
ニュース・活動報告
認定NPO法人ブリッジフォースマイルでは、子どもを取り巻く社会問題の解決に向けて「共に行動をする仲間を増やすこと」を目指したプログラム【コエール】を運営しています。虐待などにより親を頼れなかった経験を持つ当事者たち(イルミネーター)が自分に起きた出来事を社会問題として向き合い発信していきます。

左上から:ヨウ、しま、うみ 左下から:とも、林代表
2026年6月10日夜、コエールのオンライン座談会「虐待サバイバーが読み解く“あのニュース”——家族・通告・支援」を開催しました。申し込みは132名にのぼり、当日の参加者の皆さんはチャットに次々と質問を寄せながら、熱心に耳を傾けてくださいました。
今回の座談会は、あるニュースをきっかけに企画されたものです。プロ野球の元監督が娘に暴力をふるい、その娘がAIに相談したところ児童相談所への通告を勧められ、それが発覚のきっかけになったという出来事でした。SNSには「家族の問題なのに」「やりすぎだ」「復帰を望む」など、さまざまな声があふれました。
しかし私たちは、この件で一つの家庭の是非を論じるのではなく、「当事者たちは、このニュースをどう受け止めているのか」という問いを社会に投げかけたいと思います。
代表の林恵子は開会にあたり、こう伝えました。「一つの家庭で起きたことは、どこまで行ってもその家族にしかわからないことがある。この場では、今回の件をきっかけにイルミネーターの皆さんが自分の経験と重ね合わせながら感じていることを語ってもらいたいと思っています。この会が終わった後に、もう少し想像力を持ちながら、子どもたちの状況に目を向けていただけると嬉しいです」
登壇者紹介
▮林 恵子(ブリッジフォースマイル代表)
2004年に認定NPO法人ブリッジフォースマイルを設立。児童養護施設や里親家庭など、親を頼れない子どもたちの巣立ち支援に20年にわたって取り組む。コエールを立ち上げ、当事者の声を社会に届ける活動を牽引している。
▮ファシリテーター兼イルミネーター ヨウ
小学生のときに母子家庭となり、母親の精神疾患によるヤングケアラーを経験。高校生から児童養護施設に入所し、大学卒業後は小学校教員に。一年間、児童相談所のケースワーカーとしても勤務した経験を持つ。今回の座談会ではイルミネーターとして参加しながら、進行も担当。
▮イルミネーター しま
幼少期から母親の交際相手による身体的虐待・心理的虐待を受けて育つ。小学4年生から3年半、児童養護施設で生活し、現在は看護師として働く。
▮イルミネーター とも
裕福に見える家庭環境の中、食事も十分に与えられない状況でありながら、外からは「恵まれている」と見られていたため、「自分が相談できる立場にない」と思い込んでしまい、助けを求めることができず孤独に育つ。現在は妻子と共に穏やかに暮らしている。
▮イルミネーター うみ
両親から教育虐待を受けて育つ。先生に声をかけてもらったことで児童相談所とつながり、施設・里親を経験。現在は社会人1年目。
目次
トークテーマ① | AIへの相談——「いい時代になったんだな」
今回のニュースで注目を集めた「子どもがAIに相談した」という事実。これをイルミネーターたちはどう受け止めたのでしょうか。ヨウから最初の問いが投げかけられました。
ヨウ:AIが児童相談所に相談したらいいとアドバイスした。AIに従った長女を批判する意見もありましたが、皆さんはどう思いますか。
しま:いい時代になったんだなと、すごく率直に思います。どこに相談したらいいかわからなくても、AIを活用して相談できたというのはすごく良かったと思います。私が施設に入った頃はスマートフォンもパソコンもなかった。調べるとなったら本しかなかった。今の子たちが羨ましいとすら思いますね。
うみ:私はYahoo!知恵袋に投稿していました。『親からこういうことをされています、どうしたらいいですか』と。コメントをもらって、児童相談所やNPOの存在を教えてもらった記憶があります。AIとの明確な違いは、AIでは否定されないこと。AIは最初に相手を肯定した上で話を進めてくれる。相談相手として適していると思います。
とも:死にかけレベルじゃないと、相談する立場にすらなれないと思っていました。外からは『恵まれている』と見られていたので、恵まれている部分を引き算されて、結局相談できないにたどり着いていた。そういう子どもたちにとっても、AIは自分で情報にたどり着ける手段になりますよね。
続いてヨウが「なぜ相談できなかったのか」という問いを深めます。
しま:年長さん、つまり5歳か6歳の頃から、誰かに相談したら家庭の雰囲気が悪くなるかな、と考えていました。お母さんのいないところで彼氏(母の交際相手)に殴られるのが怖くて。
5歳の子が、相談することで生じる影響を考えていた——そのことを受けてヨウがこう言いました。
ヨウ:SOSを出さないという選択も、自分を守るための一つの方法だったのかもしれない。だとしたら、AIに相談したくなる気持ちも、だんだん分かってくる気がします。
トークテーマ② | なぜSOSは届かないのか——通告・児相・二次被害、4人のリアル
通告をどう感じるか——4人の答えはそれぞれ違った
「もし当時、大人に通告されそうになったとしたら、止めてほしいと思いましたか。」
この問いへの4人の答えは、驚くほど異なりました。
うみ:全くそんなことは思いませんでした。むしろ、言ってくださいと。中学生なりに、助けてもらわなければ生きていけないと感じていたから。
しま:どちらかと言えば、通告しないでほしいと思っていました。お母さんと離れることになるから。暴力をふるっていたのは母親の交際相手で、お母さんのことは大好きだったんです。
とも:誰が来ても突っぱねていたと思います。当時の自分は、みんなのことが嫌いでしたから。深い人間不信の中では、誰の介入も受け入れられる状態ではなかったです。
ヨウ:通告が何かという前提もなかった。とにかく家から離れたかった。施設に行かないかと声をかけてもらった時、ラッキーと思いました。
同じような経験をしていても、「通告」に対する気持ちはまったく違う——そして関わる大人の姿勢によって、その後の人生がこれほど変わる。この座談会で何度も繰り返されたのは、そのことでした。
SOSを出した時の大人の反応——二次被害という現実
ヨウは「今回の長女が出したSOSから警察沙汰になったことで大きな記事になっている。社会の反応に傷ついているのではないか」という懸念を提起しました。続いて、うみに「自分がSOSを出した時の大人の反応」を問います。
うみ:相談するように促してくれた先生は、『それはうみが育つ環境として良くない状況だから、先生は先生の考えに基づいて児童相談所に言わせてもらうね』という、支援につなげてくれるタイプのすごくいい大人でした。一方で、良くない方もいらっしゃって、『暴力なんて昔は当たり前だ』とか、『親はお前の成長に期待してるからそういうことをするんだ』という言葉もありました。そういうことが日常茶飯事だったので、大人の反応は大体五分五分ぐらいですかね。
ヨウ:一番傷つくのって、自分は困っているって言ったのに、否定される。それを繰り返すと、相談する気持ちもなくなりますよね。
大人から否定される経験が積み重なることで、相談することへの不信感が生まれる。これが「SOSが届かない」構造の一つです。
児童相談所の対応——関わる大人によって変わる人生
しまとうみは、児童相談所の担当者との経験を語りました。その内容は対照的なものでした。
しま:私の思いを聞いてくれていました。お母さんが彼氏と別れてくれるなら家に帰りたい、別れられないなら施設に入る、という思いを理解してくれて、その先の答えを持ってきてくださいました。
うみ:私が『施設に行きたいです』と言ったら、その時の担当職員は『あなたは素行が悪いので実家に帰します』と判断するような対応でした。うみはどうしたい?って意見を聞かれたことも、ほぼありませんでした。職員の方々を信用できなくなって、本当のことを話したくないなと思ってしまいました。
ヨウ:関わる大人によってすごく変わるんだなということが如実に現れる2人の経験ですよね。似たような経験をしているにもかかわらず、関わる大人によってその後の対応が変わってしまう。
児童相談所という機関を一括りにするのではなく、その中にいる人たち一人一人の関わり方で、子どもたちの人生が大きく変わる——この座談会が社会に伝えたいことの核心がここにありました。

トークテーマ③ | 当事者だから語れること——虐待を社会問題として考えるために
座談会の締めくくり、ヨウは4人に「この件を通して、社会にどう変わってほしいか」を問いかけました。
うみ:子どもたちに伝えたいのは、訴えることを怖がらないでほしいなと思います。バッシングされるかもしれない、怖い——そう感じるのは当然のことです。でも今日ここにいる4人は、今、虐待を受けている子たちと同じような経験をしてきた仲間です。そして、今日ここに参加してくださった大人たちのように、ちゃんと関心を持ってくださる方も、必ずいます。
とも:虐待は、絶対に許されない行為です。判断はAIと児童相談所に任せればいい。私たちはただ、虐待はダメだということだけを意識してほしいと思います。
しま:無関心な大人が減ればいいなと思います。いじめを見て見ぬふりするのはいじめと一緒、とよく大人は言いますが、虐待も同じです。ニュースを観て『かわいそうに』とだけ言って終わらせるのではなく、自分に何かできることはないかと、少しでも考えていただけると嬉しいです。
ヨウ:子どもはSOSを外に出せない。世界も狭いし、知っていることも少ない。だから私たち大人がしっかりと視野を広げて、虐待はダメだと伝え、相談していいと伝え、それを受け止められる器の大きな大人になりたいと自分自身がまず、思いました。
「誰が悪いか」ではなく「この社会に何が足りないか」へ——今回の座談会が示したのは、その視点の転換でした。
一人の子どもがAIに助けを求めた背景には何があったのか。なぜSOSは届かないのか。「通告」は子どもにとって何を意味するのか。関わる大人次第で、その後の人生にどれほどの影響を与えるのか。こうした問いに、4人のイルミネーターは自分自身の経験をもとに答えてくれました。
コエールのイルミネーターたちは、企業・学校・地域でのワークショップを通じ、この問いを「自分ごと」として考える機会を提供し続けています。
虐待は、家庭の出来事ではありません。社会に「関心を持った大人」が増えることが、次の被害を防ぐ第一歩だと、イルミネーターたちは伝えています。
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企業の研修、学校・大学の授業、地域の講演会など、さまざまな場でご活用いただけます。

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