ニュース・活動報告

児童虐待を取り巻く環境に今、何が起きているか?

皆さん、一時保護所という場所をご存じですか?
一時保護所は、児童相談所で「親と離して一時的な保護が必要」と判断された子どもたちに安全な生活の場を提供する、児童相談所管轄の施設です。親が来ないように所在地が伏せられており、そこで子どもたちがどのように生活しているかは、ほとんど知られていません。

 

私は、ブリッジフォースマイルのスタッフになる前の 12年間、横浜市の児童相談所の一時保護所で心理療法士として勤務していました。これまでの経験を踏まえ、子どもへの虐待について触れてみたいと思います。

 

最近は虐待通報が義務となり、通報件数も年間16万件と急増して、都市部では収容人数を大幅に上回る子どもたちが保護されて、慣れない場所で生活しています。時々、一時保護所の環境は劣悪!という批判を耳にしますが、そうとも言えません。あざの跡が痛々しい子どもが安心して眠れたり、家庭で1日3食のご飯を与えられなかった子どもが、おいしいご飯が食べられると喜んでじきに太り始め、虫歯だらけで来た子が歯科治療を受けて、歯磨きの習慣が身に付いたり・・・

 

よく、一時保護されると学校に通えなくなり、勉強が遅れてしまうと、教育面での不備を指摘されます。確かに教員経験のある先生が個々に学習スケジュールを作って指導に当たっていても、時に子どもたちが落ち着かず、ADHDや発達障害の子どももいるので、教室が騒がしくて勉強しにくい環境があることは事実です。
一方で、弟妹の世話で学校に通えていない子、引きこもりの子、学力がひどく遅れている子たちにとって、保護所で初めて勉強する環境を与えられ、高校に進学できた例も数多くあります。
自分ができないことを人に知られたくない子どもたちは学習に身が入らず、つい騒いでしまいます。しかし、九九や算数の計算、読み書きなど小学2,3年でつまずいて、その後の学習が身に付かなかった子が、わからなくなったところから個別に勉強のやり直しができる体制があれば、勉強に興味が湧いて成績は伸びていきます。保護所の生活環境は決して十分ではありませんが、マンパワーが充実して、安心して生活できる場所があれば、家庭でなくとも子どもは成長します。

 

しかし、最近の保護児童の増加により、保護所は子どもであふれ、その分職員は疲弊して、一人ひとりの子どもに目が行き届かない状況が進んでいます。保護所から出て子どもが生活できる児童養護施設の空きや里親がいなければ、保護期間は延びるばかりで、子どもたちが保護所に滞留し、長期化すると様々な問題行動を起こして、さらに混乱が生じます。収容人数を増やすために、新しい保護所や施設を作るなら、都会の真ん中ではなく、地方の自然環境豊かな場所で子どもたちを育て、そこで新たな仕事を生み出せないかと夢想したくなります。

 

幼少期に保護されないまま思春期にもなると、自分から家出して、保護を求めてくる子どももいます。彼らが主張するのは、自分も悪いと思うけど、虐待する親の方がもっと悪いんだから、自分の非を認めて素直に謝ってほしい、という親への期待です。けれど、子どもが変わる以上に親が変わることは難しい!!

 

親が変わることをあきらめて、まずは自分で自分の将来を考えてくれたら、自立に向けて支援できることはたくさんあるのですが、子どもが親子関係のしがらみから解放されるのは容易なことではありません。一人になる恐怖は子どもでなくとも誰もが抱えているもの。その孤独を知り、一緒に孤独を抱えつつ支える人たちがいることを信じて、親に頼らず、自分の足で歩きだす覚悟が子どもにも問われています。

 

では、子どもを虐待してしまう大人はどうしたらいいのでしょう?
親もまた、苦しみ、傷ついていないでしょうか。
親自身に、辛い成育歴や不適切な養育のもとで育った経験があるかもしれません。仕事や子育てに悩んでも、他人への不信感からSOSを出すことができない場合もあります。
子どもを感情のはけ口にして暴力をふるったり、期待通りにならないことを理不尽に罰したりすることを、自分では止めれないのかもしれません。

 

親の側にある罪悪感や悩みを吐き出せる場をつくり、親であるその人が蔑ろにしてきた自分の痛みに寄り添う支援が安心して受けられるよう、子どもの一時保護という緊急対応だけでなく、根本的な家族の問題に対応できる支援者の専門性と懐の深さが求められています。虐待の予防は、養育者への支援も含めて、今始まったばかりです。

子ども・若者支援担当 楳林 康子
週末は横浜駅近くの「よこはまPort For」で、
施設や里親家庭出身の青年たちが
安心して立ち寄れる場をみんなで作っています。

Bridge for Smile

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