ニュース・活動報告

児童養護施設や里親家庭からの巣立ち後を見守る「自立ナビゲーション」

 

■自立ナビとは

自立ナビゲーション(通称「自立ナビ」)は、児童養護施設や里親家庭を離れ、社会に巣立っていく若者に、社会人ボランティアがマンツーマンで伴走するプログラムです。退所者からブリッジフォースマイル(B4S)に個人的な相談が寄せられるようになったことをきっかけとして、団体設立から4年目の2008年に開始されました。

児童養護施設等で暮らしていた若者が18歳になり一人で社会に出た直後の1~2年は、人にもよりますが、「寂しい」「困った」「不安だ」「わからない」「辛い」「怖い」・・・などがいっぱいです。このため、児童養護施設等を退所した若者が、社会から孤立することなく安心して生活できるよう、特に環境変化が大きい初めの2年間をサポートすることが自立ナビの狙いです。

自立ナビでは、児童養護施設等を離れた若者(「ルーキー」と呼びます)一人ひとりに専任の「自立ナビゲーター」(社会人ボランティア)が付き、社会人の先輩として見守り、必要に応じて手助けをします。自立ナビゲーターは定期的にルーキーと面談の機会を設け、近況報告や生活、仕事の中で生じる不安・悩みの聞き役になるほか、メールや電話でもコミュニケーションを取っています。

 

■きめ細かな自立ナビの活動準備

自立ナビに参加するルーキーの多くは、B4Sが実施する「巣立ちプロジェクト」(※1)の参加者です。一方、自立ナビゲーターを務めるのは、定められた研修を受講した社会人ボランティアです。B4S事務局は、ルーキーの希望や個性、社会人ボランティアの特性を踏まえてマッチングを行い、自立ナビのペアを決定しています。

自立ナビの活動開始に当たっては、B4S事務局のスタッフと社会人ボランティアが共にルーキーの出身施設等を訪問し、ルーキーの人となりやこれまでの生活のことを施設職員の方や里親さんと共有しています。施設等の訪問は、B4S事務局や社会人ボランティアがルーキーをよりよく理解し、適切なコミュニケーションの取り方を考えていくための、重要なプロセスです。

 

※1主に高校3年生を対象として、児童養護施設等を出た後の一人暮らしに必要な知識、スキルを学ぶプログラム。毎年8月~翌年1月にかけて全6回のセミナーを実施。

一人暮らし準備セミナー「巣立ちプロジェクト」とは >>

 

■自立ナビの運営体制

自立ナビの活動が始まると、ペアを組んだ社会人ボランティアとルーキーは、毎月1回、定期的に面談を行います。面談の都合がつかない時も、月に1度は社会人ボランティアからルーキーに連絡を取ります。そして、毎月のやり取りの様子は、専門支援の知見を持つB4Sスタッフに報告され、B4Sスタッフから社会人ボランティアにフィードバックがあります。

また、自立ナビに参加している社会人ボランティア同士が情報交換する機会(通称:井戸ナビ会議)も設けられており、ルーキーとのコミュニケーションについて、悩みを共有したり、助言を得たりする場として活用されています。

このように、ルーキーと社会人ボランティアのペアをB4Sスタッフが見守るという形で、自立ナビは運営されています。

ボランティアとの連携を密に行うスペースを運用し、きめ細かい運営体制で退所後の孤立やトラブルの早期発見、必要な場合は専門家の支援につなげます

 

■自立ナビの活動実績

こうした取組の積み重ねで、自立ナビの活動は少しずつ広がってきました。最初は13ペアで始まりましたが、19年目の今年は合計101ペアが活動中。この3年で関わったルーキーと社会人ボランティアは、延べ600人以上に上ります。

 

■自立ナビ関係者の声

自立ナビに関わっている社会人ボランティアや社会的養護経験者は、どのような思いで、この活動に参加しているのでしょうか。今回は経験豊富な社会人ボランティアのみれい(自立ナビ参加歴12年)、バーボン(同7年)の声を聞いてみました。

 

自立ナビのやりがいや難しさはどんなところでしょうか?

  • 自立ナビを通じて、ルーキーその人を知ることができることが大きな喜びと楽しみですし、ルーキーが変わっていく姿を見られることが一番のやりがいです。一人ひとり環境や必要としているものが異なるので、正解がわからず考えながら対応することが多いですが、その分自分自身も学ぶことが多く、共に成長することで共有できる喜びも大きいです。一方で、こちらからの連絡に最初からほぼ反応がないケースや、関係を構築する前に連絡が取れなくなってしまうケースもあります。相手との最適な距離感を考えたり、自分にできること・できないことを明確にしたりするなど、自分なりのルールを作ることが難しいですが、大事なことかなと思います。(みれい)
  • 巣立ちプロジェクトの終了後、さらに2年間、ルーキーをフォローできることや、コミュニケーションを取る中で反応が得られることには、やりがいを感じます。一方、巣立ちプロジェクトの終了から自立ナビ開始まで少し時間が空くことで、よく話していたルーキーの反応が変わってしまったり、なかなか会えなかったり、ぱったり反応が無くなったりということもあります。ただ、毎月一回会えればいいなぁという大人が、彼らの生活や何かを変えてあげようと考えることはおこがましいというか、彼らの周りにはもっと役に立つ大人がいると思います。そのような中で自立ナビの役割は、ルーキーにとって暇を潰せるとか、他の人に話しにくい話を聞くとか、そうしたことではないかと思っています。(バーボン)

 

ルーキーとのエピソードで印象に残っていることを教えてください。

  • 最初にペアになったルーキーとは、会社での悩みなど、さまざまなことを一緒に考えました。その後、ワーキングホリデーに行くことになり手続きを手伝いましたが、カナダで1年間がんばって成長し、帰国直後に、自信のついた声で電話をくれたときはとても嬉しかったです。今はB4Sでサポートをする立場にもなってくれていて、そのような姿を見ることは私にとっても素晴らしい経験となっています。また、コロナであまり会えない中で(本人が抱えていた)問題が大きくなってしまい、しばらく連絡が途絶えてしまったルーキーがいました。連絡が取れない間、もっと何かできることがあったはず…と悩みましたが、数か月後に連絡が取れ、自立ナビの最後には似顔絵付きの手紙をくれて、とても感動しました。(みれい)

 

みれいがペアを組んだ元ルーキー。今は支える側としてブリッジフォースマイルでボランティア活動をしている彼女は、自分が児童養護施設にいたころと比べて「スマホ保有率や進学率の高さ、より自由に暮らしている気がしてうれしい」と話す

 

B4S定期刊行物Smile!の記事より

 

 

 

 

 

  • ルーキーとのエピソードはたくさんありますが、例えば、駅ビルの一番上からぐるぐるとウィンドウショッピングしたことや、スーパーの生鮮食品売り場で食材についてずっと質問されたこと、売り場でルーキーが弾くピアノを聴いたことなどが印象に残っています。一方で、一度も会ったことがない(顔も知らない)まま担当しているルーキーもいます。ルーキーとの連絡の際は、季節やその時々の話題を織り交ぜていますが、反応があると嬉しく思います。(バーボン)

 

ルーキーとのやりとりは返事があったりなかったり難しい!

返事をしやすい「反応しやすかった呼びかけ」などをお伺いしました

 

写真と一緒に

〇〇ムーン、満月、朧月夜だね →ルーキーからの返事-聞きました!職場から見ます!

地震大丈夫?揺れたね~ →ルーキーからの返事-大丈夫

和菓子教室行ってきました →ルーキーからの返事-おいしそう!

 

 

 

B4Sの事務局や他の社会人ボランティアとは、どのように関わっていますか。

  • 何かルーキーに問題が起きた時、B4S事務局から出身施設に連絡してもらう方がよいと思われる時は、すぐに事務局に連絡をするようにしています。また、転職を考えているなどの話が出た際にも、仕事を辞める際に考慮すべことや仕事を探すサポートのこともあるので、B4S事務局につなぎます。自分で全部解決しようとするより、ルーキーにとってもよりよいサポートが得られることになるので、何かあれば事務局に連絡するようにしてきました。(みれい)
  • 事務局からの毎月1回のレポートに対するコメントは参考にしています。巣立ちセミナーの場でB4S事務局や講師役のスタッフと顔を合わせた時に相談することもあります。他の社会人ボランティアとの関わりは特にありませんが、巣立ちプロジェクトからの継続ではなく、自立ナビから担当するルーキーの場合は、他の社会人ボランティアが残していた巣立ちプロジェクトの際のレポートを参考にすることもあります。(バーボン)

 

 

■自立ナビの新たな役割

自立ナビは、近年、継続支援計画のフォローアップという新たな役割も担うようになってきました。

継続支援計画とは、国が実施する「社会的養護自立支援事業」の一環で、「支援コーディネーター」が子ども本人、施設職員や里親などの意見を聞きながら策定する児童養護施設等を出た後の支援計画です。内容は、生活習慣、職場での人間関係、金銭管理などの社会的自立の能力、親との関係性の整理など、多岐にわたります。それぞれの項目について、どのような姿を目標とするか、そのためにどのような支援を行うかといったことを明文化していきます。ブリッジフォースマイル(B4S)は、横浜市、佐賀県、熊本県から受託し、継続支援計画の「支援コーディネーター」として、計画の立案や実行の支援を行っています。

 

継続支援計画は、計画を策定した後(=若者が自立した後)の見守り・アフターケアが重要になります。現状では最長4年間、若者が22歳になるまで見守りを続ける仕組みになっていますが、毎年数十名分の計画策定と見守りを行うのに、B4S事務局スタッフの人手だけでは圧倒的に不足しています。そこで、現在は、継続支援計画の見守りを自立ナビと兼ねるようになりました。元々はB4Sの独自プログラムとして運営していた自立ナビですが、このような形をとることで、社会人ボランティアとB4S事務局が協力して、多くの若者を支援できる仕組みが出来ています。

 

■自立ナビの課題と展望

このように、若者を継続的に見守るプログラムとして、B4Sの活動の中でも重要な位置を占める自立ナビですが、担い手となる社会人ボランティアは、常に人数が足りていません。毎年自立ナビに申し込んでくる若者の数が社会人ボランティアの数を上回っており、一部の社会人ボランティアが2~3人の若者を担当していることもあります。

また、参加する若者の増加に伴い、発達課題や精神疾患等の特性を持っている方も増えており、個々の若者に合わせた注意点や配慮事項の個別化・難化が進んでいます。

 

こうした課題に向き合いながら、社会人ボランティアの安定的な確保とサポート体制の維持に努め、自立ナビを必要としている若者にプログラムが行き届く状態をつくることが、B4Sの現在の目標です。また、B4Sでは、自立ナビ終了後も若者とのつながりを継続し、若者が再び支援を必要とする時には、B4Sや社会の支援を受けやすくなるような環境をつくることを目指しています。

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