
ニュース・活動報告

「一人じゃない、私はここにいるよ」。そんな思いを胸に、仕事に向き合っている事務局スタッフ「カリーナ」。
大学で児童福祉を学んだ後、児童養護施設、留学、相談支援窓口を経て、2023年11月にブリッジフォースマイル(B4S)へ入職しました。居場所事業を担当し、親を頼れない子ども・若者たちの自立支援に取り組んでいます。どのような道のりを経て、「今」に至ったのでしょう—
■原点は、母の姿だった
――児童福祉の仕事を志したきっかけを教えてください。
十代の頃、母の生い立ちがとても壮絶だったことを知りました。私は中学・高校時代、部活動で忙しい毎日を送っていましたが、その傍らで母が大変な思いをしながら家族と関わっている姿をずっと見ていました。
母はどんな状況でも、私たち3兄妹に「あなたたちには違う生き方をしてほしい」と言い続けてくれていました。その姿を見て育ったことが、自分の中では大きかったですね。
親から不適切な関わりを受けている子どもたちがいることを知り、調べていくうちに、児童養護施設の存在を知りました。「こういう子どもたちのために、自分にもできることがあるかもしれない」と思い、児童養護施設で働くことを目指すようになりました。
大人になって、この仕事に就いて改めて思うのは、母自身も虐待サバイバーだったということです。今、母は六十代になりましたが、それでも当時のトラウマを抱えながら生きています。
よく考えるのは、「母が大変だった頃に、誰かそばにいてくれる人はいなかったのだろうか」ということです。もしあの頃の母が誰かと出会えていたら、何か違っていたのではないか。そんなことを考えるようになりました。母と私は180度違う人生を歩んでいました。だからこそ、どんな些細なことでも、過去の母と今の自分を比べずにはいられないのです。自分が当たり前のように「させてもらえたこと」、母がどうしても「体験できなかったこと」――そのすべてに思いを馳せるたび、胸が締め付けられるような気持ちになります。
あの頃の母が必要としていたかもしれない「誰か」に、私がなってみたい。自分の人生を歩みながらも、母へ恩返しをしたいと考えるようになりました。母と同じような境遇の若者たちに少しでも「早く頼れる誰か」になるために、大学では児童福祉を学ぶことにしました。
■「日々の積み重ね」で子どもたちを支える
大学卒業後、カリーナは児童養護施設に就職します。この施設での経験が、さまざまな背景を持った子ども・若者たちとの関わり方の土台となっています。
――児童養護施設では、どのようなことを感じていましたか。
自分の人生の中でも本当に大きな経験でした。
子どもたちと生活を共にするだけではなく、「こんなことをやってみたい」という声があれば、一緒に調べたり、見学先を探したり、できる限り挑戦できるようにしていました。
一方で、虐待の経験は、それまで生き抜いてきた時間と同じ時間をかければ癒やせるかというと、そうではありません。
だからこそ、ご飯を作り、一緒に食卓を囲み、生活の匂いや風景を共有する、そんな日々の積み重ねが大切だと思いました。
そうした日々を重ねることで、「あなたは大事にされている」「愛されている」「必要とされている」ということも伝えていく。それをチームで一丸となって、丁寧に関わっていました。
――日々の関わりの中で、難しさを感じることもありましたか。
ありました。虐待を経験した子どもたちは、大人に対する不信感や諦めを抱えていることが少なくありません。私たちは血のつながった家族でもありませんし、施設には集団生活ならではのルールもあります。
それでも、「だいすき」と言われた時に、人から与えられた愛がこの先の人生を紡ぐ大切な感情だと実感しました。この仕事は本当に大好きでした。
■留学で知った、自分らしい生き方への視点
児童養護施設で働いた後、アメリカへ留学。視野を広げ、日本で働くためのエネルギーを蓄えたいという思いからでした。
――留学を決めた理由を教えてください。
高校生の頃から、海外の子どもたちを支援したいという思いは漠然とありました。
でも、まずは日本の現状を知ってからと思って児童養護施設で働きました。ただ、その中で少し日本のシステムに疲れてしまったところもあって、一度留学して視野を広げ、日本でまた働くためのエネルギーを蓄えようと思いました。
留学中は、住み込みで子どもたちの世話をしながら、大学にも通うという生活を送りました。その経験は、母への感謝を改めて実感する機会にもなったといいます。
子どもを三人預かる家庭で生活したのですが、本当に大変で(笑)。アメリカに着いてすぐ、ほぼワンオペで私たち兄弟を育ててくれた母に「ありがとう」とSNSでメッセージを送りました。子どもたちの日々のお世話だけでなく、発熱時の看病をするような機会があると、「母もこうやって私たちを育ててくれていたんだな」と、改めて思うことがたびたびありました。
また、アメリカで出会った人たちとの交流は、価値観にも大きな影響を与えました。
日本では「将来何をしたい?どうなりたい?」と聞かれると職業で答えることが多いですよね。でも、アメリカでは「暖炉のある家で皆と過ごしたい」「庭でマシュマロを焼きたい」というような理想の生活や人生の姿を答える人が多かったことが、とても印象に残っています。
■孤独・孤立と向き合い、「頼れる場所」を考える
留学を終えて帰国したカリーナは、自殺防止相談窓口でチャット相談員として約2年間働きます。児童養護施設を退所した子どもたちの中には、希死念慮がある人が一定数います。彼らが大人になった後、施設から出て一人で暮らす中で、どのような困難を抱えるのかを知りたいという思いが、その仕事を選んだきっかけでした。
――相談支援の仕事には、どのような思いで携わっていましたか。
児童養護施設では、関わった子どもたちのその後を見届けることはできませんでした。大人になってからどのような困難を抱えるのか知りたいという思いもあり、自殺防止相談窓口で働くことを選びました。
相談者の背景はさまざまでしたが、共通していたのは孤独や孤立を抱えているということでした。そうした人たちに、自分にできることはないかと思って応募しました。
相談はチャットで行われるため、相手の顔も名前も分かりません。しかし、匿名だからこそ語られる本音がありました。
基本的には「死にたい」という言葉から始まる相談がほとんどです。さらに、文章だけでやり取りするのは難しさもあるのですが、文章だから良い面もありました。人の温かさが伝わるような言葉を探して、意識してメッセージを送るということをしていました。もちろん、その場で問題を解決できるわけではありません。必要に応じて公的な相談機関につないだり、別の支援につなぎます。それも必要な支援のひとつです。
そして、社会では普通に暮らしているように見える人からも、本当はこういう苦しさを抱えているんだ、こういうことがつらいんだという声をたくさん聞くようになりました。
だからこそ、みんなが保健室に行くような感覚で相談したり、人を頼ったりできる場所があればいいのに、と強く思うようになりました。
■「私はここにいるよ」と伝えられる居場所をつくりたい
その後、児童養護施設で働いていた頃から知っていたB4Sに入職。現在は、居場所スタッフとして、親を頼れない子どもや若者(ユース)一人ひとりとの関係づくりを大切にしています。
――現在の仕事で、大切にしていることを教えてください。
母のことや、これまで関わってきた仕事の経験から、一番大切にしているのは、「誰かを頼っていい」「一人じゃない」「私はここにいるよ」ということです。
居場所では、私の方がみんなからエネルギーをもらっていて、たいしたことはできていませんが、いっしょに笑って過ごせる時間が本当に楽しいんです。居場所に来てくれるみんなが「こういう人もいるんだ」「こんな場所があるんだ」という発見や温かさを感じてもらえたらうれしいなと思っています。
人と関わるのが苦手だった人がボードゲームに参加するようになったり、話すのが苦手だった人が自分から「相談したいです」と個別相談を予約してくれたり、時間をかけて緩やかな変化が起こるのが居場所です。そして、そうした変化を支えているのは、「安心できる環境を整えること」。
「この人になら話してもいい」と思えるようになるまでには、関係性を築くことが必要だから、とカリーナは言います。
その子のペースを大切にしながら、日々の関わりを丁寧に積み重ねていく。その積み重ねが、芽を出すきっかけになればと思っています。いざ話してくれたときは、本当にうれしいですね。
私は「支援している立場」というより、人と人との関係を大切にしたいと思っています。
居場所に参加してくださっている社会人ボランティアのみなさんも、それぞれ違う価値観や人生経験を持っています。みなさんがユースにいろんな話をしてくださることも、とてもありがたいです。
最後に、居場所がどのような場所であってほしいかを尋ねると、カリーナは、穏やかにこう語ってくれました。
私たちは、彼らの人生のすべてを背負えるわけではないです。人生という長いロードムービーの中で、私たちはほんの一瞬、同じフレームに映り込むだけにすぎません。それでも、その一瞬という時間に誠実でありたいと思っています。その時感じた想いは、お互いにきっと残っていて、「あの時、あの居場所で、あの人が受け止めてくれたな」 とふっと思い出してもらえる存在にもなれると思っています。
そして、どうしようもなくしんどい時に「もう一度あの場所を頼ろう」と選べるような、小さなお守りのように在り続けられたらいいなと思います。

この日はボーリング大会。たまにある”居場所開催イベント”も、カリーナの楽しみの一つ。
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