ニュース・活動報告

株主優待に寄付制度 コクヨが放つ「自律協働社会」実現への一手

<左:コクヨ株式会社 理財本部 三浦慎一郎IR室長 右:ブリッジフォースマイル代表 林恵子>

 

コクヨ株式会社は2022年12月に株主優待制度を拡充し、社会貢献団体への寄付制度を導入しました。寄付対象となった2団体のうちの1つが、ブリッジフォースマイル(B4S)です。先駆的な取り組みの背景には、どのようなメッセージと道のりがあったのでしょうか。理財本部の三浦慎一郎IR室長と、CSV本部サステナビリティ推進室の井田幸男理事に伺いました。

 

 

「株主との想いの共有」 寄付制度の原点に


――株主優待への寄付制度導入を発案したきっかけは。

 


三浦室長:寄付制度を対外的に公表したのは2022年12月でしたが、大きなきっかけとなったのは2021年2月に策定した長期ビジョン「CCC 2030」です。新型コロナウイルス禍を契機に自分たちの価値を改めて考え、2030年におけるありたい姿を定めました。21年11月に公表した中期経営計画と並行して、当社にとってのマテリアリティ(重要課題)を整理し、「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする」というパーパス(存在意義)も打ち出しました。それまでもSDGs(持続可能な開発目標)を軸にしたマテリアリティは設定していたのですが、長期的な価値観を絡めて再定義したという形です。一連の流れの中で「株主にも同じ思いを共有して欲しい」、「われわれの考えていることを理解して欲しい」と考えた結果が、株主優待への寄付制度導入という手法でした。

 

<森林経営モデル>

 

 

――株主がメリットを享受するイメージが強い優待と寄付の組み合わせは意外感があります。


三浦室長:長年にわたって取り組んできていた株主優待の目的を、自分なりに整理してみました。まずは商品のプロモーションがあります。もう一つは財務的な価値としての株主還元の一環です。ただ、よくよく考えると企業のメッセージを伝えるという側面もあるのではないかと思いつきました。全員が選ぶことはないでしょうが、「われわれの打ち出している企業メッセージを理解する株主が出てくれたらいいな」と考えたのです。

もともと株主優待として提供していた文具セットを取りやめるわけではありませんし、大量の文具を毎年もらっても使い道に困るという株主もおられます。選択肢を増やすことで株主優待への満足度が高まれば、という狙いもありました。

 

 

――寄付対象の団体はどのように選定されたのですか。


三浦室長:使われない株主優待の寄付を手がけている一般社団法人ギビングフォワードからいくつかの候補を挙げていただきました。株主優待への寄付制度導入について相談していた経緯があったためです。紹介していただいた団体の中から、当社との親和性を含めて一緒に歩みたいと思えるところに決めました。

 

<コクヨ株式会社 CSV本部サステナビリティ推進室 井田幸男理事>

 

井田理事:その判断の根底にあるのが、われわれが実現を目指す「自律協働社会」という概念です。1人ひとりの個人が持つ個性や能力を発揮しつつクリエイティビティと多様性があふれる社会であり、自己実現と他者貢献が両立して誰もがいきいきとつながりあえる未来を指します。

企業で働きながら副業する、大学院に行きながら社会人になる、中学生だけど起業しているなどと自律しながら他と協働する考え方や生き方は今後当たり前になるでしょう。個人の選択肢が増えて自分が未来を選んでいくんだという機運が高まれば、当社がパーパスに掲げる「ワクワクするワークとライフ」にもつながります。そうした社会の実現を目指している団体は、大きな枠組みでとらえると当社の仲間ですよね。株主に仲間の存在を伝えて支援の輪が広がれば、今の世の中にある望ましくない「当たり前」を変えていけるのではないかと考えました。

 

 

寄付の選択率、当初想定の2倍超

 

――株主優待への寄付制度は珍しい取り組みです。寄付先の選定を含め、導入にあたってどのようなハードルがありましたか。


三浦室長:12月決算の当社の場合、3月に株主優待を送付するので前年の8~9月には概要を固めておく必要があります。寄付制度も同じスケジュール感で動きました。ギビングフォワードとの相談が21年末ごろから緩やかに始まり、寄付先団体の選定といった作業が動き出しました。

社内の上層部を説得するうえでのハードルになったのは、寄付先の団体にまつわるレピュテーションリスクです。NPO法人による補助金の不正受給といった問題が発覚するケースもあるので、本業ではないIR(投資家向け広報)活動の中でリスクを抱え込むのは避けたいという意味合いです。候補となる団体のスクリーニングに取り組んだのですが、NPO法人は上場企業に比べて公開している情報が少ないので苦労しました。B4Sの場合、CSR分野で著名な上場企業が寄付していたので、そうした事例を見せることで信頼できる団体だという認識を広げました。

もう一つ指摘を受けたのが、「本当にニーズはあるのか」という点です。株主を巻き込んだ社会貢献関連の施策を導入している企業が公表していた資料では、ニーズが2.5%程度あったというデータが示されていたので「同等のニーズは見込めます」と言い切りました。

 

 

――制度を導入してから2回の株主優待を実施しています。手ごたえや株主からの反応はいかがですか。


三浦室長:B4SとMORIUMIUSを併せた寄付の選択率は初年度の2023年が約5.5%で、参照したデータよりも2倍以上高くなりました。当初想定よりもかなり手ごたえがあったと感じています。B4S単体に限っても選択率は2.6%で寄付金額は200万6000円(317人)でした。B4Sを選択した株主からは「子どもたちを大切にしたい」「子どもの幸せを願っています」といった声が聞かれたほか、珍しい取り組みということで機関投資家からも高い関心が寄せられました。

ただ、2024年のB4Sの選択率は2.5%、金額は182万円(284人)と若干低下しています。パーパスやマテリアリティの打ち出しと寄付制度の導入という目新しさが際立った初年度からすれば新鮮味が薄れた可能性がありますので、なんらかのテコ入れ策は考えていきたいと思います。

 

 

――社会貢献活動は企業単体でもできます。寄付という形で外部の団体と協働する狙いは。


三浦室長:客観性を持たせたかったという点はあります。自社で展開している活動について、「われわれはこんなにいい活動をしているんです。株主の皆さんもどうですか?」と呼びかけるのは手前みそな印象が強いですよね。それよりも「他社を含めて多くの企業が評価している団体で素晴らしい活動をしています。当社のマテリアリティにも合致しているので一緒に応援しませんか?」と呼びかける方が、客観性があるし訴求しやすいと思います。

 

井田理事:ここ数年のコクヨ社内では、同じ目標を目指すオープンでフェアな関係を外部と構築する動きが広がっているように感じます。お金を払う人、受け取る人という関係であっても主従ではなく、あくまでオープンかつフェアな仲間というイメージです。2021年に神山まるごと高等専門学校に1億円の寄付を決めた時は、「ソーシャルアントレプレナーを輩出する」という今までにない学びのほか、高専に集う学生が自律して協働するという目標がコクヨの長期ビジョンとも似通うということで取締役会ですんなりと決まりました。向こうは向こうで成長するし、われわれも学ばせてもらって成長しようというスタンスです。

 

 

親を頼れぬ子どもの選択肢を増やす

 

――親を頼れない子どもという社会課題は、コクヨの事業やマテリアリティとは少し距離があるように感じます。

三浦室長:B4Sを寄付対象に選定させていただく際に、われわれは「学ばせてもらおう」と社内で言っていました。マテリアリティやパーパスを決めたばかりで、まだ何もできていないわけですから。選んで寄付をするという上からの立場ではなく、関わりを持つ人に学ばせてもらうという観点で寄付対象を選ぼうという意味合いです。これまで親を頼れない子どもに関して当社が何か積極的に取り組んできたわけではないですし、今後も事業のど真ん中にくることはないでしょう。それでも非常に大切な課題であるとは認識しています。寄付制度でできたB4Sとのつながりで課題を考えるきっかけを得て、視野を広げていきたいと思っています。

 

井田理事:親を頼れない子どもという社会問題に対して、コクヨが明確な考えやイデオロギーを持っているわけではありません。ただ、個人的な意見としては選択の自由が少ない人が抱きがちなアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を打破することで、可能性を広げたいと感じています。環境のせいで不本意ながら「自分はこうするしかない」「この道しか選べない」と考えてしまいがちな子どもたちが、自立のタイミングで支援を受けることで頑張れるようになると選択肢は増えます。生活面できちんと自立できた先に自ら選んで行動するという個人の自律があり、さらに他者と協働していくことで当社の目指す社会が形作られるのだと思います。そうした可能性をB4Sの取り組みに感じました。

 

 

――社会全体を見渡すと、企業とNPO法人の連携はまだ不十分に見えます。両者の連携の輪が広がるには何が必要でしょうか。


井田理事:透明性をもってきちんと事業を行っているNPOは多いという理解が、企業側に圧倒的に足りません。補助金や寄付金頼みで赤字に苦しんでいるという間違った印象を持っている人が少なくないため、寄付する側とされる側という認識を持ちがちですし、「自社の利益が出なくなった時に寄付ができなくなるかもしれない」といったことを考えて及び腰になるのだと思います。

加えて、企業本来の事業活動に支援を組み込む工夫が重要ではないでしょうか。当社で言えば株主優待という従来やってきた仕組みの中に寄付制度を組み込んだわけです。当たり前にやっていることが支援につながるなら負担はありませんし、お互いにとってメリットが高いと思います。ぜひ外部の目から見て、「あなたたちの普段の活動を少しだけ工夫すれば支援につながるよ」というご指摘をいただきたいです。

 

三浦室長:寄付制度の導入は一定の原資をベースに商品を提供していたなかで、新しい選択肢を設けただけにすぎません。新たに資金が必要になったわけでもなく、ほんの少し流れを変えただけでできたことです。「どうせ同じことをやるならば社会に役立つ方がいいよね」という発想で自社の事業を見渡してみれば、いろんな可能性が埋もれているのではないでしょうか。

 

 


 

▼株主優待における寄付制度の概要
従来は自社グループ商品を提供していたが、保有株式数に応じて4,000~7,000円をコクヨが設定したマテリアリティに合致する社会貢献団体へ寄付できる制度を新たに追加。「社内外のWell-beingの向上」に関してはB4S、「WORK & LIFEの基盤である地球を守るための活動」では公益社団法人MORIUMIUS(モリウミアス)が選ばれた。

 

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