ニュース・活動報告

“当事者の声”がもたらすもの

「親を頼れない子どもたちは、この日本でどんな困難を抱えていると思いますか?」

 

そう尋ねられたら、答えることはできますか?

 

世の中、とくにTwitterやFacebookをはじめとするSNSの中ではさまざまな“当事者の声”をすくい上げ、社会問題として広め、解決に向かおうとする取り組みが多く存在します。

 

私たちブリッジフォースマイル(B4S)も、“当事者の声”をもってして応援者を増やし、社会を変えようと活動してきました。

 

2011年、まず最初に行ったのは、児童養護施設で生活している子ども、施設出身の子どもに登壇してもらうスピーチコンテストでした。当時、児童養護施設から大学などへの進学の道のりは金銭的にも精神的にもハードルが高く、進学率は20%程度でした。(全国平均の進学率は75%)彼らに返済不要の奨学金を集めるため、年1回開催のスピーチコンテストを中心とした『カナエール』というプロジェクトが立ち上がりました。

 

私はそのアイデアがB4Sに生まれたのと同じタイミングで入職したスタッフです。代表の脇でプロジェクトの立ち上げに携わりました。

 

国による奨学金支援がはじまったことで、カナエールは7年間で幕を閉じました。最終的に124名の奨学生を輩出し、1億4000万円程の奨学金を給付することができました。困難な環境におかれても、進学への夢を諦めない当事者の声が社会を動かした結果でした。

 

2019年、次に取り組んだのが「親を頼れない子どもをとりまく問題を解決する」を目的に、親を頼れない子ども時代を経験した若者に登壇してもらうスピーチイベント『コエール』です。問題解決に向けて行動しているNPO代表のプレゼンテーション、ソーシャルアクションのアイデア発表なども合わせた啓発プログラムです。

 

当事者である若者たちはカナエールと異なり、支援対象者ではありません。若者たちの登壇の目的は「なかなか見えてこない、いまも苦しんでいる子どもの存在に光をあてること」。

 

2021年7月に開催した3年目のコエールでは、18歳~30歳の9名の若者が登壇してくれました。4名は児童養護施設や里親家庭出身の社会的養護経験者ですが、5名は親から虐待を受けていたにも関わらず保護されなかった若者たちでした。

 

外からは分からない、見た目には普通の生活をしている彼らですが、過酷な経験を乗り越えてここまで生きて来た、サバイバーともいえる人たちです。現に「同じように虐待を経験した仲間は、自ら命を絶ち亡くなってしまった」と語ってくれた人もいます。

 

過去を振り返り、言葉にするというプロセスは、当然ながら心に負担をかけます。「そんなことをさせてまで、やるべきではない。」そのような声を外からもらうことも、これまで何度かありました。実際、当事者が語る、という行為は簡単なことではありません。虐待などの被害を受けてきたこと、助けてもらえなかった経験、誰にも理解してもらえなかった状況、それらを思い出し語るという行為は容易にできることではないのです。

 

コエール2021に参加してくれた若者たちは、誰もがこれ以上ないくらいに傷ついてきたけれど「自分のためではなく、今と未来を生きる子どものために」今を変えること、伝えることを選んでくれました。

 

スピーチ原稿を作るのは、1人では到底しんどいプロセスなので、B4Sのボランティアメンバーの力を借りながら、5ヵ月間かけて練り上げます。自分の声、言葉を取り戻しながら「あのとき、こういうふうに周りの人に話を聞いてほしかった。親からひどい扱いを受けていることを信じてほしかった。気づいてほしかった。」そんなふうに過去を辿る日々でした。

 

迎えた本番。オンラインイベントなので、配信スタジオからの中継です。コロナ禍により本番までのすべてワークショップがオンラインだったため、会うのは初めてでした。私はスタッフとして舞台裏の運営をしていましたが、彼らの控え室からはひっきりなしに笑いが起こり、全員で写真撮影会、絶え間ないお喋り。同志に出会えた喜びに溢れているようでした。

 

本番終了後、彼らとB4Sボランティア、運営メンバーはオフラインで初めて集合し、振り返り会を実施しました。若者たちからは「こんなにいっぱい話を聞いてくれる大人がいるよ、知ろうとしてくれる大人がいたよと、子ども時代の自分に教えてあげたい。」「参加してよかった。」という言葉がありました。誰かのためにと始めた動機が、最終的には彼ら自身のためにもなっていたとしたら、それはとても嬉しいことです。

 

コエール2021は、688名の方にお申込みをいただきました。若者たちは9名全員、本当に素晴らしいスピーチをしてくれました。ふりしぼった声は、視聴者の方の心に響き「自分もなにかしないと!」と思ってもらえるようなイベントだった、そんなふうに胸を張れる力をもたらしくれました。

 

「親を頼れないとしても子どもがすくすくと育つ」社会を目指し、アクションする大人を増やすため、これからも当事者の声を伝え続けていきたいと思います。

広報担当 植村 百合香
“当事者の声”という言葉をよく耳にするようになりました。
10年前から始めて、紆余曲折ここまできた「社会的養護の当事者の声の発信」について振り返りました。

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