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安心・安全な子ども・若者の居場所とは? “つながり”が防ぐ子ども・若者の孤立

子どもや若者の居場所づくりへの関心が高まっています。子ども家庭庁は2023年12月に「こどもの居場所づくりに関する指針」を公表し、居場所づくりに関する基本的事項や視点、関係者の責務や役割等などをまとめました。行政や民間の間でも、気軽に立ち寄れる居場所づくりの動きが広がっています。家庭内や学校で孤立する子どもや若者は、今に限らず以前から存在しました。しかし、昨今居場所の重要性が叫ばれている背景には、子どもや若者を取り巻く環境がより厳しくなっているとの問題意識があります。

 

いま、子どもや若者にとって居場所はなぜ必要で、それはどういう場所なのでしょうか。また、居場所を求める子どもや若者のために、私たちにはどのような支援ができるのでしょうか。私たちブリッジフォースマイル(B4S)が運営する居場所のご紹介とともに解説します。

 

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1. 子ども・若者が抱える問題と居場所が重要なわけ

 

「私の家庭では暴力が日常でした」。2024年6月にB4Sが運営する「コエール」用のスピーチに登壇した女子大生のみーたんは、静かに自らの体験を語りました。自分を含め家族全員が父親の暴力を受けていたほか、醤油をかけたご飯が夕食になるなど食事も満足に得られない日々。近所からの通報で警察が家にやってくることもあったといいます。しかし、家のことを話すのは恥だと感じて学校の先生や友人には相談できず、孤立を深めていきました。

 

SNSで出会った同学年の女の子と遊ぶようになったのがきっかけで、家庭や学校に居場所がない子どもたちと一緒に過ごすようになります。父親からの暴力に耐えられなくなった中学一年生の冬に家出。友人の家やコインランドリー、コンビニエンスストアのイートインコーナーなどを転々とします。最終的には警察に補導されますが、父親から暴力を受けていることを打ち明けたことで、兄弟を含め児童相談所の保護を受けることができました。

 

関連動画:みーたんのスピーチ 「コエールチャンネル:家出を選ばざるを得なかった子どもたち」 >>

 

彼女のように家にいられず居場所を求めて漂流する子どもや若者は少なくありません。ニュースで話題になっている東京・歌舞伎町の「トー横」や、大阪・ミナミの「グリ下」と呼ばれる場所に集まるのも、そうした子どもや若者たちです。こうした場所は全国各地に存在しますが、子どもや若者たちは互いに似たような境遇を背負っていることから仲間とつながり安心感を得られる一方で、医薬品を過剰摂取する「オーバードーズ」や売春、犯罪に関わってしまうケースも起きています。

 

居場所を求める子どもや若者が家出をしたり、夜の繁華街を出歩いたりすることは昔からありました。ただ、子どもや若者を取り巻く環境は悪化しつづけています。こども家庭庁によると、2022年度に全国の児童相談所が児童虐待として対応した件数は前年度比5.5%増の21万9170件(速報値)で、過去最多を更新しました。10年前の2012年度(6万6701件)との比較では3.3倍に高まっています。児童虐待防止に対する意識や感度が高まって関係機関からの通告が増えていることに加え、核家族化やひとり親世帯の増加により、親自身が社会から孤立してしまい、経済的・時間的・心理的な余裕を失いつつあるといった要因も考えられます。

 

参考:こども家庭庁「2022(令和4)年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」

 

こうした背景もあり、子どもや若者の居場所については、こども家庭庁も関心を強めています。2023年12月に公表した「こどもの居場所づくりに関する指針」では、少子高齢化による地域のつながりの希薄化に加え、児童虐待件数や不登校の増加など子どもや若者を取り巻く環境が厳しくなっていることを問題視しています。「居場所がないことは孤独・孤立の問題と深く関係しており、こどもが生きていく上で居場所があることは不可欠」と指摘しました。

 

参考:こども家庭庁「2023(令和5)年12月 「こどもの居場所づくりに関する指針」

 

実際、前述のみーたんがみずからの人生を好転させた要因として挙げた点も、居場所と深く関わるものでした。1つは福祉のサポートを受け、「家庭環境が変わった」こと。里親と暮らすようになって生活が落ち着き、学業に専念できるようになったことで将来を考えられるようになりました。「家庭の問題が解決されない限り、トー横の子どもや若者はまた居場所を求めて家出をする」と強調します。また、「信頼できる大人との出会い」も重要だったと振り返ります。「今日まで見守ってくれた大人のおかげで今の私があり、その大人を悲しませたくないと思って前を向けた」と語りました。

 

しかし、求める居場所を得られていない子どもや若者は少なくないようです。こども家庭庁が実施したアンケートでは、「家や学校以外に『ここに居たい』と感じる居場所が欲しいですか」という質問に対して、71.9 %が「はい」と回答し、このうち26.0%が「居場所がない」といいます。年齢層別では13~15歳以降に25%を突破。19歳以上は33.9%となるなど、年齢層が上がるほど居場所を得られていない実態が浮かび上がります。また、居場所がないという理由を年齢層別に聞くと、「住んでいる地域に、そのような場所がないため」が21.5~48.1%にのぼりました。

 

参考:こども家庭庁「2023(令和5)年3月 こどもの居場所づくりに関する調査研究 報告書概要」

 

2.居場所ってどんなところ?子ども・若者にとって安全で安心な居場所とは

 

では、子どもや若者にとっての居場所とはどのようなところなのでしょうか。一般的に居場所とは、「好きな時に好きなことをして自由に過ごせる場所」「安心・安全を感じられる場所」「仲間とつながれる場所」「ふらっと気軽に立ち寄れる場所」「困ったときに相談できる場所」など実に多義的で、子どもや若者の特性、置かれている状況やニーズによって捉え方はさまざまです。

 

先ほどのこども家庭庁のアンケートでも、居場所が「ない」と答えた人に「あなたはどのような場所であれば行ってみたいと思いますか」(複数回答)と聞いたところ、いくつか望ましい姿が見えてきました。いずれの回答も年齢層ごとにグラデーションはありますが、「いつでも行きたい時に行ける」が48.3~69.6%、「好きなことをして自由に過ごせる」が44.4~68.4%と目立ちました。また、16歳以上では「1人で過ごせたり、何もせずのんびりできる」が57.2~64.1%となり、他の年齢層より比較的高くなっています。

 

① 居たい
居ることの意味を問われない、誰かとつながれる、安心・安全を感じられる、居たいだけ居られる、ありのまま素のままでいられる、過ごし方を選べる、など


② 行きたい
自分を受け入れてくれる誰かがいる、身近にある、お金がかからない、誰でも行ける、など


③ やってみたい
好きなことやりたいことができる、自分の意見を言える、未来や進路を考えるきっかけがある、あこがれを抱ける人がいる、自分の役割がある、など


参考:こども家庭庁「2023(令和5)年3月 こどもの居場所づくりに関する調査研究 報告書概要」

 

また、行政やNPO、企業などの民間では上記の視点も含めつつ、それぞれの考えに沿った居場所を運営する動きが広がっています。2024年9月現在、全国で6カ所の居場所を運営する私たちB4Sは、居場所には大きく2つの要素が大切だと考えています。

 

① 親を頼れない子どもや若者が安心して過ごしながら、それぞれが抱えるさまざまな問題の解決に向かって一歩踏み出す元気を養える場所であること


② 子どもや若者の問題を解決するために、それを支援するボランティアや専門家、適切なサービスをつなぐ懸け橋であること

 

親を頼れない子どもや若者は、困った時や不安なときに頼る先がなく、一人で悩んでいるうちに問題が大きくなってしまったというケースも少なくありません。私たちはそのような子どもや若者とのつながりをつくり、「孤立」を防ぎたいと考えているのです。ただ、B4Sの居場所運営者の中には、「居心地がよすぎて依存させないようにすることも大事」との声もあります。居場所は、将来的には子どもや若者が独り立ちできることを視野に入れているため、リラックスできて居心地がいいことだけが重要とはいえません。居場所のあり方は多様だからこそ、頭を悩ませることも少なくありませんが、子どもや若者が前向きさを生み出せる「止まり木のような存在」でありたいと考えて日々模索を続けています。

 

関連記事:居場所スタッフインタビュー 「前向きさ生み出せる止まり木に」 親を頼れない子どもや若者の巣立ち 居場所づくりで寄り添う >>

 

3.子ども・若者の居場所の例

 

ここまで、居場所が求められる背景や子どもや若者が抱える問題、居場所の役割について解説してきました。では、実際にどのような居場所があるのでしょうか。いくつかご紹介します。

 

|すべての子ども・若者を対象とする居場所

 

児童館、公民館、図書館、公園、放課後子供教室など

家庭や学校が居場所となっている子どもや若者が多い一方で、児童館、公民館、図書館、公園、放課後子供教室*などを居場所と感じる子どもや若者もいます。無料で利用できるうえ、好きな時間に行って好きに過ごせる、ときには誰かとのつながりも感じられるという意味では、前述の「居たい」や「行きたい」を実現している居場所といえるでしょう。

*学校の空き教室などを利用して、放課後に子どもたちが安全・安心に過ごせる居場所を提供する事業

 


・学習塾や部活動、サークルやアルバイト先など

学習塾や部活動、サークルやアルバイト先などは、自分に与えられた役割を果たすことで存在意義を感じられたり、同じ目的を持つ仲間とともに成長しあったりと、「やってみたい」を叶える居場所として機能していることが多いです。

 

・SNSやオンラインゲームなど

現代社会においては、SNSやオンラインゲームの普及によって、オンライン空間が居場所となるなど、新しい居場所の形も増えています。

 

|特定のニーズを持つ子ども・若者を対象とする居場所

 

・行政の提供する居場所

放課後児童クラブ、放課後等デイサービス、児童育成支援拠点事業、子ども・若者シェルター*など、留守家庭児童や障がいのある児童、養育環境に課題を抱える児童などを対象としている居場所で、安心・安全の空間だけでなく、子どもや若者のニーズに合わせた支援もあわせて提供しています。

*こども家庭庁による子ども・若者シェルターは、虐待やその他の理由で家庭に居場所がない子どもや若者が、必要な支援を受けながら宿泊できる施設で、令和6年度(2024年度)から創設予定

 

・NPO、企業などの民間が提供する居場所

子ども食堂、学習支援拠点、コミュニティスペース、親や身近な大人を頼れない子どもや若者向けの居場所など、行政と連携しながら行政だけでは手が届かない部分も含めて広く支援しています。

 

このように、居場所には子どもや若者のニーズに応じてさまざまな形態がありますが、心身の障がいや病気、貧困や親を頼れないなど、深刻な生きづらさを抱えている子どもや若者には、単に居場所を提供するだけでなく、就労支援、居住支援、メンタルケア、法律相談、家事・育児支援など、特定の支援へのつなぎが必要となるケースも少なくありません。

 

B4Sでは、こうした状況を踏まえ、親を頼れない子どもや若者に安心・安全の居場所を提供しつつ、細やかなコミュニケーションを通じていち早く問題を発見し、最適な支援につなげられるような仕組みや体制の整備にも力を入れてきました。仲間とのつながりづくりを目的とした「アトモプロジェクト」や個別相談が可能な「自立ナビゲーション」などの既存プログラムの強化に加え、2024年春からは問題を抱える子どもや若者専用の「相談窓口」を新設したり、虐待など過酷な環境から緊急避難できる居場所「ショートステイ」や家事やお金のやりくり、関係機関手続きなどのサポートを行う「日常生活サポート」など、新たな支援も開始しています。

 

また、自分たちだけでどうにかしようとするのではなく、専門支援チームなどとも連携しながら、ハローワーク(新卒応援ハローワーク、わかものハローワーク)、地域若者サポートステーション、ジョブカフェ(ジョブカフェ)など、無料で利用できる就労支援や、緊急一時保護*、中期的な居住場所支援、低家賃住宅、家賃補助、障がい者グループホームなど、無料もしくは低料金で利用できる居住支援などの行政サービスや各種医療機関につなげることも、私たちB4Sの居場所の重要な役割の一つです。

*緊急一時保護は、避難所として原則無料で利用可

 

関連記事:【プレスリリース】親を頼れない10~30代のための、 相談・支援情報WebページがOPENしました >>

 

4.子ども・若者の「孤立」を防ぐ居場所づくり

 

「日々の些細な悩みを相談できる大人が周りにいない」「親や家族との関係が苦しい」「パートナーからDVを受けている」「お金がない」「とにかく話を聞いてほしい」「将来が見えない」「死にたい……」


親を頼れない子どもや若者専用の相談窓口には、日々深刻なSOSが寄せられています。家庭や学校に居場所を見出せず、悩みや問題を誰にも打ち明けられずに社会で「孤立」している子どもや若者が、今もどこかでひとりで苦しんでいるのです。そんな子どもや若者のSOSを逃さないためにも、これからも居場所は安心・安全の空間や、仲間・支援者とのつながりを提供しつづけます。

 

さいごに、子どもや若者の居場所を安定して運営していくためには、場所の確保や人の力、物資がまだまだ不足しています。一人でも多くの子どもや若者が自分の居場所を見つけ、未来に向かって羽ばたいていけるように、まずはできることから始めてみませんか?

 

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