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子どもを取り巻く環境と社会問題|親を頼れないすべての子どもが笑顔で暮らせる社会へ

近年、子どもたちを取り巻く環境は深刻さを増しています。激しい環境変化の中で、貧困や虐待、孤立などといった課題を抱えたまま、子どもたちは助けを求められずにいたり、環境を変えることをあきらめてしまったり、自分が置かれている状況の異常さに気づけていないケースさえあります。そして子ども時代のトラウマや、経済・教育などの格差は、子どもたちが社会に巣立つ際にも大きな障壁となって立ちはだかっているのです。

 

これらの課題を解決するためには“大人や社会の協力”が必要不可欠です。どんな環境に生まれ、どんな環境で育っても、子どもたちが笑顔で暮らせる、そんな社会の実現に向けて、“いま私たちが子どもたちにできること”を考えていきましょう。

 

 

 

1. いま子どもたちを取り巻く環境と直面する社会問題とは

 

◆子どもの貧困と教育格差

 

2020年から2022年にかけて、コロナによる緊急事態宣言などにより社会は一変しました。コロナ以前から「日本の子どもの7人に1人は貧困」といわれており、経済的支援が必要な者、特に「相対的貧困層」*といわれる子どもたちの環境や生活に関する社会問題は喫緊に改善すべき重要テーマとして存在していましたが、コロナ禍、その緊急性は一層増しています。

*相対的貧困:その社会における標準的な生活水準に比べて相対的に貧困な状態(2人世帯であれば世帯収入が約200万円以下、3人世帯であれば約250万円以下)にあること。日本における「子どもの貧困」とは相対的貧困を指す

 

学校が一斉休校になったり、在宅授業を強いられたりする中、親の職業によっては働き方のシフトチェンジがうまくいかず、賃金カットやひどい場合には職を失ってしまうケースも相次いだことは記憶に新しいでしょう。「家庭の所得格差」はオンライン授業への対応可否など子どもの教育環境においても格差を生み、特に、ひとり親家庭やヤングケアラー*の子どもたち、何らかの事情で親に頼ることができない子どもたちの生活に暗い影を落としました。

*ヤングケアラー:本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的におこなっているような子ども

 

2021年末に、内閣府より初の「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」が発表されましたが、ここでも貧困世帯の学習環境の悪化について述べられています

 

◆子どもへの虐待

 

2021年に公表された厚生労働省の調べ(「全国の児童相談所(児相)が相談対応した件数」)によると、「18歳未満の子どもへの児童虐待件数は、30年連続で増え続け、2020年度は過去最多*の20万件超えとなった」ことが明らかになりました。

 

児童虐待は、殴る・蹴るなどの暴力を加える「身体的虐待」、十分な食事を与えないなどの「ネグレクト(育児放棄)」、暴言や脅しで子どもの心を傷つける「心理的虐待」、そして「性的虐待」の4つに分けられます。今回の調べでは、「心理的虐待」が12万1,334件(59.2%)で最も多く、次いで「身体的虐待」が5万35件(24.4%)、「ネグレクト」が3万1,420件(15.3%)、「性的虐待」が2,245件(1.1%)だったこともあわせて報告されています。

*コロナの影響で親子が家庭で過ごす時間が増えたことも虐待増加の背景にあるのではないかと懸念された時期もありましたが、「実際には相関は見られていない」と厚生労働省は分析しています

 

報告件数増加の背景には「児童虐待に対する社会的関心の高まり」もありますが、それでも依然として虐待は家庭外に知られにくく、見過ごされているケースも多く存在しています。

 

虐待は死に至らなかったとしても、暴力による身体障害や、十分なコミュニケーションや食事を与えられないことによる発達の遅れ、そしてPTSD(心的外傷後ストレス障害)などを誘発し、その後の子どもの人生を左右するほどの深い傷を与えるのです。

 

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◆子どもの孤立

 

子どもの貧困や虐待は、子どもが“人とつながる”機会をも奪っています。子どもの孤立には、「家庭での孤立」「学校での孤立」「地域での孤立」などがありますが、共通しているのは“頼れる大人が周りにいない”ことです。

 

家に常に誰もいない、といった物理的な孤独もそうですが、親がいたとしても無視される、暴力を振るわれるといった心理的な孤独の中、子どもたちは家庭内で孤立しています。そして不安定な家庭環境は、子どもたちが学校生活を送る上でも精神的な負荷を与えてしまい、不登校やいじめなどといった問題につながる危険性も孕んでいます。家庭内のセンシティブな問題については、先生や友達に相談しにくいと考えている子どもも多く、学校内でも孤立してしまいます。

 

家庭や学校という、本来の居場所を奪われた子どもたちは、次第に「大人や社会に期待すること」「自分を大切にすること」をあきらめ、非行に走ったり、精神疾患を発症したりして、地域でも孤立するといった悪循環が形成されていくのです。

 

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◆子どもの巣立ちを阻む心の傷

 

子ども時代の困難は、子どもたちが社会に“巣立つ”際にも悪影響を及ぼしています。

私たちブリッジフォースマイル(B4S)では、児童養護施設を退所した若者たちの状況を継続的に調べるトラッキング調査をおこなっていますが、2021年度の調査によると次のような結果が出ています。

  • 大学・短大・専門学校などに進学した若者の27.1%が、卒業後2年3カ月のうちに学校を中退
  • 就職した若者は、当初は70~80%が正社員・正規公務員となるが、そのうち12.5%が就職後3カ月までに離職。3年目までには約40%が最初の勤務先を離職しており、4年目になると正社員・正規公務員ではない就労形態か無職が40%を超える

 

こうしたデータをさらに紐解いていくと、子ども時代に受けた心の傷が何らかの精神疾患や発達・知的障害を生じさせ、学業や仕事の継続を困難としているということも見えてきました。

 

 精神疾患や精神障害の有無          発達障害や知的障害の有無

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ここまで、「子どもたちを取り巻く社会問題」について見てきましたが、貧困・教育格差、虐待や孤立など、社会問題に直面し誰にも頼れずにいる子どもたちや、子ども時代の経験によりいまなお困難を抱えている若者たちを支援する体制や方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

2. 社会的養護の状況と課題

虐待や親の病気、経済的理由などで保護者のもとで暮らすことができない、または適切ではないと判断された場合、子どもは一時保護を経て、公的な責任のもとで生活するようになります。この社会的枠組みを「社会的養護」といい、社会的養護のもとで育つ子どもは、厚生労働省の2022年の調査によると約4万2,000⼈にのぼるとされています。

*出典:令和4年3月31日 厚生労働省家庭福祉課調べ「社会的養育の推進に向けて」より

 

◆児童養護施設

 

児童養護施設は、2020年時点で全国に612カ所あり、社会的養護下にいる子ども2~18歳*のうちおよそ3分の2にあたる3万人弱が暮らしています。過去は「大部屋・大集団での生活」を基本とする施設が中心でしたが、近年はできる限り小規模で「家庭的な環境」が望ましいとされ、小規模化が進行しています。地域社会の住宅を利用して数人の子どもと職員が生活する「グループホーム」も増えています。なお、子どもたちは、高校を卒業すると同時に児童養護施設も退所し、“ひとりの生活”が始まります。

*児童養護施設で暮らすには幼すぎる2歳未満の乳幼児は、「乳児院」に入所

 

◆里親・ファミリーホーム

 

施設ではなく、里親に委託される子どもたちもいます。1万2,315世帯が里親登録をしており、そのうち4,379世帯が7,104人の子どもを育てています(経験豊かな養育者が事業として5~6人の子どもを家庭で養育するファミリーホームを含みます)。特定の大人との長期的な人間関係構築による子どもの心理的安全性担保や、愛着関係による健全な心の成長支援を目的に、政府は「施設から里親へ」の転換を強力に推進していますが、実親が里親委託に同意しないケースも多く、なかなか進まないのが実情です。

 

その他にも、「乳児院」「自立援助ホーム」「母子生活支援施設」「児童自立支援施設」「児童心理治療施設」など、社会的養護には、さまざまな形態が存在し、“親を頼れない”子どもたちを支援しています。

 

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3. 子ども支援の方法

 

「児童養護施設」や「里親・ファミリーホーム」など、さまざまな公的支援があることをお伝えしました。次に、私たち一人ひとりができる子ども支援についてご紹介したいと思います。

 

 

◆ボランティア

 

私たちは、「親を頼れないすべての子どもが笑顔で暮らせる社会へ」をミッションに、多くの社会人ボランティアの方々にご協力いただきながら日々子どもたちをサポートする活動をおこなっています。

 

巣立ちプロジェクト
巣立ちを目前に控えた高校3年生を対象とした、月1回の半年間にわたるセミナーです。子どもたちは、引越しの手続きや金銭管理、危険から身を守る術など、一人暮らしに必要な知識、スキルを学びます。社会人ボランティアは、巣立ちを前に不安でいっぱいの高校生に寄り添い、自立に向けて前向きな気持ちを持ってもらえるようサポートします。

 

自立支援セミナー
私たちスタッフや社会人ボランティアが児童養護施設などに出向いておこなうワーク形式の「出張セミナー」、複数の施設や里親家庭の子どもたちを集めておこなう「集合型セミナー」を実施しています。中高生が早い時期から自分の将来をイメージできるよう、コミュニケーション、金銭管理、キャリアなどをテーマとして扱います。

 

居場所事業
施設に入所している子どもや退所者が気軽に立ち寄れる場所として、2022年4月現在、横浜、佐賀、熊本で自治体の依頼を受けて運営しています。子どもたちや退所者たちとおしゃべりしたり、一緒に食事をしたり、時には相談にのったりします。

 

自立ナビゲーション
巣立ち後の若者とペアを組み、月に1回会って話をしたり、食事をしたりします。近況報告や生活、仕事の中で抱える不安や悩みの聞き役になるほか、メールや電話でも定期的なコミュニケーションを取り、退所後の孤立やトラブルを防ぎます。

 

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◆啓発活動

 

“親を頼れない子どもたちの存在を見過ごさない”社会実現のため、一緒に行動してくれる仲間を増やすことを目的とした啓発イベント「コエール」を毎年夏に開催しています。
“子ども時代に親を頼れなかった若者”が、自身の体験や思い、自らができること、社会に協力してもらいたいことなどを、半年間かけて原稿にまとめ、イベント本番スピーチします。原稿やスピーチは、社会人ボランティアやプロのアナウンサーのご協力のもと、聴講者に“伝わる”メッセージとなるよう精度を高める工夫をおこなっています。

 

他にもさまざまな団体が積極的にボランティア活動をしていますので、ご自身にあった活動をぜひ探してみてください。

 

◆寄付

 

「ボランティアに参加したくても物理的・時間的に難しい」「見知らぬ人の中に飛び込むのはハードルが高い」といった方々には寄付*もおすすめです。

*認定NPO法人への寄付は税制控除の対象となります

 

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4. いま子どもたちにできること

 

「子どもの社会問題」はその後の子どもの人生に大きな爪痕を残し、困難を強いる場面も少なくありません。制度や社会を変えることはハードルが高いように思われるかもしれませんが、「日中や夜遅くに独りぼっちでいる子どもを気にかける」「虐待が疑われる場面があったら189(イチハヤク)に連絡する」「子どもの社会問題に取り組んでいる団体を支援する」など、私たち一人ひとりにできることを積み重ねていくことが、子どもたちの明るい未来実現を加速させると信じています。

 

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