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子育てにおける体罰と懲戒権
コラム【親の責任と役割(1)】画像

子どもを虐待する親がしばしば口にする言い訳が「しつけのつもり」です。

人が人に暴力をふるうことは、どのような関係性においても許されないことのはずですが、親が子どもに「体罰」を与えることは、「しつけのために必要なこと」として、広く容認されてきました。

 

◆約6割の人がしつけのための体罰を容認

国際的な子ども支援団体「セーブ・ザ・チルドレン」が2017年に国内で行った意識調査によれば、しつけのための体罰を「積極的にすべき」が1.2%、「必要に応じてすべき」が16.3%。「他に手段がないと思った時のみすべき」の39.3%とあわせて計56.8%が体罰を容認し、「決してすべきではない」は43.3%にとどまりました。「決してすべきではない」と答えた人のなかでも、お尻をたたく・手の甲をたたくなどの〝軽い〟罰や、怒鳴りつける・にらみつけるなど子どもの心を傷つける罰は容認する人がおり、実際に子育て中の家庭の70.1%では、しつけのためとして何らかの罰が用いられたことがありました。

 

学校などの教育現場でも体罰はしばしば行われてきましたが、教育現場ではたいていの場合目撃者がおり、体罰を受けた子どもの親が抗議する例も多いことから問題が表面化しやすいと言えます。学校教育法にも体罰の禁止が明記されており、体罰を受けた子どもの自殺事件などをきっかけに、近年では教育現場での体罰は減少しているようです。

一方、家庭は一種の密室であり、また子どもにしつけを行うことは、親の当然の役割だと考えられてきました。民法には、親(親権を行う者)は「監護及び教育に必要な範囲でその子を懲戒することができる」として、親が子を懲戒する(こらしめる)「懲戒権」が定められており、これが、親による体罰を正当化する根拠ともなっています。そのため、子どもの悲鳴が聞こえたり、体に傷があったりして虐待が疑われても、親が「しつけをしているだけ」と主張すれば、子どもの様子がよほど切迫したものでない限り、外部からは踏み込みにくい状況が続いてきたのです。

 

◆「しつけは親の責任」という価値観

親の役割の大きさが、同時に親に対するプレッシャーとなってきた面にも注意が必要です。

親が子どもを正しくしつけるべきだということは、裏を返せば、子どもに問題があるのは親の責任だ、ということになります。そうした価値観に支配された結果、世間に後ろ指をさされまいとして、必要以上に子どもに厳しくしてしまう親もいます。時にはそれが虐待にまでエスカレートしてしまうことがあるのです。

 

状況を大きく変えたのは、「しつけ」を名目とした虐待事件の急増、とりわけ2019年1月に千葉県野田市で起きた10歳の少女の虐待死事件でした。少女が父親からの暴力を訴えたアンケート用紙が父親に渡されてしまうなど関係機関の対応のまずさもあって、「しつけのつもりだった」と言い張る父親の常軌を逸した暴力が広く知られることになり、家庭での体罰を禁止する機運が一気に盛り上がったのです。

 

◆子育てにおける体罰は禁止に

その結果、2019年6月に「親権を行う者は児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」と親による体罰禁止を明記した改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立し、2020年4月に施行されました。施行に際して厚生労働省が策定した「体罰禁止ガイドライン」では、殴る・蹴るなどの身体的な罰だけでなく、暴言や食事を与えないなどの罰も体罰に当たると定義。体罰は子どもの成長に悪影響をもたらすだけで教育上決して良い効果は得られないのであり、体罰によらない子育てこそが大切であることを説いています。

 

また、上記の改正法施行から2年を目処に、民法が定める懲戒権について検討することも決まりました。2021年春現在、法制審議会で、懲戒権の規定を削除する案や、削除はせず文言を修正する案、体罰禁止の規定を追加する案など、さまざまな考え方が検討されています。

体罰を容認する風潮が完全に払しょくされるには、時間がかかります。体罰によらない子育ての大切さを、少しでも早く、少しでも多くの人に理解してもらうための啓発活動が急がれます。

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