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子どものころ虐待を受けた当事者の声
子どもの写真(小学生男子)イメージ写真

◆子どもは自分の家の“異常さ”に気づけない

家庭というのは、基本的に閉ざされた空間です。外の人が訪れることはあっても、その内情を知ることは簡単ではありません。逆に言えば、ものごころつく前から育った家庭はその人が知るただひとつの家庭であり、他の家庭と比べて考えることは困難です。

ですから、子どもを虐待したり、子どもに本来負うべきではない重荷を負わせるような家庭で育った子どもたちも、自分が間違った子育てをされていることの異常さになかなか気づけません。

 

母から殴られたり蹴られたり、時には刃物を投げられたりしながら育ったというAさんは、高校1年であまりのつらさから自死を決意して保護されるまで、自分が虐待を受けているとは認識していませんでした。Aさんの様子を心配した人もいましたが、「しつけ」だという母の主張に周囲も手を出せずにいたため、Aさん自身もこれは「しつけ」なのだと思いこんでいたのです。

またY君は、離婚して心を病んだ母から「お兄ちゃんが父親代わり」と頼られ、長男として家事や弟妹の世話を押し付けられ、死を考えるほどに追い詰められました。しかし、「自分の家庭しか知らず、その世界が僕のすべてだった。誰かに相談するなどということは思いつかなかった」と当時を振り返ります。

 

◆親に愛されたい、悪いのは自分

どんな親であっても、子どもは親に愛されたい。だから、虐待する親にも懸命にすがり、必死に気を使います。

Mさんは、幼い妹の世話をしながら母の暴力に耐える日々でしたが、ある時、母に「私は死んだほうがいいの? 生まれてこなければよかった?」と尋ねました。そんなことはないって言ってほしい一念でしたが、母は「バカじゃないの」と言ってMさんを4度、蹴りました。

Oさんは自分に暴力をふるう母に「大好きな母だから」と怒らせないよう気を使い、弟妹の世話を進んで引き受け、高校も通信制を選んでひたすら家族に尽くしてきました。

 

つらい思いをするのは自分が悪いから、と思ってしまうのも、子どもにありがちな心の動きです。

Kさんは、威圧的な父にきつく叱られながら育ち、殴ったり蹴ったりされても「私が悪いんだ」とひたすら我慢していました。「自分はダメな子」と思い込んでいたため常に不安で、家の外でも殻に閉じこもって友だちを寄せつけませんでした。

T君は義父の暴力から逃れて祖父母宅に身を寄せ、そこでも邪魔者扱いされましたが、祖父母から「お前が親から離れるって決めたんだろ? だから1人で生きていくしかないんだ」と言われ、すべては自分の責任だと諦めていました。

 

◆SOSを出すことにもハードルがある

仮に自分の家の「おかしさ」に気づいても、それを人に知られたくないと思う子どもも多くいます。

Sさんは、暴力的な父が去った後、大好きだった母からも暴力を受け、自分で自分を傷つけるほどに苦しんでいましたが、人前ではひたすら「普通」にふるまっていました。「自分のつらさに気づいてしまったら生きていけないから」誰にも苦しみを知られないよう必死で、学校も決して休まなかったというのです。一方U君は、従兄弟から性的いじめにあっていましたが、病弱な母には悩みを打ち明けられず、また性的いじめを人に知られるのも怖くて、学校にはほとんど行けなくなってしまいました。

 

社会的養護の実態が知られていないため、保護されることに安心感が持てず、助けを求められない、というケースもあります。

M君は宗教にのめりこんだ家族から長年にわたって虐待を受けていました。小学生の時も中学生の時も何度か助けに入ろうとしてくれた人々がいましたが、「助けられた後、どうなるかわからないから怖くて」差し伸べられた手を振り払い、一方で自分の心が壊れないよう、自分の体を傷つけていました。

 

助けを求めたにもかかわらず、助けてもらえなかった子どももいます。

Nさんは、母に殴られたり、深夜に冷たい廊下で土下座させられたりしながら育ち、いつも怯えた顔をしていたため学校でもいじめにあっていました。成長するにつれて自分の家のおかしさに気づき、高校生の時、思い切って信頼していたピアノの先生に相談のメールを送りましたが、返信はありませんでした。部活の顧問にも相談しましたが、「高校生なら働けるんだから、嫌なら家を出れば」とあしらわれ、耐えかねて交番に駆け込んだら、警察官は「親を悪く言うなんておかしい」とNさんを責めたのです。Nさんは、誰も助けてくれない社会に絶望するしかありませんでした。

 

以上は、親を頼れない環境で育った若者たちが、ブリッジフォースマイルのイベント「コエール」などで語ってくれたリアルな声です。自分のつらい過去を人前で語ることには大変な勇気が必要ですが、彼らは「自分たちのことを知ってほしい。こうした子どもたちがいることに気づいてほしい」と願って、声をあげてくれました。彼らの背後には、人知れず苦しんでいる多くの子どもたちの声なき声があるのです。

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