ニュース・活動報告
B4Sが法人として活動を始めてから約17年。次第に社会的養護から巣立つ若者たちに対する支援の枠組みが充実してきた一方で、今後の課題も残されています。
自治体や施設によって差があるものの、奨学金や住居費・生活費支援といった金銭面の支援は拡充される傾向にあり、専任のアフターケア担当者の設置や個人ごとの支援計画の作成といった退所後の生活を見守る取り組みも広がりつつあります。
以前に比べれば、社会に巣立つ若者たちへのサポートは充実してきていると言えるでしょう。
◆退所後に立ちはだかる精神面のトラブル
充実してきたとはいえ、まだまだ課題はたくさんあります。例えば、精神面での手当が取り残されていることもそのひとつです。虐待など、トラウマを抱えるような経験をしてきた退所者の中には、退所後の生活の中でフラッシュバックを起こしたりして、日常生活を送ることが困難になってしまう人もいます。しかし、そうしたトラブルを抱えた退所者に対するメンタルケアは、まだ十分とは言えません。
退所者の多くは健康に生活を送っていますが、精神面の問題をきっかけに行き詰まってしまう者も珍しい存在ではありません。ブリッジフォースマイルが実施した「全国児童養護施設退所者トラッキング調査2021」では、高校卒業後に進学した若者の27.1%が、卒業後2年3カ月のうちに学校を中退しており、中退の理由(複数回答)は「学習意欲低下」が最多で57.3%、次いで「メンタル不調」が43.9%となっています。「経済問題」も17.1%ありますが、相対的に精神面の影響が大きくなっていることが読み取れます。
◆退所者のメンタルケアの課題と行政の動向
メンタル不調を抱えた退所者が、適切なメンタルケアを受けられず、追い込まれてしまう原因はどこにあるのでしょうか。現在の支援体制では、退所前と退所後の両方に課題があると考えられます。
例えば、施設に入所している間、施設職員が子どもの状態を見て通院やカウンセリングが必要と考えても、親権者が反対して治療を受けられないことがあります。児童相談所には、入所中の子どもが定期的に児相所属のカウンセラーと面談する仕組みはあります。しかし、親権者が精神科への通院や、服薬への偏見や抵抗感を持っていると、継続的な治療は困難になります。
仮に児相でカウンセリングを受けていたとしても、退所後は児相所属のカウンセラーとの面談はできなくなるため、退所者は精神医療とのつながりを失ってしまいます。そのため、メンタルケアを受けている子どもは、入所中に退所後も利用可能な地域の精神医療につなげておく必要があります。
退所後は、困った時に頼れる人が身近におらず、一人で悩みを抱え込んで、メンタル不調を深刻化させてしまう退所者が少なくありません。退所者が自分でカウンセリングを受けようと思っても、保険適用外になることが多く、1時間当たり5,000円~10,000円ほどの費用を、自力で継続的に支払っていくことは極めて困難です。また、精神医療やカウンセリングの通院経験がない場合は、適切な医療機関やカウンセラーを探すことのハードルも高いと考えられます。
最近は、こうした課題が、退所者自身や施設職員、支援機関などの間で徐々に語られるようになり、行政も新たな取り組みを始めました。厚生労働省の社会的養護自立支援事業では、今年度から、自治体の委託を受けた自立支援機関が、退所者からの相談を受けるために医師やカウンセラーを配置した場合、費用の一部を補助するメニュー(医療連携支援)を追加しています。これにより、退所者が心身のトラブルを抱えた時、支援機関の医師やカウンセラーがまず相談を受け、必要に応じて適切な医療機関を紹介するという体制を構築しやすくなりました。通院が必要になった場合の医療費そのものを肩代わりする訳ではありませんが、退所者がメンタルヘルスに不安を感じた時、早い段階で相談することができれば、結果として退所者の生活への影響や医療費の負担を少なく抑えることができると考えられます。
◆B4Sの取り組みと今後の展望
こうした行政の動きを受けて、B4Sも活動の幅を広げつつあります。
B4Sでは、これまでも、退所者が抱えるさまざまなトラブルに応じて、弁護士への相談など、専門家の手助けを借りた支援を行ってきました。今年度は熊本県で、社会的養護自立支援事業の委託を受け、新たにメンタル面の相談を受ける体制を整備する予定です。居場所事業や個別支援を通じた日常的に相談できる関係づくりと、大きなトラブルを抱えた時に相談できる専門家との橋渡し、この両者で退所者を支援していきます。
こうした新たな制度の恩恵を退所者に届けるには、自治体や支援機関が体制を整え、退所者にも制度の存在を知ってもらうことが必要です。行政の積極的な退所者への支援方針は、退所者はもちろんのこと、支援者にとってもメンタルケアへのハードルを引き下げています。各地で退所者の精神面を専門的にサポートするための模索が広がり、モデルケースが次々と出てくることが期待されます。そして、近い将来、このような取り組みがすべての自治体で当たり前に実施されるようになることが、社会で退所者を支えていくために必要ではないでしょうか。B4Sも、支援機関の一つとして、できることに着実に取り組んでいきます。
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