まさに〝水面下〟の閉ざされた空間での絶望的な出来事として続くからです。

では、「虐待を受けている子ども」や、「支援を必要とする家庭」を発見するため、社会として、どんな取り組みがあるのでしょうか。

 

身近な場所で子どもや妊産婦を支援する福祉事業として、市区町村に「子ども家庭総合支援拠点」を置くよう、厚労省が推進しています。子ども・家庭・妊産婦などを対象に、どんな状況にあるのか、実情を把握し、通所・在宅支援を中心に、相談・調査・訪問といったソーシャルワーク業務を継続的に行うことを狙いとしています。

 

さらに近年、各地で取り組みが広がる「子ども食堂」も、訪れる子どもの中に虐待を受けているケースがいないか発見する上で、重要な役割が期待されています。

 

5.児童虐待かもと感じたら189(いちはやく)にすぐに連絡を

 

しかし、こうした地道な取り組みだけで、すべての児童虐待を把握し、対応していくのは非常に難しいのも事実です。

 

このため、虐待児童が疑われる家族や家庭の近所に住んでいたり、子どもなどを通じてつきあいがあったりする「親族」「近隣住民」「知人」などからの相談や通報といった情報提供が重要になってきます。

 

◆あなたの声が大事な「端緒」に。「虐待かも」と思ったら「189(いちはやく)」

 

管轄の児童相談所へ「より早く」「スムーズに」相談するための方法として、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」が設置されています。

 

189(いちはやく)には次のような特徴があります。
・市内局番なしで「189」にかけると、最寄りの児童相談所につながる
・通告・相談は、匿名でも行うことができる
・通告・相談した人の身元や内容について、秘密は守られる
・通話は無料、24時間対応

 

どんなときに、電話すればいいのでしょうか?
・「あの子、もしかしたら、虐待を受けているのかも…」
・「子育てがつらくて、つい子どもに当たり散らしてしまう…」
・「近所に、子育てに悩んでいる人がいる…」

 

「迷ったら、まず相談してみる」。そういう姿勢が大切です。「素人」の手に負える問題ではありません。専門家に委ねるためにも、まずは調べるための「きっかけ」が必要です。実際、周囲の通告・相談が、児童虐待を把握する重要な端緒になっています。

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