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厚生労働省が公表した「実態調査」によせて(第2弾)

4月に厚労省から公開された「児童養護施設等への入所措置や里親委託等が解除された者の実態把握に関する全国調査」を読み解くシリーズ、第2弾です。

 

第1弾では、

・ケアリーバーという文言について

・回答率と回答者の状況

・アンケートの配布状況

・配布できない理由

などを読み解きました。

★第1弾はこちら

 

第2弾は、

・最後に生活していた施設数の割合

・措置解除になったタイミング

・措置解除後の進路

・収支バランス

に関する結果を読み解いていこうと思います。

 

◆回答者の「最後に生活していた施設数の割合」と、措置先の比率の違いから見えること

本調査に回答したケアリーバーの「最後に生活していた施設数の割合」は、「児童養護施設 75%、里親家庭7%程度」となっていました。一方で、数年前の厚労省発表の別のデータでは、児童の措置先の比率は「児童養護施設 60%前後、里親家庭12%程度」とあります。

 

60%が児童養護施設に措置されていたのに、回答率が75%であることから、アフターケアに関しては相対的に、児童養護施設のほうが里親家庭よりもできているのではないか、と推察されます。里親制度の推進が現在注目されていますが、このアフターケアが手薄なのではないか、という懸念はもう少し気にすべき課題ではないでしょうか。

 

また、最後に生活していた施設の都道府県と、現在生活している都道府県というデータもあります。

関東と九州で活動をしているブリッジフォースマイルとしては、関心のある数値なので注目してみました。

東京、大阪、愛知のような、いわゆる大都市圏に周辺の地方から人が大きく移動しているのではないかと予測したのですが、思ったほど大きな数値の動きはありませんでした。

ただし、これをもって「地方から都市部への移動がない」と見るべきなのか、施設とつながっていない若者はアンケートに回答していないという本調査の実施背景を踏まえて「施設とつながっている若者は、おおむね出身施設の目の届く範囲内で生活している」という判断を下すべきなのかは、何とも言えないところです。

 

◆措置解除になったタイミングは、7割が3年以内

 次に、回答者が措置解除になったタイミングを見ると、「2019 年度」の割合が最も高く24.9%(742 人)。次いで、「2018 年度は、23.6%」、「2017 年度は、17.6%」となっていました。さらに、「2020年4月以降」の4.2%(おそらく年度途中の家庭復帰や自立援助ホームで20歳の誕生日になったなどが考えられる)を加算すると、措置解除後2年以内だけで52%程度、3年以内で70%近くになります。

 

これは、措置解除後4年以上経った若者と施設の関係性が希薄になっていることが推察されるデータです。年数の経過とともに関係性が希薄になっていくのは、もちろん当然のことですが、あまりに極端な数値である言えます。

 

今後成人年齢の引き下げが進むことで、出身施設に頼らずとも契約などができるという事実がこの傾向を後押しすることになるのか、それとも、進学率の上昇がこの傾向を緩やかなものにするのか、興味深く見ていきたいところです。

 

◆措置解除後の進路は?

続いて措置解除後の進路のデータを見てみます。家庭復帰するケースもありますので、高校卒業時点のデータというわけではありませんが、就職・就労が53.5%、進学が36.3%でした。よく言われている高校卒業時点の進学率は2割前後という話と比べると、随分高い数値のように思えます。

 

個人的には原因の一つとして考えられるのは、大学などに進学する若者の場合は、2年目以降の奨学金の申請や金銭管理などの都合で施設とつながっているケースが多いので、進学者が比較的今回のアンケートに回答をしやすかった、という可能性があり得ます。とはいえ、これだけ数値が高くなるのは、児童養護施設などの出身者の進学率が、従来に比べ、確実に上昇してきていると言えると思います。

 

続いて、現在の就労・就学の状況ですが、「働いている」が70.1%で、「学校に通っている」が23%です。当然、学校を卒業すれば就職するというのが一般的な流れなので、「学校に通っている」の数値が下がることはおかしくはないのですが、36.3%から23.0%という数値はちょっと下がりすぎではないか、という気もします。「現在通っている学校の種類」という調査結果では、4 年制大学の割合が35.7%、専門学校・短期大学が30.9%、全日制高校が19.1%となっていることと、退所後3年以内の回答者数が圧倒的に多いことを考えると、やはり、下がりすぎではないか、中退が増えているのでは?という疑問も出てきます。

 

次に、就労している人の正規・非正規の割合を見ると、正社員が51.8%、非正規が43.1%となっています。令和2年時点で、世の中の非正規割合は35%程度(総務省の雇用統計)ですので、少し非正規の割合が高めです。でも、児童養護施設出身者の若者は非正規雇用が多い、とまでは言えないかと思います。ただ、これに関しても今までの調査統計同様、「施設とつながっている若者に関しては」という但し書きがつくことを改めて念押ししておきます。

 

◆収支バランスについて:非正規就労の若者の26.6%が赤字 

収支バランスについては、黒字の方が26.8%、収入と支出が同程度の方が31.4%、赤字の方が22.9%でした。

ちなみに正社員就労に限ると、赤字の割合は13.3%になります。進学中の方が赤字になるのはある意味やむを得ないところもあるかもしれません。そのため、高校時代に貯金をするなど備えています。

ただ、非正規就労の若者の26.6%が赤字という数値は、かなり深刻な問題と言わざるを得ないでしょう。

 

 

データを見ていて感じるのは、施設とつながっている若者でさえ、少なくとも2割程度の若者が苦しい状況にあるのではないか、ということ。施設とつながってないケースだと、さら厳しい数値になるのか、と考えると、怖いな、と思うのです。

今回はこのあたりで終わりましょう(続きは第3弾で!)。

子ども・若者支援担当 矢森 裕章
今回の調査結果を見て、社会的養護を取り巻く環境は以前に比べて確実に良くなっているということです。とはいえ、今を生きる子ども、若者にとって、昔よりは良くなった、という言葉はあまり意味を持ちません。
今を生きる、未来を生きる若者がより、主体的に自分の人生を選択できるような世の中になればと思います。今回の調査はそのための一助となると思いますし、改めて今回調査に関わった皆様に感謝します。

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