ニュース・活動報告
はじめに
「仕事や学校のことで悩んでいる。友人に愚痴をこぼしていたら、話を聞いてくれなくなってしまった」…社会に出てそうした壁にぶつかった時、親を頼れない若者は、信頼できる相談相手を見つけられず、悩みや孤独感を一人で抱え込んでしまうことがあります。
彼らが社会から孤立せず安心して暮らせるよう、定期的な面談を通じて不安や悩み等に耳を傾け、自立に向けた歩みをサポートするブリッジフォースマイル(B4S)のプログラムが、自立ナビゲーション(略称「自立ナビ」)です。自立ナビでは、児童養護施設等を退所し社会に出た若者に、社会人ボランティアがマンツーマンで伴走します※。同じく退所後の若者を対象とした「アトモプロジェクト」「居場所事業」が仲間づくりや一息つける場の提供を主眼とするのに対し、自立ナビはより個々の若者の状況に合わせた個別性の高い支援プログラムです。
※ 2024年から、児童養護施設等の出身者に限らず、親を頼れない若者全体が自立ナビの対象となりました。
今回は、自立ナビで実際にペアを組んでいた「しんぺー(退所者)」と「寿司ボーイ(社会人ボランティア)」へのインタビューの模様をお届けします。
しんぺー:
2021年、高校3年生の時B4Sの巣立ちプロジェクト・オンラインに参加。同じくオンラインで参加していた寿司ボーイとペアを組み、児童養護施設の退所後2年間、自立ナビに参加。現在、ごみの回収や処理を行う会社で勤務。
寿司ボーイ:
2021年、B4Sにボランティア登録。初めて参加した巣立ちプロジェクトでしんぺーに出会う。以降、自立ナビで若者を見守りつつ、巣立ちプロジェクトのリーダーを務めるなど、ボランティア活動の幅を広げている。
――出会った頃、お互いにどんな印象を持ちましたか。
寿司ボーイ(以下「寿」):巣立ちプロジェクトの時の僕のこと、覚えてる?
しんぺー(以下「し」):覚えてない…。
寿:だと思った(笑)オンラインで参加者が多かったからね。
し:自立ナビで会った時は、サバサバして、思うことをはっきり言ってくれそうな人だなと思いました。実際はそうでもなかったけど。
寿:そうなんだ。僕の方は、しんぺーが同じ施設の子としゃべっている様子やおっとりした話しぶりが記憶に残っていたので、自立ナビの相手が決まった時、あ、あの子か、と。
――自立ナビを始めた頃は、どんなやりとりをしていましたか。
寿:最初はLINEで電話していたよね。
し:はい、最初の頃は、人に会える心境でなかったので。卒業後、宅配サービスの会社に就職して倉庫の仕分けをしていたのですが、ずっと同じ作業ばかりで会話もなく、精神的に落ち込んじゃった。
寿:そうだね、その頃は孤独だって言ってた。
し:楽しかった学生生活から一気にガラッと変わったから、最初の1年は精神的に追いつかなくて。寿司ボーイには最初からずっと相談に乗ってもらって、どうやってこの局面を乗り越えようかという話をしていました。その仕事は1年3ヶ月で辞めて、ごみ回収の仕事に変わりましたが、今は気持ちに余裕ができたなと思います。
寿:最初の仕事については、初回から、自分の目指したいこと、やりたいことにマッチしていないと言っていました。当初は、慣れも必要だし、職場の人との関係を深めていくことも必要では?と話しました。運動するとか、プライベートをもう少し充実させてみたら?という話もしました。でも、仕事が合わないことで気持ちの余裕がなくなって、友達ともケンカしたりして、当時は話し相手がほんとにいなかったよね。
し:学生時代から仲がよかった3人に週1回かそれ以上、LINEで愚痴とか送っていたら、「またその話?前もしたじゃん」などと言われて、話せなくなっていきました。運動すると体はリフレッシュできるけど、人と話さないことには気持ちが晴れない。今は友だちとも仲直りしましたが、当時は愚痴を聞いてくれる人が寿司ボーイだけで、「愚痴はやめて」と言わないでいてくれたから、ずっと話していました。
――そんな状態はどれぐらい続いて、どう変化していったのでしょうか。
寿:どうしても仕事が楽しくないというので、じゃ、一緒にどんなことができるか探そう、今の仕事は続けながら次を見つけようとなって、最初の半年ぐらいはずっとその話をしていました。その中で、人力車やジムトレーナーが候補に挙がってきて、しんぺーのやりたいことは「体を動かすこと」と「人と話すこと」だ、っていうことがわかったんだよね。最初の仕事は、そのどちらもなかったから楽しくなかった。
し:はい。それで、就職した半年後ぐらいから、仕事の後に別のバイトを始めました。最初はラーメン屋で、転職前提だったから正社員を目指していたのですが、結局正社員になれずに辞めて、次は引っ越しのバイトをやりました。引っ越しは4,5ヶ月続けて、仕事内容は向いていたと思います。ただ、人間関係が難しくて、このままだとメンタルをやられてしまうと感じました。
寿:他にもいろいろ考えていたよね。毎月、「こういう仕事、どうですか?」と聞かれて、「ほんとにそれをやりたいの?」って話していました。地質調査の会社に行きたいと言うので、「なんで?」「いや、地層が好きなんで」「全然、人と関係ないじゃん。同世代の人少ないないけど、いいの?」とか。
し:はい。あとドア修理の会社とか服飾関連とか、いろいろ。
――今の仕事には、どうやって出会ったのですか。
し:たまたま通勤時にごみ収集車と作業する人が走っているのを見かけて、これだったら体を動かすし、自分に向いているかもしれないと直感したんです。その日のうちにごみ収集関連の3社で面接を受けました。それで、一社だけ受かったところが今の会社です。ここで働けたことで、生活が変わりました。
寿:引っ越しバイトが一つの転機だったよね。あそこできっかけをつかめたというか。しんぺーは、今の会社に移る前は、ジムトレーナーを目指して資格取得の勉強を頑張ろうとしていました。でも、なかなか身が入らず悶々としていたところ、突然「試験やめます、新しい仕事を始めました、ここです」とリンクが送られてきた。あれ?ジムじゃないな、急に違う路線に行ったな…と驚いて、「おー、それなら次回、話を聞かせてよ」と答えました。
し:ごみ収集の会社のことを言わなかったのは、車を見かけてひらめいたその日に3社受けてしまったから。ずっと悩みを聞いて相談に乗ってもらっていたのに、突発的に動いてしまったので言いづらく、受かったら話そうと思っていました。事前に誰かに話す時間がなかったので、受けた直後はこれでよかったのかなって不安でした。でも、今思うと正解だった。あの日走っていたごみ収集車と集積の人に感謝です。
寿:感謝だね。あれを見なかったら今はなかった。
――知らせを受けた時、寿司ボーイはどう思いましたか。
寿:ものすごい行動力だと思いました。自分で乗り込んでいって、面接を受けて、バイトではなく正社員。次に会った時には働き始めていました。仕事はおもしろいかと聞いたら楽しいと話してくれて、表情も全然違い、とても前向きになっていました。今の職場は皆、仕事に真剣なんだよね。しんぺーは根が真面目なので、前の職場では仕事に対する想いや熱意を聞ける場が少なかったのがよくなかったのかもしれません。
し:最初の会社やラーメン屋では、自分が戦力になっているか分からなかった。でも、今の会社では頼りにされて、風邪を引いたりした時は、周りの人が僕の体調を気遣ってペースを考えてくれます。今は周りの人が本当に良くて、仕事内容も合っています。とても自分に向いていると思います。
――今の会社では、どんな仕事をしているのですか?
し:走ってごみを回収したり、缶をプレスしたり、タイヤを取り外したり、いろいろです。集積に行くと、ごみにライターが混じっていたり、多くはないけど、スプレーを捨てている人もいる。そのまま巻き込んだりしたら燃えちゃうので、しっかり確認して、取り除いたりしています。
寿:一年経つと発言が違いますね。プロっぽくなってきた。
し:今、会社全体で残業を減らそうとしているので、自分の仕事が早く終われば、他部署に手伝いに行くこともあります。自分がサポートに行けば、その部署の人たちが楽になって、全体的に仕事も早く終わります。それに、僕は、頑張って認められたい気持ちが強いです。サポートに行って、例えばエアコンを運んだときに、「こんなに重いものが運べるんだね!」とほめられる。これまで、あまりほめられる機会がなかったので、嬉しいんです。もう一つは、働いている時間に対してお金をもらうのだから、手が空いた時に必要以上に休むことも罪悪感があります。学生の時は全然まじめじゃなかったんだけど、社会に出て気持ちが変わってきたのかなと思います。
今の仕事を始めてからも、最初の頃は、怒られて嫌だなと思ったり、理不尽だなと感じたりすることがありました。でも、次第に、周りの人が自分の働きぶりを見てくれたり、困ったら助けてくれるし、認めてくれるところは認めてくれるようになったので、続けられています。最初は苦手だなと感じた人とも、今では仲良くやれるようになってきました。
――これから2,3年後どんなふうに働いていたいですか?
し:うーん、はっきりとは頭に浮かんでいないけど、会社に尊敬できる先輩がいるので、自分もその人たちと同じように仕事ができたらいいなと思っています。一人、すごく冷静で仕事の覚えの早い人がいて、初めはちょっと怖かったけれど、僕が何回ミスしても教えてくれる。その人に憧れがあります。
――最後に、自立ナビの2年間を振り返っての感想と、お互いへのメッセージをお願いできますか。
し:今の仕事は、最後は自分で決めたことだけれど、寿司ボーイといろいろ話していなかったら、こうなっていなかったと思うので、感謝しています。自分一人で仕事を選んでいたら、良くない方向に行っていたかもしれない。仕事を変えたくて、投げやりで地盤調査やドア修理をやりたいと言ったけれど、「ほんとにそれでいいの?」って聞かれたりしていたから、今の仕事につながった。二人で話していなかったら、また違ったと思います。
寿:しんぺーは真面目で自分で決めていく人なので、「それは絶対違うよ」という方向にさえ行かなければ、自分で道を拓いていく人だと思います。でも、そう言ってもらえて、少しでも役に立てたならよかった。
し:いろいろ話して、今の仕事に出会ったから楽しく過ごせています。ありがとうございます。
寿:しんペーの大変な時期から今に至る過程をを見ていて、その時々でサポートはしました。でも、最後に自分で決めて、自立への道を歩んでいったのはしんぺー自身! 真面目で、曲がったことが嫌いで、一人前になりたいという向上心を持っているしんぺーらしさを、サポートすることができて、よかったと思います。今日は、元気な姿が見られて、嬉しかったです。
現在、自立ナビでは、107組のペアが活動しています。親を頼れない若者たちが、巣立ちの時期に直面する2つの格差~「安心の格差」と「希望の格差」~から将来を諦めてしまうことなく、自分らしい生き方を見つけていけるよう、社会人ボランティアとB4S事務局が協力して、その道のりを見守っています。自立ナビへの参加や支援を通じて、一緒に若者たちの将来を見守ってくださる仲間が増えれば大変嬉しく思います。
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