ニュース・活動報告
「コエール2021※」にイルミネーター(自身の経験や思いを通じて社会に向けて発信する若者)として登壇した「きてぃ子」。ブリッジフォースマイル(B4S)との付き合いは、15年近くになります。B4S広報誌「Smile!」のインタビューを受けたり、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」のB4S発信チームに加わったり、どんな思いで活動に参加しているのか、聞いてみました。
■出会いは「巣立ちプロジェクト」
「信頼されている」感じ、うれしかった
B4Sとの出会いは、17歳のころ。2009~2010年の「巣立ちプロジェクト」に参加したのが、きっかけでした。入所先の児童養護施設の先生に「自立に役立つから」と勧められました。「自分一人で自立していく」。そのため、本当に必要なことを一つ一つ体験できて、楽しかったです。ほかの施設の高校生と接する機会を持つこと自体、まだ珍しいころで、それも新鮮でした。
当時はプロジェクトのセミナーで調理実習があって、実際に料理も作りました。すごい量の豚汁にすごい量の生姜を入れて、「ほぼ生姜の味噌汁」みたいな、とんでもないものを作る人もいました。施設では事故防止のため、包丁は鍵のかかる場所で管理され、「包丁を手に、自分で刺身を作る」時は、施設の人が一緒でした。だけど、巣立ちプロジェクトでは自由に調理をさせてもらえました。
施設では、どうしても、いろんな制限があって、例えば、恋愛の話なんかもできません。「恋人のいない人が、かわいそうでしょう」みたいに。携帯電話も使う場所が必ず決まっていました。ところが、巣立ちプロジェクトでは、「一人の大人」として「信頼されている」感じがとてもうれしかったですね。でも、参加者同士で連絡先は交換しないとか、そういうルールは、しっかり守っていましたよ。
あのころ、18歳で施設を退所した後、どうすればいいのか、何を準備すればいいのか、全くわかりませんでした。18歳になったら強制的に施設を出なきゃいけないみたいな感じだったから、自立のために、いろんなことを教えてもらえるのは、とてもありがたかったです。
■「夢を追えなかった」 18歳のころの自分
18歳のころは「早く大人になりたい」というより、「早く大人にならなきゃいけない」と、何か、せき立てられる感じでしたね。施設の人からも「もう来年は(施設に)いないんだから」とか、「18歳なんだから、甘えてないで」とか、「自分で何でもするしかないよ」って、よく言われていました。
だから「後がないんだ」って、すごく漠然とした不安がいつもあって。私は、もともと(母や兄から虐待を受けた)「虐待サバイバー」で、「戻る場所はないんだ」「私に帰る家はない」みたいな心境だったので、何が自分に向いているのか全然わからないまま、コンビニエンスストアでアルバイトをしていました。
施設にいたころは、夢を持ったり語ったりできる雰囲気ではありませんでした。例えば、モデルをやりたいとか、舞台に立ちたいとか。それよりも、まずは「生活基盤をどうするの」って。奨学金は、夢のまた夢。当時はまだ「貸付型」が主流で、結局、将来の自分への「借金」になってしまいます。何より、虐待サバイバーの私には「保証人」欄に、署名をしてくれる親がいません。施設も「保証人にならない」方針でしたし。「カナエール※」も、まだ始まる前でした。なので、大学も専門学校も、進学は諦めざるを得ませんでした。
でも、B4Sで、えりほ(代表林のニックネーム)に会って、「何か、やりたいことがあったら、やればいいじゃん」って言われて、初めて「夢を持っていいんだ」みたいに思えるようになりました。
もし大学に行けるなら、法律を勉強して弁護士になりたかったし、専門学校なら理学療法士か、作業療法士になりたいなって。B4Sに出会う前ですが、一時、「専門学校なら進学できるかも」と真剣に考えた時期がありました。高校2年生の冬休み、学校説明会に参加し、校内を見学し、頭の中でいろいろシミュレーションをしてみたけれど、進学費用などを考えると、今のバイト代じゃ、やっぱり難しいなって気づいて。その時は本当に落ち込みましたよね。17歳の自分にとっては、すごくつらかったです。
もう一つ。私、「ギャル」になりたかったんです。バイトやって、好きに爪とかネイリングして、思い切りケバく化粧して、朝まで飲んで、ワーってね。普通に、そういう生活をしたかった。「もうちょっと、自由に生きたかった」っていうのが、ずっとあって、だから、海外に行きたいなとか、留学してみたいなっていうのもありました。
■AOKIさんのスーツ 「うれしさ」かみしめ、今も大切に
18歳の時の一番の思い出は、やっぱり「スーツ」かな。B4Sを通じて「AOKI」さんからいただいたスーツ。東京・新宿西口のお店に試着に行ったら、「お待ちしておりました」って。お姫様みたいな気分でした。18歳のみすぼらしい私が、きちんとした対応をしてもらって。今でも覚えているのは「こちらから、こちらまで、好きなものを1着選んでください」って言われ、ブラウスも選んで、これで終わりかな、と思ったら、「ブリッジフォースマイル様からは『一式』と言われていますので」って、靴とかばんも選んでもらって。もう、すごくうれしかったよね。そんなことって、今までに経験したことがなかったから。
私たちは、使えるお金が決まっていて、スーツみたいに、限られた時にしか着ない服にお金をかけるのって、真っ先に省いちゃうことだったから。
今でも、そのスーツは大切に着ていますよ。職業訓練校(職業能力開発センター)の卒業式でも着たし、就職の時も「このスーツで面接に行くと、絶対受かるから大丈夫」って、いつも思っていました。私の「勝負服」です。
児童養護施設にいると、化粧品やケーキ、映画や野球観戦の招待券など、いろいろいただく機会があります。でも、形に残り、ずっと使い続けられるものって、なかったんです。AOKIさんのスーツは、ずっと「残る形」で、今も使い続けています。
「形に残る」という意味では、巣立ちプロジェクトを卒業した時にいただいた「寄せ書き」も大切にしています。ボランティアさんや事務局スタッフのみなさんが、写真と寄せ書きで手作りしてくれて。私、施設を卒業する時、担当者の引き継ぎがうまくできていなくて、自分の写真アルバム、持っていないんですよね。だから、この寄せ書きは、18歳のころの大切な思い出。「形として残してくれる」って、本当にうれしいですよね。
■「当事者発信」に「新たな夢」 試行錯誤は続く
B4Sって最初、ちょっとあやしい団体なのかなって。施設でボランティア活動をするNPOって、大きな法人が運営しているのが普通だったので、B4Sが「一団体で活動しています」って来た時は、「ここ、本当に大丈夫なのかな」って、子どもながらに思ってました、実は。
巣立ちプロジェクトを卒業した後も、いろいろ声を掛けてもらって、お付き合いが続いています。職業訓練校を卒業後に「焼き付け塗装」の仕事をしていた時は、えりほに頼まれて「よこはまPort For」(居場所事業、横浜市)の壁を、ペンキで黄色く塗りに行ったこともありました。「Smile!」のインタビューを受けて掲載してもらった時も、うれしかったな。巣立ちプロジェクトのOB・OG会に「卒業生」として参加した時は、インタビューに答えながら体験談を話したり、子どもたちのグループワークに加わったり。
いろいろな団体の活動に参加して感じるのは、えりほの見てる世界って、すごく現実的な部分があって、だからこそ、B4Sは子どもたちの夢をかなえられる、かなえてくれるところなのかなって思うんです。えりほ自身は、社会的養護の「当事者」ではないけど、それが、かえっていいのかも。当事者団体の中には、当事者だからこそ、その気持ちが強すぎて、他の社会的養護の人同士、例えば「子供のころから社会的養護を受けている人」と「虐待を受けて中学生から児童養護施設に入所した人」が、なぜか交わらない、みたいなのを見ているので。
B4Sは、「カナエール」や「コエール」のように「当事者発信」を始めて、少し変わってきたと思います。当事者発信を通じ、自分だけではなく、同じように悩んだ人たちがいることを知り、友達にも出会い、「独りじゃない」とわかりました。だから、「当事者発信」は、すごくいいことだと思っています。でも、リスクも高いから、その点は少し心配です。いろんな受け止め方をする人や、憶測で発言する人がいて、伝えたかったことが届かなかったり、誤解されたり、誤った解釈をされたり。
私は25〜26歳のころから「当事者発信」をやりたいなと思い始め、27歳くらいからSNSのFacebookなどで徐々に自分の思いを発信するようになりました。「当事者発信」をする人はまだまだ少ないけれど、大事だと思います。すぐ隣にいる人が裕福に見えて、実は外見だけで、家に帰ったらひどい虐待をしているかもしれない。すごく身近なところでSOSを出している人とか、実はいっぱいいるんだよ、とか。そういうことって、当事者の「生の声」や「事実」じゃないと、やっぱりわかってもらえないのかな、と感じます。
昨年の秋ごろから、コエールのイルミネーター経験者とTikTokで、B4Sの当事者発信を始めました。どうしたら、多くの人に伝わるか、試行錯誤が続いています。
私自身は今、「介護福祉士」と「サービス管理責任者」の資格を取って、障害者福祉サービスを行っている施設で、管理者を務めています。もっと根本的なところから、しっかり学び直したいなと思い、「精神保健福祉士」の資格も取りたいなと考えています。
18歳のころ、思うように学べなかったけど、その分、31歳になった今、学び直している感じですね。
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