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児童養護施設とは?親を頼れない子どもたちの“成長”と“自立”を支援する場所

虐待や親の病気、貧困など何らかの事情で、保護者の下で暮らすことができない、または暮らすことが適切ではない、と判断された子どもを公的な責任の下で育てることを「社会的養護」といいます。厚生労働省の2022年の調査によると、社会的養護下にある子どもは、全国で約4万2,000人といわれており、そのうち過半数を占める子どもが児童養護施設で暮らしています。

参考:令和4年3月31日 厚生労働省家庭福祉課調べ「社会的養育の推進に向けて」

 

親を頼れない子どもたちの親代わりともいえる児童養護施設ですが、その具体的役割や現状、課題を紐解きながら、社会全体で子どもを育むために必要な支援について考えていきましょう。

1. 児童養護施設の目的と役割、4つのケア

|児童養護施設の目的と役割

児童養護施設とは、保護者がないもしくは保護者に監護させることが適当でないと判断された児童の「心身の健やかな成長とその自立」を目的に、「安定した生活環境の整備」や「生活指導・学習指導・家庭環境の調整等を含む養育」「独り立ちするための準備や自立支援」といった幅広い役割を担う社会的養護の施設の一つです。

参考:厚生労働省「社会的養護の施設等について」

 

2歳未満の乳幼児は原則「乳児院」を利用することになっているため、児童養護施設では主に2歳から18歳までの子どもたちが共同生活しており、原則18歳になると施設を巣立っていきます。*

*必要に応じて20歳まで措置が延長されるケースもある

 

|4つのケア

児童養護施設では、子どもたちの施設入所前から退所後までを4つの段階に分け、最適な支援ができるよう努めています。

 

①アドミッションケア
施設入所前に、児童相談所職員や必要に応じて保護者が付き添いながら、施設見学や体験入所を行うことで、子どもの不安を取り除いたり、生活リズムを整えたりすることを目的とした支援です。

 

②インケア
施設入所後に、子どもたちの日々の生活を支える支援です。児童養護施設のメインともいえますが、日常生活の世話はもちろん、学校行事への参加、季節のイベント企画・運営、進路相談など、幅広い支援を行います。

 

③リービングケア
施設退所前、社会へ巣立つまでの期間に、一人暮らしや新たな環境での生活に向けた準備を行う支援です。家庭復帰するケースや、進学、就職するケースなど、子どもの進路に応じて必要な知識を習得させたり、環境を整えたりします。

 

④アフターケア
施設退所後に、退所者と定期的に連絡を取りあいながら、生活や仕事の悩みを解決したり、相談にのったり、居場所作りなどを行う支援です。後ほど詳しく述べますが、アフターケアの範囲や質は施設によりばらつきがあるのが実情です。

 

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2. 児童養護施設の形態とグループホーム

 

児童養護施設は、その規模により「大舎制」「中舎制」「小舎制」に分かれています。近年厚生労働省では、“より家庭的な環境”での養育が実現するよう「施設の小規模化」を推進しており、施設支援の下、一般住宅を利用して家庭的養育を行う「グループホーム」のニーズも高まっていますが、子どもたちの“健やかな成長”のために、状況に応じて最適な養育環境を提供することが大切です。

 

◆大舎制
20人以上、多いと100人以上の子どもが、一つの大きな建物内で集団生活する施設です。個室がある施設は稀で、複数人の子どもたちが性別や年齢別に分けられた大部屋で暮らし、食事も大きな食堂で一緒に食べることが多いです。

 

◆中舎制
13人〜19人の子どもが生活する施設です。大きな建物内をいくつかに区切って小さな集団生活の場を作り、それぞれに浴室や食堂など必要な設備を設けています。また家庭的な雰囲気の中で豊かな生活体験が営めるよう様々な工夫がなされています。

 

◆小舎制
12人以下の子どもが生活する施設です。一つの敷地内に独立した家屋を設置する、または、大きな建物内でより小さなグループ単位での生活の場を作り、それぞれに浴室や食堂など必要な設備を設けています。

 

◆グループホーム
近年は、子どもたちをより“家庭的な環境”下で養育できるよう、施設の小規模化が推進される中、「グループホーム」へのニーズも高まっています。グループホームでは、6人以下の子どもが施設の敷地外、地域の一般住宅などで施設職員とともに生活していますが、生活の場という側面だけでなく、近隣住民との交流などといった面でもより家庭的な体験を子どもたちに提供しやすいことが特徴です。

 

規模が小さくなればなるほど、子どもたちに家庭的な環境の提供がしやすい反面、施設職員の負担は大きくなります。また、子どもたちの中には、にぎやかな環境を好んだり、多くの大人に囲まれて過ごすことに安心感を持つ子どももいるため、施設の規模で善し悪しを決めるのではなく、どのような環境においても「子ども一人ひとり」と向きあうことが求められるのです。

 

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3. 子どもたちが児童養護施設に入所する理由

 

子どもたちはなぜ、児童養護施設に入所するに至ったのでしょうか。経済的理由や親の病気、親との死別などさまざまな要因がありますが、半数近くの子どもは「父母からの虐待」がきっかけで施設に入所しています。そして、虐待による施設入所者数は年々増え続けています。

 

参考:厚生労働省子ども家庭局 厚生労働省社会援護局障害保健福祉部「児童養護施設入所児童等調査の概要」(平成30年2月1日現在)

 

虐待件数増加の背景には、連日の報道などで児童虐待への社会的な関心が高まり、「児童相談所への通報数」が増えていることもあります。一方で、家庭という閉ざされた空間で行われている事象の発見は難しく、専門家や関係者は「いま見えている数字は氷山の一角に過ぎない」という見方をしています。

 

貧困や親の病気が発端となり虐待に至るケースなども存在し、多くの子どもたちは複雑な家庭環境下で辛い経験をし、施設に入所しているのです。

 

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4. 児童養護施設に入所するまでの流れ

 

子どもたちは、複数のステップを経て施設に入所します。

 

虐待をはじめとした、子どもの命や尊厳が奪われかねない、または健やかな成長に著しく支障をきたす環境下に子どもが置かれていると疑われる家庭を、親族や近隣住民、学校や医療機関等が発見し、児童相談所に通報するところから始まります。

 

その後、児童相談所が対象の子どもや家庭を調査、事実確認などを行い、「児童相談所長又は都道府県知事等が必要と認める場合」には、子どもを親から引き離し、一時保護所で保護します。

 

一時保護期間中に、児童相談所はさらなる調査を継続し、子どもを「家庭復帰させ在宅指導を行う」か「児童養護施設へ入所させる、里親家庭に委託するなどの措置を行う」かの方針を検討し、「児童養護施設への入所」が決定されると、「親権者の同意」と「子どもの納得」の双方を得て入所が確定します。

 

措置は、一時保護と異なり親権者の同意が必要ですので、事態が深刻であるにも関わらず、親権者の同意が得られない場合には、児童相談所が家庭裁判所に承認の審判を申し立てるケースもあります。

 

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5. 児童養護施設の子どもたちの暮らしと職員の仕事

 

児童養護施設では、親を頼れない子どもたちと職員がともに生活しています。そこでの暮らしについて見ていきましょう。

 

|施設の子どもたちの暮らし

 

朝起きて、朝食を食べて、幼稚園や学校に行き、帰宅したら夕食を食べお風呂に入って、宿題をしたり遊んだり、と施設の子どもたちの暮らしは一般家庭の子どもたちとほとんど変わりません。ボランティアの支援によりさまざまな習い事ができる施設もあります。お正月、ひな祭り、お花見、卒業・入学・進級祝い、子どもの日、夏祭り、紅葉狩り、クリスマスなど、施設側の工夫で、季節行事も行われます。

 

集団生活による制約があるという点は、一般家庭とは大きく異なります。施設の小規模化が進んでいるとはいえ、まだまだ大部屋生活を送らざるを得ない環境の施設も多く、プライバシーは守られにくい状況といえます。外出や外泊にも制限があり、原則として施設の許可が必要です。携帯電話やインターネットの使用についても施設により対応が分かれるため、オンラインでのコミュニケーションが一般化した現代において、子どもたちが不自由を感じるケースもあるでしょう。

 

また、多くの子どもたちは過去の辛い経験から心身に傷を負っており、何らかの障害に該当する子どもの入所も増えています。そのような状況下でも、一般家庭の親のように「自分だけを見てくれる」大人がいないことで、精神状態がなかなか安定しない子どもも存在しています。

 

原則18歳になると“ひとりで”施設を出ていかなければならないことを見据え、子どもたちは日々の暮らしの中で、自立に向けた準備も進めているのです。

 

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|施設職員の仕事

 

そんな子どもたちの「成長」と「自立」を支える施設職員は、ローテーション勤務を行いながら24時間体制で子どもたちの面倒を見ています。

 

食事や入浴などといった日常生活の世話や学校行事への参加、進学や就職の相談にも乗りながら、子どもたちが少しでも一般家庭に近い日常を得られるように、イベントなどの企画や運営も行います。その他にも、心に傷を負った子どものメンタルケアや、家庭復帰を目的とした子どもの家族への支援などの重大な役割も担っています。

 

退所者の中には、精神的、経済的理由などで学校を中退してしまったり、仕事を辞めてしまう若者も少なくないため、2004年からは、入所している子どもたちへの支援に加え、施設退所後3年間にわたるアフターケアも義務づけられました。

 

専門的な仕事を、これだけ多岐にわたりこなす必要がある施設職員の仕事は激務です。強い志ややりがいを持って子どもたちと接する職員も、自身の平穏な日々が守られていなければ長く続けることは容易ではありません。施設職員の勤務環境の改善は喫緊の課題なのです。

 

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6. 児童養護施設の子どもたちの現状と課題

 

|施設退所前の課題

 

周りから同情されたり、距離を置かれることを懸念して、学校生活では「児童養護施設で生活している」ということを隠している子どももいます。このような子どもの多くが、親を頼れないことの不安や悩みをだれにも相談できずに、孤独感を抱えています。

 

また、18歳での施設退所が近づくにつれて、実家という拠り所がないまま一人暮らしを始めることや、進学や就職についての精神的、経済的な不安が重くのしかかります。

 

数年前と比較すると、公的な奨学金や支援金は充実してきたといえますが、アルバイトで貯めたお金があっても、家賃含む生活費の支払いや奨学金の返済、病気やケガ、冠婚葬祭などで突発的に発生する費用などをすべて負担することを想像し、進学ややりたい仕事をあきらめてしまう子どもも少なくありません。

 

「生活スキルが足りない」「相談相手がいない」「進学すること、働くことをイメージできない」。多くの不安を抱え、子どもたちは施設を卒業していくのです。

 

巣立ちの時期に「親を頼れない」子どもが直面する社会の大きな壁 >>

 

|施設退所後の課題

 

また、施設退所後にもさまざまな壁が立ちはだかります。

 

退所者の多くは健康的な生活を送っていますが、虐待などの子ども時代の辛い経験がトラウマとなり、日常生活の中でフラッシュバックを起こしたりして、通学や通勤、外出さえも困難になってしまう退所者も珍しくありません。メンタル不調を抱えた退所者へのケアはまだ十分とはいえず、中退率や離職率の高さという課題は依然として残っています。

 

また、周りに頼れる、相談できる大人がいないことで、進学先や職場での悩み、日常生活で発生したトラブルを解決できずに事態を深刻化させてしまうケースもあります。

 

「退所後も施設職員が面倒を見ればいいのでは」という意見もありますが、アフターケア(社会に巣立った後の継続支援)の範囲や質は施設によりばらつきがあるのが実情です。特に、子ども時代に信頼関係を築けていた施設職員が退職した際には、施設と疎遠になってしまうことも想像に難くないでしょう。

 

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7. 児童養護施設の子どもたちの巣立ち支援

 

これまでお伝えしてきたように、親を頼れない子どもたちは、経済的なサポートや困ったときに心の拠り所となる実家というセーフティネットがないことによる「安心の格差」、虐待をはじめ誰かに大切にしてもらえなかった辛い経験から、自分の将来に希望が持てないといった「希望の格差」の2つの格差に直面しています。

 

18歳で児童養護施設から巣立つ子どもたちが、これらの格差を乗り越え、未来へ向かう勇気を持つために、私たちブリッジフォースマイルではさまざまな支援を行っていますので、最後にいくつか紹介します。

 

◆高校3年生向け一人暮らし準備セミナー巣立ちプロジェクト

巣立ちを目前に控えた高校3年生を対象とした、月1回の半年間にわたるセミナーです。子どもたちは社会人ボランティアといっしょに引っ越し手続きや金銭管理、危険から身を守る術など、一人暮らしに必要な知識、スキルを学びながら、半年間かけて新しい人間関係を構築していきます。

 

◆居場所事業

私たちが一番防ぎたいと考えているのが「孤立」です。寂しいとき、不安なときに「あそこに行けば、頼れる大人や仲間がいる」と思ってもらえる、気軽に立ち寄れる居場所を提供しています。横浜市の受託事業として2012年に開設された「よこはまPort For」は歴史も長く、10年以上にわたり子どもたちに「やすらぎの場」を提供しています。

 

◆自立ナビゲーション

社会に巣立った後の若者一人ひとりに、専任のメンターボランティア(自立ナビゲーター)がつき、月に1回の食事やショッピング、面談などを通じて、社会人の先輩と定期的に接点を持てる機会を創出しています。社会人ボランティアは、必要に応じて、メールや電話でもコミュニケーションを取りながら、若者たちの近況報告や日常生活、学校や職場での悩み相談などを受け、励まし、新生活のスタートに伴走します。

 

他にも、児童養護施設の子どもたちの巣立ちを支えるためには、多岐にわたる支援のカタチがあります。児童養護施設の職員、関係者でなくても、子どもたちの健やかな成長と自立を支援していくことは可能なのです。

 

親を頼れない子どもたちが「安心」と「希望」の格差を乗り越えるための巣立ち支援 >>

Bridge for Smile

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