「親を頼れない」
子どもの現状
巣立ちの時期に
「親を頼れない」子どもが
直面する社会の大きな壁
巣立つ時に直面する
「安心の格差」
親を頼れない子どもたちには、「実家」というセーフティネットがありません。社会に巣立った後、困った時や、病気になった時、お金に困った時、仕事を辞めた時などに、頼る先がない子どもたちは、「何かあっても自分だけでなんとかしなければならない」という不安や孤独感を抱えています。
経済的な不安
子どもたちは、高校生のうちからアルバイトをして貯金し、巣立ちに備えます。そして18歳を過ぎ、児童養護施設や里親家庭を巣立った子どもたちは、自分で生計を立てることになります。
高校卒業後の進路は6割が就職で、3割が進学です。これまで進学は、学費の負担が大きな壁になっていましたが、公的な奨学金制度や、一定の条件を満たすと返済が免除される貸付金制度などが新設され、ここ数年間で制度が拡充しています。
しかし22歳を超えると、これらの支援はほとんどなくなります。生計を立てられなければ、あっという間に住む場所を失ってしまいます。
精神的な不安
「巣立った後も、児童養護施設の職員や里親に頼ればいいのでは?」――。実は簡単なことではありません。施設には、巣立った後の継続支援(アフターケア)が義務付けられていますが、内容は決まっておらず、施設によってかなりのばらつきがあります。
子どもたちは、施設職員の忙しさを知っているため遠慮してしまいます。よく知る職員が辞めると、施設と疎遠になることもあります。
なお、里親にはこの役割は義務づけられていません。今後、里親家庭を増やす方針が打ち出されていますが、大きな課題となっています。
巣立ちに立ちはだかる
「希望の格差」
希望を持つことがあたりまえの人にとって、「希望を持てない」「生きることへのエネルギーがわかない」という子どもたちを理解するのは、難しいかもしれません。しかし、親を頼れない子どもたちの中には、将来に希望を持てない子がたくさんいます。今後、制度や体制が整ったとしても、この問題は簡単に解消されるものではありません。
夢や目標を持てない子どもたち
絶えず暴力や暴言を受けるなどの不適切な環境におかれていた子どもたちは、大きなハンディキャップを負っています。例えば、自己肯定感の低さです。大切な存在として扱われてこなかったため、ありのままの自分を大切に思うことができないのです。自分の意思や希望を尊重された経験がなければ、自由に将来の夢を描いたり、目標を持ったりすることができなくなります。
心に傷を抱える子どもたち
子どもたちが受けてきた、暴力や暴言などの理不尽な扱いは、「心」に大きな影響を及ぼします。自傷行為を繰り返す子、生きることに意味を見出せず自死を選ぶ子、ギャンブルやアルコールに依存する子、お金で優しくしてくれる異性を求める子などがいます。心の傷が癒されなければ、その後の人生まで支配されてしまうのです。
小さなつまずきから大きな問題に
子どもたちは、突然深刻なトラブルに陥るわけではありません。問題が小さなうちに一つひとつ解消していけば、大きな問題を予防できます。しかし、親を頼れない子どもたちは、小さなつまずきをなかなか解消できないでいることが多いのです。
1. 身近に理解者がいない
「児童養護施設や里親家庭で育った」と言うと、周りから同情されたり、距離を置かれたりすることがあります。家族が頼れないというハンディキャップが理解されないため、孤独感を抱える子どもたちは、その反動から、優しく声をかけてくれる人を簡単に信じてしまい、詐欺などの甘い罠に陥りやすい傾向にあります。
2. 気軽に相談できない
水道光熱費や保険・年金の手続き、冠婚葬祭のマナーなど、学校では教えてくれないことがたくさんあります。離れて住んでいても、親が頼れるなら電話で親に聞けますが、親を頼れない子どもたちはそれができません。結局、自分だけで判断したり、同じ程度の経験や知識しかない友達に相談したりして、事態をより深刻にしてしまうのです。
3. 孤独な一人暮らしの不安
施設を出ると、炊事、洗濯、ごみ捨てや戸締りなど、全てが自分の責任になります。ゴキブリが出た、病気になった、お金が足りなくなった……。高校を卒業したばかりの子どもにとって、「何があっても自分ひとりで何とかしなくてはならない」というプレッシャーは非常に大きいのです。
4. 大学や専門学校の学費の不安
奨学金とアルバイトの稼ぎだけで、学費、生活費、といった大きな費用を一人で背負うことになります。公的な奨学金や支援金は充実してきましたが、手続きや家計のやりくりを一歩間違えると、学校に通い続けることができなくなってしまいます。
5. 就職活動がうまくいかない
高校のあっせんで就職した場合は、仕事を辞めてしまったとしても、仕事の探し方、履歴書作成や面接対策など就職活動のやり方がわかりません。また、自分が稼がないと生きていけないというプレッシャーから、しっかり自分の適性や将来を考えて仕事を選ぶよりも、手っ取り早く収入を得られるアルバイトなどを選びがちです。
6. 一人暮らしの準備が分からない
子どもたちの多くは18歳で一人暮らしを余儀なくされます。住民票の行政手続きや、電気、ガス、水道などの手続き、自炊、掃除、洗濯など自分でやることがたくさんあります。18歳である程度問題なく自活できるように準備することはたいへんなことです。
7. 社会に巣立つことの不安
大学進学、就職、いずれの進路を選んだにしろ、新しい環境、新しい人間関係に適応することは簡単なことではありません。さらに同じ時期に住まいや生活環境にも大きな変化を迎えることになります。巣立ちに関わる漠然とした不安があります。
8. 働くイメージが持てない
子どもたちは、自分が関心を持てることや自分に向いていることがわかりません。周りに言われるまま、もしくは勤務条件だけを見て就職先を決めても結局合わずにすぐに辞めてしまいます。