ニュース・活動報告
◆社会的養護出身者へのキャリア支援の必要性
社会的養護出身の子どもたちは、社会で働くために必要な就労観・職業観を身につけるにあたって不利な状況に置かれていることが少なくありません。例えば、親が働いている姿や様子を見聞きする機会が少なく、身近な社会人が施設職員などに限られていたり、親からの経済的な支援がないために、自分の適性や性格に合っている仕事ではなく、自分が知っている仕事や条件面だけで仕事を選択する子どもたちが多く、そのため、やりがいやモチベーションが続かず、早期離職につながりやすくなります。
ブリッジフォースマイル(以下、B4S)が2020年から取り組んでいる調査※の中で、下記の傾向が見られています。
・大学等への進学率は40.5%と着実に増加している一方、一般の高卒者の進学率とは大きな差がある
→更に進学率を上げるためには、勉強のサポートやさまざまな体験の機会を提供して、考えを深めてもらうことが必要
・大学等中退率は、入学1年後で7.5%、入学4年後で27.5%
→中退予防のための継続的な伴走支援や中退した場合のサポート体制をいかに整えるかが課題
・高校卒業直後に正社員就労した人のうち、就職から1年3か月後には、半数が離職
・正社員就労から3か月後に無職になった人は、約1割
→離職率の高さは大きな課題となっている 就職活動においては、子どもの適性や意思を踏まえた丁寧な就労サポートが必要
B4Sでは、児童養護施設や里親家庭出身の子どもたちが、社会にどのような仕事があるのかを知り、自分が就きたい仕事、自分に合った仕事はどのようなものなのかをしっかりと考え、本人が望むキャリア形成ができるような支援がとても大切であると考えています。同時に、日々の生活費の心配をすることなく、就職活動に臨めるような経済的な支援も必要です。
こうした背景を受け、2018年に日本オラクルとブリッジフォースマイルが協働して立ち上げたのが、日本オラクルキャリア支援プロジェクトです。
◆日本オラクルキャリア支援プロジェクトとは
IT関連の企業で働くことを視野に入れながら勉強をしている社会的養護出身の子どもたちを応援するためのプロジェクトです。対象は大学・専門学校でIT分野を専門に学ぶ施設・里親家庭出身の学生です。彼らがIT企業の仕事内容や働き方を理解し、自分に合ったキャリアをイメージして、就職活動に臨めるようにサポートすることを目的としています。
本プロジェクトは、①ジョブシャドウイング ②キャリアセッション ③奨学金の提供 の3つから構成されています。
①ジョブシャドウイングとは
学生が一定期間で実際の仕事体験をするインターンとは違い、仕事をしている社員に「影」のように寄り添い、仕事内容や職場を観察し、働く考え方を理解することです。学生にとっては、仕事を肌身で感じられるだけでなく、IT業界の最前線で働く社員がロールモデルとなって、自分のキャリアを考える貴重な機会となっています。本プロジェクトでは、参加する学生に事前に興味のある仕事をヒアリングし、なるべく希望に近い部門で体験できるように配慮していただいています。
②キャリアセッションとは
学生が感じている就職についての疑問や不安などに対し、社員の方からアドバイスをいただく就職サポート面談です。学生は複数の社員にマンツーマンでキャリア相談をすることができます。コロナ禍で職場でのジョブシャドウイングが難しくなったことをきっかけに2020年から実施しています。ジョブシャドウイング再開後も継続しており、2023年で4回目になります。
③奨学金の提供
本プロジェクトに参加する学生に就職活動を応援するために給付される奨学金です。社会的養護出身者には経済的なサポートやアドバイスを与える実家というセーフティネットがなく、社会に出る際に必要な生活費や学費を稼ぐために、アルバイトに時間を費やさなければならない学生も多くいます。就職活動期間はアルバイトを控え、じっくりキャリアを考えられるようにすることや、新しいパソコンの購入費などスキルアップのためのツールを得られるようにすることが狙いです。
◆2023年度の実施報告
今年度は、8月1日~9月26日に①ジョブシャドウイング、10月20日~11月13日に②キャリアセッションが実施され、のべ10人の学生が参加しました。
奨学生からのレポートの一部をご紹介します。どの奨学生も、社員の方々の考え方や働き方に刺激を受け、仕事や就職活動への意識や意欲が高まったり、スキルだけではなく、自分がどんなキャリア形成をしていきたいかや、人生の指針についても、ヒントを得たようです。
[ジョブシャドウイング]
ジョブシャドウイングから得られたこと、社員のみなさんから感じたこと
社員のみなさんのアイデアや考え方、説明を聞くたび、新しい発見がありとても刺激を受けた。話の広げ方や、説明の仕方、話のまとめ方にも感銘を受けた。私は、自分の考えを他人に分かりやすく言語化することに苦戦することがあり、みなさんをみて憧れを抱いた。(セピ)
仕事をすることにあまり良いイメージは持っていなかった。しかし、オラクルの社員さんの働き方は、圧倒的に人と関わる時間が多く、それが良い方向に繋がっていると感じた。仕事にやりがいを感じ、高いモチベ―ジョンを生み出しているのは人との関係性なのではないかと感じた。(岩咲)
アイデア出しの際の社員の方々をみて、私も傾聴力を身につけたいと思いました。出たアイデアに対し社員の方が深掘りをすることで、活発に新しいアイデアが生まれいく様子が印象的だったためです。(やまなつ)
どのような勉強や仕事をしたら一人前のITエンジニアになれるのか、スキルアップが実現できるのか多く質問させていただきましたが、多くの社員の方々からもご意見を聞けてとても良かった。(J.H)
今回の経験を、今後どのように生かしていきたいですか?
会議の進め方や視点の広さ、相手の意見への反応など活かしていきたい。特に、アイデア出しの方法はどの企業であっても自分のやり方として使えるものだと思うので、使っていきたい。(りょう)
これから就職活動をする上で、自分が知っている仕事だけではなく、いろいろな職種を見ることも意識し、積極的に話を聞いたり体験しに行ったりして、自分に合った仕事を見つけていきたい。(セピ)
今回のワークショップを通して、“協力“による可能性を感じました。今までは、自分ができればそれでいいと思う場面がありましたが、今後は誰かと協力したらもっといいことができるかもしれない、と可能性を探ってみようと思います。(やまなつ)
[キャリアセッション]
キャリアセッションで得られたこと、社員のみなさんから感じたこと
エンジニアとしてレベルアップするためには、自分自身の部門外の人たちにもいろいろと話しかけてみることが大事など、実際の現場での経験談などを聞きとても参考になりました。ChatGPT や生成AIを活用するにはいろいろ遊んでみることが大事というお話では、何事も難しく考えすぎず、とりあえず遊び心を持って試してみることが良いのだなと思いました。(A.M)
就活に苦戦していたため、企業にどう自分を選んでもらえるかばかりを考えていましたが、「あなたも企業を選ぶ立場なんだよ」という社員の方のお言葉を聞いて、ネームバリューや受かりやすさを重視した就職活動はやめようという勇気が出ました。(やまなつ)
それぞれ違うキャリアを歩んできた方たちのお話を直接1対1に近い状態で聞くことができ、貴重な時間だった。どんな人を雇いたいかというお話では、ITスキルだけではなく、どれくらい意欲があるのか、努力をする人なのか、経験を通して何を学んだかを説明できるか、というのも大事なポイントだと働いている方の目線から聞くことができた。(セピ)
今回の経験を、今後どのように生かしていきたいですか?
特に印象に残っているのは、大学生時代に何か一つ決めて全力で取り組んでみると良いというお話でした。自分は今まで漠然とした気持ちで大学に通っていたので、何かがんばることを見つけていきたいと思っています。(W)
最大の収穫は、「デザイン思考」の使い方である。この思考法から、ある事象に対する見方・考え方が大きく変わってきた。デザイン思考から着想を得て、視点を変えることによって企業の事業・経済性を考えられるようになった。次回のジョブシャドウイング・キャリアセッションにも参加し、自身の持つ疑問と仮説を社員さんに質問し検証することで、より良いキャリア形成につなげていきたいと思う。(岩咲)
私が就職を目指している業界について、ベテランの社員の方からリアルなアドバイスをいただくことができ、その業界で自分はどうなりたいのか、もう一度やりたいことを見つめ直してみようと思いました。これら経験は、現在の就職活動だけでなく、社会人になった後や、やりたいことが迷走した時など、人生の参考にしようと思います。(やまなつ)
◆今後の展望(B4Sキャリア支援プロジェクト担当より)
今年度も担当の川向様を始め、日本オラクルの多くの社員の方々のご協力に感謝しています。今プロジェクトを進めていく過程や、実施後のレポートを読み、参加学生の仕事に対する意欲向上や、キャリア形成の一助になっていることを強く感じています。自分の望む、自分に適したキャリアを選択できる子どもたちを増やせるよう、多くの企業様と連携して取り組んでいきます。今後は、IT業界だけではなく、他の業界・企業様の取り組みも増やしていきたいと考えています。宜しくお願いいたします。
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