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複雑性トラウマへの理解と寄り添い

上司に叱責されたり、納得できない嫌なことがあったりすると、「トラウマになっちゃったよ」と言うことありませんか?

最近、若者からよく「トラウマ」という言葉を聞くのですが、本当のトラウマは、そんなに気楽に話題に出来る話ではありません。

 

トラウマには見えやすいトラウマと、見えにくいトラウマがあります。

「見えやすいトラウマ」は、例えば、災害などの後に起こるトラウマです。

大変な災害を体験した後に残る多くの喪失感や精神的な打撃から回復するのは時間がかかります。しかし、単発で同時に多くの人が受けた事故や自然災害などによる被災体験は、原因がわかっているため、周りからの理解が得られやすく、支援につながることは比較的容易です(決して十分ではありませんが…)。

 

こうした「単発性トラウマ」とは区別して、数年前から言われるようになったのが「複雑性トラウマ」です。こちらは、家庭内などで日々起こる暴力や暴言などが原因となるもので、閉ざされたところで起きることが多いため、見えにくく厄介なトラウマです。

家庭内で当たり前のように、日々暴力や暴言を受けて育った場合、子どもは「自分が悪いから」とか、「自分がダメだから」と思い込みがちです。暴力や暴言がある家庭環境を「普通」と思い、自分が「被害者である」ことに気がつくまで長い時間がかかります。時には虐待の結果、死にゆく子もいます。

常に自分の行動を否定され、存在まで否定されるような言葉を浴びせられたら、生き延びても心は死んでしまうかもしれません。

 

日常的に虐待にさらされた子どもたちは、自己肯定感が低く、成長するにつれ、社会に馴染めず生きづらさを抱えていきます。本来、安心安全を提供するはずの養育者の存在が、子どもには理解できない大人の都合で罰せられる「恐怖基地」になるのです。そのような子どもは、常に不安を抱えることになります。

しつけや教育が行き過ぎると、無抵抗な子どもは、あたかもマインドコントロールされたように、親の価値観を鵜呑みにして、その環境で生き延びる術を身に付けます。それが、社会に出ると孤立感を強めて、社会に適応できない状態を作り出します。衝動的な行動や自傷行為、時にパニックや解離など、訳もなく精神的不調に陥って、健康にも大きな影響を及ぼします

 

私にとって、最もつらいのは、決して悪くない子どもたちが、「自分が悪い」「自分が家族を壊した」と思い込んで、強烈な罪悪感を持っていることです。「あなたは悪くない」「あなたには生きる価値がある」「あなたには持って生まれた才能があるし、生きる意味がある」ということを、言葉で伝えても、そう簡単に受け取ってはもらえません。

 

支援に携わる人にできることは、自分の価値観や判断、評価を持ち込まずに、まずその人の今のありようを、そのままに受け入れて、自分が彼らにとって安心、安全な場の一部になること。安心、安全を感じられる関係性を継続的に持つことではないでしょうか。

何だか難しく思えるかもしれませんが、実は、それが支援者にも優しい関係つくりの場になるのでは。

慢性化した虐待の被害から回復するのは、専門的なトラウマ治療の前に、周りに信頼できる大人がいて、失敗しても見捨てられず、自分の弱みを見せても安心な環境を提供できることではないかと、思う昨今です。

居場所支援、専門支援担当 やすみん(楳林 康子)公認心理師
B4Sスタッフに仲間入りして2年半。主に「よこはまPort For」という居場所のスタッフと、専門支援チームで個別支援と研修の講師をしています。
前職は児童相談所の一時保護所の心理療法士(現在は、公認心理師)で、生活場面での思春期の子どもたちの心のケアに携わってきました。B4Sに来て、仕事の対応の早さと多様さに驚きつつ、自分の年を多少は意識して、ゆとりも忘れずに、仕事にいそしんでいます。

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