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18歳成人年齢引き下げでも、変わらない生きづらさ
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2022年4月、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これは、児童養護施設など社会的養護のもとで育った若者たちにとっては基本的に朗報と言えます。これまでは、原則として18歳で施設を退所し自立しなくてはならない一方、20歳で成人するまでは一人で契約できないという「法のはざま」で、多くの若者たちが苦しんできたからです。しかし、親を保証人とすることができない子どもたちの生きづらさが解消されるわけではありません。何故でしょうか。

 

◆未成年の契約に課せられる「親権者同意」

携帯電話の契約のほかにも、アパートを借りる、パスポートを作る、クレジットカードを作るなど、さまざまな場面で、未成年者の法律行為には「親権者の同意」、つまり親権者が契約書に署名・捺印することが必要とされます。

 

親権者とは通常は親であり、親がいない場合は法的に選任された未成年後見人がその役割を果たします。〝普通の〟家庭で育った若者であれば、親に署名・捺印をしてもらえば済む話ですが、社会的養護下で育った若者は多くの場合、親がいても頼ることができません。いっそ親がいなければ未成年後見人に頼れますが、親がいる以上、病気などで何もできない親であっても、会ったら何をされるかわからない暴力的な親であっても、その親が親権者として絶対的な力を持っており、その協力なしではものごとが進まないのがこの社会のルールなのです。

 

それでも、施設にいる間は施設が親代わりになれる部分もあります。携帯電話については10年ほど前から、施設長の同意で契約できるようになりました。施設の退所を前に就職先を決めたりアパートを借りたりする際も、施設長が親代わりの身元保証人となりやすいよう、問題が起きた時に国と自治体が費用の一定額を負担する「身元保証人確保対策事業」が2007年から始まっています。問題は退所してから20歳になるまでの約2年間で、施設を離れた後の退所者の身元保証まで引き受ける施設は限られています。その結果、退所者の多くが、携帯の新規契約ができない、引っ越しや転職ができない、パスポートが取れず留学できないなど、「親権者の同意」の壁に人生を阻まれてきました。

 

18歳成人が実現すれば、こうした問題は解消される。社会的養護の関係者はそう考えて、成人年齢の引き下げを歓迎したのです。

 

◆変わらない社会慣習「身元保証人」問題

ですが残念ながら、成人年齢引き下げ後も実態はさほど変わっていない、と困惑する声が上がっています。パスポートの取得など公的な分野では問題はなくなりましたが、民間がどう対応するかは契約の主体である各企業次第だからです。携帯電話業界では18歳以上ならほぼ一人で契約ができるようになったようですが、その他の業界では、法律に基づく「親権者の同意書」は不要としつつ、親権者などによる「身元保証」を求める企業が多いというのです。

 

不動産業界ではもともと、家賃滞納などのリスクに備えるため、契約者が20歳以上であっても連帯保証人を求めるのが一般的です。連帯保証人に代わって専門の保証会社を利用できるケースも増えていますが、どちらを使うかは貸主側の意向によりますし、連帯保証人と保証会社の両方を求める貸主もいます。保証会社側が借り手の状況を見て単独での保証を避け、連帯保証人もつけるよう求めることもあります。「18~19歳の場合、親が保証人や緊急連絡先にならない限り、契約しない方が得策」と業界にアドバイスしているコンサルタントもいます。

 

アルバイトなどの労働契約については、対応はさまざまです。若者のアルバイトを多く使う外食産業では、これまで18~19歳に求めていた「親権者の同意または身元保証」を今後は不要とするところが多いようですが、その他の業界では「検討中」や「現場の裁量に任せる」という声も聞かれます。もともと、20歳以上も含めたすべてのアルバイトについて身元保証人を求めている企業もあります。アルバイトについては身元保証人を求めなくても、正社員として入社する場合は身元保証人を求める企業も多いようです。

 

「親権者の同意」は不要でも身元保証人は必要となると、親に頼れない若者たちにとってハードルの高さはさほど変わらないということになります。社会的養護下で育った若者の多くは、親以外の親族ともつながりは深くありません。身元保証人は親に限らないとはいえ、親や親族以外で身元保証人になってくれる人はそうはいません。身元保証人は親や親族がなるもの、という社会通念のなかでは、身元保証人に他人を立てるというだけで偏見を持たれることもあります。

 

実態は変わらないどころか、悪化を心配する声もあります。「身元保証人確保対策事業」を利用して若者たちの身元保証人になる施設長が減るのではないか、という懸念があるのです。いまや、18歳で施設を巣立つ時点で、すでに成人です。「法のはざま」が解消された以上、リスクを冒して身元保証をする必要はない、と施設が考えるようになってもおかしくはありません。

 

そもそもの問題は、家族による身元保証という社会慣習にあるのではないでしょうか。不動産契約などで金銭的な保証が必要な場合は、保証会社が適正な費用でそれを引き受ければ良いはずです。何かにつけて個人が身元保証人となることを求め、しかも身元保証人には親がなるのが当然である、という社会通念が変わらない限り、親に頼れない若者たちの苦しみが消えることはありません。

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