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里親とは?ファミリーホームや養子縁組との違い
~親を頼れない子どもたちが帰る場所~

虐待や親の病気、貧困などが理由で、親と暮らせない、または親と暮らすことが不適切であると判断された子どもは、“親代わり”となる養育者のもとで生活することになります。

 

現在の日本では、こうした子どもたちの多くが「児童養護施設」で生活を送っていますが、より“家庭的な環境”で子どもたちを育てるべく「里親」養育の推進が求められています。「ファミリーホーム」や「養子縁組」との違いとあわせて里親制度についての理解を深めるとともに、社会全体で子どもたちの健やかな成長を促進していくために必要な支援のかたちについて考えていきましょう。

 

 

1. 里親制度とは

 

里親制度とは、「さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを、自分の家庭に迎え入れ、温かい愛情と正しい理解を持って養育する制度」をいい、「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行う」仕組みである「社会的養護」の一種です。

引用:厚生労働省「里親制度等について」「社会的養護

 

前提として、社会的養護は次の2つを基本理念としていることから、「すべての子どもは、公的な補助や支援を受ける権利を有している」と解することができます。

  • 子どもの権利条約(1994年に日本批准)に掲げられた「子どもの最善の利益」
  • 児童福祉法における「すべての子どもたちを社会全体で育む」

 

そのうえで、①家庭的養護と個別化 ②発達の保障と自立支援 ③回復を目指した支援 ④家族との連携・協働 ⑤経済的支援と連携アプローチ ⑥ライフサイクルを見通した支援という6つの原理を掲げており、「里親」は①「家庭的養護と個別化」と密接に関係しています。

温かい食事があり、寝る場所があり、お風呂に入ることができる、といった私たちが「当たり前」に思っている環境が整えられていない子どもたちは現実に存在しています。

里親制度は、子どもたちができるだけ“家庭的な環境”で“その子どもに適した養育”を受けられるようにすることで、健やかな成長の実現を目指しているのです。

 

 

2.社会的養護における里親の位置づけ

◆施設養護と家庭養護

 

社会的養護には、さまざまな養護のかたちがあり、大きくは「施設養護」*と「家庭養護」の2つに分類されます。
*「施設養護」の中でも小規模施設での養護を「家庭的養護」と呼んでいます

 

- 施設養護

 

乳児院、児童養護施設、児童心理治療施設、児童自立支援施設、自立援助ホーム、母子生活支援施設児童福祉施設など、社会的養護の施設で子どもを養育する取り組みのことを「施設養護」といいます。

専門的知識や経験をもつ職員を配置すること、複数名の大人が子どもたちの養育に関わることで、子ども一人ひとりに最適な支援を組織で提供します。また、実親と子どもの関係性が良好な場合には、家庭復帰に向けた支援などを行うケースもあります。

 

- 家庭養護

 

養子縁組や里親、ファミリーホームなど、より家庭的な環境で子どもを養育する取り組みのことを「家庭養護」といいます。

特定の養育者が長期にわたり子どもの成長に寄り添うこと、子どもの特性に応じて細やかかつ柔軟な対応をすることで、愛着形成や信頼関係の構築、安心できる居場所作りを目指します。また、家庭生活を送る中で、自身が大人になったときに家庭をもつイメージの醸成にもつながります。

 

 

◆4種類の里親とファミリーホーム

 

「里親」は「家庭養護」の一種です。里親になるために特別な資格は必要ありませんが、前述のとおり、子どもの健やかな成長を実現するために自治体が定めた要件を満たすこと、子どもに適した環境を提供できるよう、研修受講や面談、家庭訪問への協力などが求められます。ここでは4種類の里親と、混同されがちなファミリーホームについてもご紹介します。

 

- 養育里親

 

保護者がいない、もしくは保護者に監護させることが不適切であると認められた子どもを養育することを希望する者のうち、厚生労働省令で定める要件を満たし、都道府県知事が委託を認め、養育里親名簿に記載された者が養育を委託された場合、「養育里親」となります。

 

- 専門里親

 

前述の養育里親の資格を有している者が、虐待などで心身に有害な影響を受けた子どもや、非行または非行に結びつく可能性のある子ども、身体障害・知的障害・精神障害がある子ども、都道府県知事が特に支援の必要があると認めた子どもを養育する場合、「専門里親」となります。

 

- 養子縁組里親

 

保護者がいない、もしくは保護者に監護させることが不適切であると認められた子どもとの養子縁組を経て養親になることを希望する者のうち、都道府県知事が委託することを認めた場合、「特別養子縁組里親」となります。

 

- 親族里親

 

両親または監護者の死亡、行方不明、拘禁、病気による入院などで、子どもの養育が困難となった際に、都道府県知事が3親等以内の親族に養育を委託することを認めた場合、「親族里親」となります。

 

- ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)

 

近年では、里親委託を受けた者がNPO団体と協働して、5名から6名の児童を家庭的な雰囲気の中で養育する形態である「ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)」も展開されています。ファミリーホームでは、里親(養育者である夫婦2人)をNPO団体職員などが養育補助者としてサポートしながら活動しています。

 

3.里親制度の現状

 

「児童相談所運営指針について(平成17年2月14日厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)」で、里親制度の意義については、次のとおり定められています。 

 

  • 里親制度の意義は、家庭での養育に欠ける子ども等に、その人格の完全かつ調和のとれた発達のための暖かい愛情と正しい理解をもった家庭を与えることにより、愛着関係の形成など子どもの健全な育成を図ることであり、児童相談所はその趣旨を十分理解し、本制度の積極的活用に努める。
  • 特に、父母が死亡した子どもや、父母が長期にわたって行方不明である子ども等については、里親委託措置を積極的に検討する。

 

また、2008年(平成20年)に、日本は国連からの勧告をうけ、児童の代替的養護に関する指針の採択を批准しました。同指針では、今後の養育の方向について、次のとおり定めています。

 

  • ・施設養護と家庭を基本とする養護とが相互に補完しつつ児童のニーズを満たしていることを認識しつつも、大規模な施設養護が残存する現状において、かかる施設の進歩的な廃止を視野に入れた、明確な目標及び目的を持つ全体的な脱施設化方針に照らした上で、代替策は発展すべきである。かかる目的のため各国は、個別的な少人数での養護など、児童に役立つ養護の質及び条件を保障するための養護基準を策定すべきであり、かかる基準に照らして既存の施設を評価すべきである。公共施設であるか民間施設であるかを問わず、施設養護の施設の新設又は新設の許可に関する決定は、この脱施設化の目的及び方針を十分考慮すべきである。
  • 児童の家族、地域団体、文化的集団とのつながりを維持しつつ児童に養護と保護を提供できる公認の里親を各地に確保すべきである

 

参考:国連総会採択決議 64/142. 児童の代替的養護に関する指針

 

この国連指針を受け、近年厚生労働省では、集団生活を主とした「施設養護」から、できるだけ小規模で家庭的な雰囲気で子どもを養育できる「家庭養護」への移行を推進しています。

 

厚生労働省の令和4年の里親制度資料集によると、平成22年度末時点で12.0%だった里親等委託率は、令和2年度末には22.8%まで上昇しているとのことです。

 

引用:厚生労働省「令和4年10月 里親制度(資料集)」

 

4.里親制度の課題

 

里親委託が推進されつつありますが、その実まだまだ障壁も多く、改善の余地は大きいです。里親制度の課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

◆里親への認知・理解の低さ

 

日本では、先進国の中でも圧倒的に家庭養護の普及率が低いといわれています。社会的養護や里親についての認知活動が不足しているがために、「潜在的に里親になれる人」にアプローチできていないのです。

参考:日本財団ジャーナル『潜在的な里親候補者は100万世帯!なぜ、里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか?』

 

◆里親になるハードルの高さ

 

また、里親について理解を深めれば深めるほど、「自分には務まらないのではないだろうか」と躊躇してしまう里親候補者も少なくありません。そもそも子育て経験がない、子育て経験があっても里親経験がない人にとって、専門知識の習得含めインプットすべきことが多いこと、いざ里親になってみないとわからない想定外の事象への準備が十分にできないことなどは、不安要素となっているようです。

 

◆里親を続ける難易度の高さ

 

また、要件をクリアし、無事に里親になった後にも壁は存在します。

 

まず、元の家庭環境の影響で、大人に対する信頼感をもてず試し行動をしてしまったり、何らかの障害をもっていたりする子どもの養育を担った際など、対応に悩むことが挙げられます。加えて、子どもが社会に巣立つ前に準備しておきたい、金銭教育、キャリア教育、性教育などの「自立支援」についても、何をどのようにしたらいいか知識も経験もないまま里親になる方も多いです。

 

そんな中、困ったこと、わからないことを相談したくても、委託元である児童相談所には、里親として不適格と判断され委託を解除されることが怖くて気軽に相談できない、といったケースも少なくありません。

 

こうした里親をケアする目的で、里親が一時的に休暇を取得し、ファミリーホームや乳児院、児童養護施設、他の里親家庭などに援助を依頼できる「レスパイト」という制度もありますが、委託元である児童相談所に利用申請を出さなければならないため、心理的ハードルが高く利用しづらいという声も聞かれます。

 

さらに、社会に巣立った後の生活相談や居場所づくりなど行う「退所後支援」にいたっては、法律上でも里親の役割とされておらず、里親の善意に頼らざるを得ないのが実態なのです。

 

 

5.里親支援のかたち

 

こうした課題を解決すべく、2016年に改正された児童福祉法では、里親登録者に対しての育成や支援を担う「フォスタリング機関」の役割や業務が明確になり、全国で設置が進んでいます。

 

一方、支援が行き届くまでには相当な時間を要するため、対応が追いついていないのも実情です。少しでも里親支援を加速すべく、NPO法人などとの連携にも期待は高まります。

 

私たちB4Sは、「親を頼れないすべての子どもが笑顔で暮らせる社会へ」というビジョンを掲げ、里親家庭の子どもたちにも社会に巣立つための準備や、退所後の居場所作りに貢献することで退所後支援に不安を抱えている里親の方のご負担の軽減に努めています。さらに、フォスタリング機関と協力して、よりよい里親支援を提供できたらとも考えています。B4Sのボランティアの中には、将来里親をやってみたいけれど、まずは子どもたちと触れ合うボランティア活動から始めたいという方も少なくありません。そのようなボランティア向けに私たちは定期的にセミナーを開催していますが、里親の方にもご参加いただいています。

 

子どもたちを支えるための人材育成「施設職員・里親セミナー」>>

 

6.社会的養護施設と里親制度の共存

 

気をつけておかなければならないことがあります。
社会的養護を里親・小規模化すれば、あらゆる問題が解決するのではないこと、決して児童養護施設及び乳児院施設での養育が間違っているのではない、ということです。

 

里親による養育が促進される背景には、社会システムにより、子どもたちがより家庭的な雰囲気で生活する権利を奪われてしまうのではないかという視点のためだと考えられています。里親による養育であっても、大規模施設による養育であっても、養育者が、その子どもたちが生活する中での小さな変化に気づき、一人ひとりの気持ちに配慮しながら、柔軟に支援内容を変えていくことが重要であり、どのような場所であっても、常に子どもたちに伴走していく姿勢が求められているのです。

 

「親を頼れない」子どもの現状 「守られることのない」子どもたち>>

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