ニュース・活動報告

ひとつ屋根の下で こっそりとアイを叫ぶ

3年と少し前まで、『社会的養護』の"しゃ"の字も知らなかった私。
今でこそ、ニュースで、児童相談所が何をする所なのかを説明していますが、当時の私は児童相談所と児童養護施設との区別もつかないくらい何も知りませんでした。

 

そんな私が、現在、里親として里子の養育に携わっています。

 

始まりは「養子」について調べたこと。
当時は「養子」と「里子」の区別も知りませんでした(※1)。

 

とある児童相談所での里親説明会に参加し、そこで初めて『社会的養護』という単語を知りました。
その後、養育里親の研修を受けたのです(※2)。

 

約半年後に里親認定は下りたものの、すぐに里子が家に来るわけではありません。
里親になると仕事との両立も難しくなるだろうと思い、 勤めていた会社を退職。今からちょうど3年前 に、B4Sの事務局スタッフになり、B4Sが実施する様々なプロジェクトに参加しました。

 

例えば、「巣立ちセミナー」や「出張セミナー」では自立を控えた多くの中高生と知り合いました。「自立ナビ」では 一人立ちした18歳の女子と月に1回お茶やランチをしたり、「就労インターンシップ」では、わずか数日間での目を見張るような成長ぶりに感心したり…と、様々な子どもたちに出会いました。

 

そして、なかでも特に私へ大きな経験をもたらしてくれたのは、里子を迎えるまでの期間に従事した「よこはま Port For」での1年間です。

 

「よこはま Port For」では、金・土・日の14~20時の間に、まるで自宅のリビングの様な空間で、各々が好きなように過ごします。
お菓子を食べながら会話をしたり、ゲームをしたり(私はここで将棋を覚えました!)、スーパーへ夕食の買い物に行ったり、一緒に料理をして 皆で食卓を囲んだりします。

 

そこで様々な背景をもつ、様々な性格の子どもたちや若者たち(高校生から30代まで!)と「ひとつ屋根の下で」時間を共にし、『社会的養護』の現実を目の当たりにしたのです。

 

そして昨年春から、里子との生活が始まりました。
24時間365日「ひとつ屋根の下で」生活を共にする里子のと暮らしは、最大でも週に3日、1日6時間しか顔を合わせない時間限定の「よこはまPort For」とは全く違いました。
B4Sですでに数十人の『社会的養護』の子どもたちと知り合い、全てを知った気になっていた私には、それが “ほんの一部” でしかなかった事を思い知らされました(過去形ではなく、まだまだ現在進行形ですが…)。

 

例えば、どこの里親研修(※2)でも必ず習う「試し行動」。
うちの里子の場合、 “食べるもの”  より  “食べないもの”  のがほうが圧倒的に多く(大袈裟に言ってしまえば2:8くらい)、 私自身もその子と同じ生活をしたため、家庭で食べられるものが殆ど無くなってしまい、その結果、半年で体重が6キロも減ったほどでした(笑)。

 

もしこれまで、B4Sの様々な活動で、色々な子どもたちに出会っていなかったら、落ち込み方はハンパなかったと思います。そんな時、「そういえば、よこはま Port Forで夕食を作ろうとした時、あの子も、この子も、好き嫌いが多くて大変だったよな~」と彼ら・彼女らの顔が浮かぶと、不思議と気分が軽くなるんですね。

 

2017年に発表された「新しい社会的養育ビジョン(※3)」によって、里親家庭への委託が急ピッチで進められていますが、全国児童相談所長会による調査(※4)では、里親の委託解除理由のうち「里親との関係不調による委託解除」は約24%。7歳児以上の委託に絞ると、その割合は5割へと跳ね上がります。

 

心に大きな傷を負った『社会的養護』の子どもたちと生活を共にすることは、「子どもを育ててみたい」という “大人側の希望” だけでは成り立たないほど過酷なものであることを、この数字は物語っています。「里親不調」による委託解除は、ただでさえトラウマを抱えた子どもだちにさらなる心の傷を残します(※5)。
テレビドラマや映画で描かれる血の繋がらない家族の “美しい絆” なんて、今の私には現実の “上澄み” しか描いていないとさえ見えてしまいます。

 

それでも、「ひとつ屋根の下で」、血の繋がりがあろうとなかろうと、「(“里” 付きですが)親」としての立場で子どもと生活するという経験が、人生のなかに有るか無いかでは、全く別モノだなと思うようになりました。
誤解を恐れずに言うなら、初めて “大人になれた” 実感さえします(遅!)。
テレビドラマや映画を観る時も、“親としての視点” で観られるようになったのは、まさに180度の転換です。

 

私はこれからも、B4Sで出会った何十人の子どもだちと「ひとつ屋根の下で」一緒にご飯を食べた日々を思い出し、試行錯誤を繰り返しながら、里子との日々重ねていくでしょう。これらの経験は、どんな里親研修よりも強烈に 里子との繋がりを結びつけてくれていると信じ 、今日もご飯を作り続けています。

 

毎年10月は「里親月間」です。各地域で様々なイベントが行われますので、関心のある方は、ぜひ参加してみてくださいね。

*里子の個人情報保護のため、名前や写真は伏せています*


※1:養子と里子の違い
家族の戸籍に入る養子と違い、里子はあくまでも自治体から一時的に委託を受けた子どもである為、戸籍や住民票には入らず 里親には親権もありません。

※2:養育里親研修
里親には、短期で子どもを預かるものから、専門知識を持った里親まで様々な形があります。また各自治体によって里親への認定基準や研修内容は異なります。

※3:試し行動
愛着障害に起因し、生活を共にする大人がどこまで自分を許してくれるのかを試す行動と言われています。

※4:新しい社会的養育ビジョン
2017年8月厚労省が「新たな社会的養育の在り方に関する検討会」から発表したもの。里親への委託率を7年以内に75%まで引き上げる(現在の全国平均は19%)という方針などが盛り込まれています。

※5:全国児童相談所長会による調査
http://www.zenjiso.org/wp-content/uploads/2015/03/ZENJISO091ADD.pdf(72ページ参照)

※6:里親不調
委託された里親家庭との折り合いが合わず、児童養護施設等の他関係施設や他の里親家庭へ措置変更されること。里親不調は、委託開始1年以内が一番多いです。

運営担当 むーく
養育里親と事務局スタッフ 両方をやっているから見えてきた“自立支援”について書きました。

Bridge for Smile

認定NPO法人ブリッジフォースマイルのホームページへようこそ!

私たちは、児童養護施設や里親家庭などで暮らす、親を頼れない子どもたちの巣立ち支援をしているNPOです。
ご関心に合わせ、以下から知りたい項目をお選びください。