ニュース・活動報告

【キャリア支援】 日本オラクル株式会社によるキャリア支援プロジェクト

◆なぜ今、社会的養護出身者にキャリア支援が必要か

社会的養護出身の子どもたちは、社会で働くために必要な職業観を身につけるにあたって不利な状況に置かれていることが少なくありません。例えば、家庭で親が働く姿や様子を見聞きする機会が少なく、身近な社会人が施設職員などに限られたり、親からの経済的支援がないために、手っ取り早く給料の良い仕事を選んでしまったりすることがあります。給料以外の働く環境を考慮せずに、また自分の得意不得意を知らずにミスマッチな仕事に就いてしまうと、早期離職につながりやすくなります。

 

ブリッジフォースマイルでは、施設出身の子どもたちが社会にどのような仕事があるのかを知り、自分がしたい仕事、自分に合った仕事はどんなものなのかをしっかり考えられるよう、キャリア支援がとても大切であると考えています。同時に、日々のアルバイトで生活費を賄う子どもたちが、生活費の心配なく就職活動に臨めるような、経済的な支援も必要です。

 

こうした背景を受け、2018に日本オラクルとブリッジフォースマイルが協働して立ち上げたのが、日本オラクルキャリア支援プロジェクトです。

 

◆日本オラクルキャリア支援プロジェクトとは

IT系の企業で働くことを視野に入れながら勉強をしている社会的養護出身の子どもたちを応援するためのプロジェクトです。対象は大学・専門学校でIT系分野を専門に学ぶ施設・里親出身の学生です。彼らがIT企業での仕事を理解し、自分に合ったキャリアをイメージして就職活動に臨めるようにサポートすることを目的としています。

 

本プロジェクトは、①ジョブシャドウイング、②キャリアセッション、③奨学金の提供、の3つから構成されます。

 

①ジョブシャドウイングとは

学生自身が実際に仕事をしてみるインターンとは違い、仕事をしている社員に「影」のように寄り添い、仕事内容や職場を観察することです。学生にとって仕事を肌身で感じられるだけでなく、IT業界の最前線で働く社員がロールモデルとなって、自分のキャリアを考える貴重な機会となっています。本プロジェクトでは、参加する学生に事前に興味のある仕事をヒアリングし、なるべく希望に近い部門で体験できるように配慮していただいています。

 

②キャリアセッションとは

学生が感じている就職についての疑問や不安などに対し、社員の方からアドバイスをいただく就職サポート面談です。学生は複数の社員にマンツーマンでじっくりキャリア相談をすることができます。コロナ禍で会社でのジョブシャドウイングが難しくなったことをきっかけに、2020年から実施。ジョブシャドウイング再開後も継続しており、今年で3回目をむかえます。

 

③奨学金の提供

本プロジェクトに参加する学生に、就職活動を応援するために給付される奨学金です。社会的養護出身者には実家というセーフティネットがなく、アルバイトに精を出している学生も多くいます。就職活動期間はアルバイトを控えじっくりキャリアを考えられるようにすることや、新しいパソコンの購入費などスキルアップのためのツールを得られるようにすることがねらいです。

 

◆日本オラクルご担当者様の声(ソーシャルインパクトチーム 川向様)

日本オラクルでは、支援先のNPOとの対話を大事にしたいと常に考えています。支援対象者のニーズを最もよく知っている人たちと対話をしながら、オラクルとして何ができるか、一緒にアイデアを出し合います。ブリッジフォースマイルとも対話を重ねるうちに、社会的養護出身の子どもたちに必要なものが変わってきていることがわかりました。以前に比べ近年は公的な奨学金が整い、少なくとも最低限の学費はカバーされるようになりましたが、依然としてアルバイトで生活費を稼ぐ必要があり、就職面接やジョブフェアなどに行くと生活が厳しくなるのが現状です。また、就職しても、コミュニケーションの問題や、思っていた仕事と違うということで踏みとどまれず、ドロップアウトしてしまう場合も多いと聞きました。

 

こうした課題に対してはいろいろな解決方法があると思いますが、もし学生が「自分はこれをやりたい」というものが明確であれば、たとえ就職した会社が合わなかったとしても、同じ業界の違う会社でやっていけるなど、その後のキャリアの進め方がより堅固になるのではないかと考えました。

 

そこで、本プログラムでは、子どもたちに奨学金を渡すだけではなく、アメリカではポピュラーな職業体験であるジョブシャドウイングを組み合わせることにしました。また日本オラクルはIT企業ですし、社員がボランティアとして貢献できるのもこの分野なので、プログラムの対象をIT企業で働くことを視野に勉強をしている学生としました。プログラムへの参加を通して、リアルにIT企業で働くイメージをつかんでもらいたい、こうすればIT企業で働けるんだと思ってもらいたいと考えています。

 

◆ジョブシャドウイングにボランティア参加してくださった日本オラクル社員様の声(和田様)

自分自身を振り返ると、学生時代の世界は狭かったと思います。社会人がどう働いているかも全然知らず、入社してびっくりということはたくさんあります。ジョブシャドウイングで、なんだか面白い大人がいると垣間見られただけでも学生にとっては財産になるかもしれないし、そういうことで少しでも貢献できたらと考えています。また、普段仕事では接点のない、いろいろな価値観や視点をもつ人と出会えて刺激を受けたり、純粋に楽しいということで、ボランティアに参加すること自体に意義があると感じています。

 

◆2022年度の実施報告

今年は9月7日に①ジョブシャドウイングが、9月28日~10月20日に②キャリアセッションが実施され、それぞれ各5人、のべ10人の学生が参加しました。

奨学生からのレポートの一部をご紹介します。どの奨学生も、社員さんたちがやりがいをもって生き生きと働いていることに刺激を受け、仕事や就職活動への意識や意欲が高まったり、自分がどんなキャリアや人生を生きていきたいかの指針についても、ヒントを得たようです。

 

 

仕事やキャリアのイメージがわいた

  • こういった仕事や働き方があるのだ、ということを感じ、将来の仕事の選択肢が増えました。(セピ)
  • コロナ禍ならではの出社スタイルや、ミーティング方法など、メディアでしか見たことのなかった環境を実際に見ることで、不安だった就職活動の安心材料になりました。(やまなつ)

 

仕事で大切なこと・必要なことが色々あると知った

  • あらゆる情報にたいし敏感で常にアンテナを張っていることが成長につながるのだと思いました。(ぶちお)
  • また、社員の方々は違う部署であっても多くの繋がりを持っており、さらに新たな繋がりを積極的に持とうとしているように感じた。このような繋がりが多様な価値観や知見を獲得すること、さらには仕事の幅を広げることにも繋がるのだと感じた。(かずき)

 

社会人・社員さんへのリスペクトや憧れ

  • 社員の皆さんは、仕事に自信や誇りをもっているという風に感じ、ハキハキと目見て話す姿勢や、落ち着いた姿勢から社会人のすごさを感じました。(ぶちお)
  • 自分たちの仕事でどのようにクライアントさんの課題解決になるのか、様々な技術や知識を組み合わせて解決していこうとしているところに強く惹かれた。(ヒロト)

 

仕事のやりがいが伝わってきた

  • 仕事は誰を幸せにする。そういったことが、やりがいだそうで、素敵な考えを共有していただけました。私もそんな風に仕事に向き合いたいと考えました。(ぶちお)
  • どの社員の方も、自らのお仕事をとても楽しいものだと捉えており、生き生きとしてお仕事に臨んでおられているように感じた。(かずき)

 

自分もこうなりたい!ができた

  • 自己研鑽の行い方、人間関係の広げ方や保ち方、さらには仕事に臨む際の姿勢などを参考にすることで、業務に必要な能力を身に付け、社内の人間やクライアントとの良好な関係を築くことや、モチベーションを維持し中長期的な自己成長、社会貢献を行うことに活かしていきたい。(かずき)
  • 異文化の場面にいるときに、相互理解や相手の国のちょっとした言葉、どのような生活模様なのかなど、更に意識をして関わっていきたいです。(セピ)

 

仕事に向けて、勉強への関心や意欲がわいた

  • 現在は大学で学ぶ内容とは別に、WEBデザインに関して興味が湧いているため、就職に使うか使わないかは考えずにとりあえず勉強してみようと思いました。(やまなつ)
  • 他のチームの人たちとのやりとりやミーティングを見て、楽しいと感じ、更に知識を増やしたいとな感じるようになりました。 (セピ)
  • 将来の自分を実現することができるように今ある長い時間をかけて必要な能力を培っていきたいと思いました。(まあく)

 

自分に合う仕事・職場を選ぶ大切さを意識した

  • どのようなものを軸に仕事をさがし、選ぶのか、どのような事を軸に据えて生きていくと良いのかまで担当の社員さんと話すことができました。(ヒロト)
  • 社員さんの考えを聞いたりしたときに、雰囲気が素敵だと感じました。仕事を決める際に、仕事の内容や将来も大切ですが、会社の雰囲気が1番の重要なポイントだと私は考えます。 (セピ)

 

ジョブシャドウイングの良さ

  • 自分の手を動かすインターンとは違い、聞き手に回って知りたいことをピンポイントで社員さんに質問できる点がいいなと感じました。(やまなつ)
  • 〇〇(社員)さんとのジョブシャドウィングは非常に興味深く、得られるものの多いジョブシャドウィングでした。すごく感謝しています。(ヒロト)

 

◆今後の展望(B4Sキャリア支援プロジェクト担当)

B4Sは2011年から2017年にかけて独自の奨学金支援を行うなど、進学の入り口部分を応援してきました。公的な奨学金が充実してくる中、今度は出口部分、つまり、卒業前後のサポートができるといいなという思いがありました。

日本オラクルの川向様は、現場や子どもたちの事情を汲みつつも、我々が思い浮かばなかったようなアイデアをたくさんくださいます。

少し難しいチャレンジも、社員様を巻き込んで、実現させてしまう。これほど強力な方にサポートいただけるのは幸運でしかありません。

川向様とは、このキャリア支援プロジェクトを他の業界でも横展開できるといいねという話をしています。今後さらに求められていくプロジェクトだと感じています。

 

 


取材・執筆 かおるん

2022年4月にサポーター登録。心理士。

 

安心して話せる人がいる。安心していられる場所がある。子どもがそう感じられる社会になって欲しいなと思って、B4Sでボランティアをしています。

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