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【当事者インタビュー】「ブリッジフォースマイルに出会って、人に頼ることができるようになった」みう

認定NPO法人ブリッジフォースマイル(B4S)は、児童養護施設や里親家庭で暮らす子どもたちが高校卒業を機に自立の時を迎える際に直面する、さまざまな困難を乗り越えられるよう、巣立つ前から巣立った後も「伴走支援」を行っている団体です。数ある支援活動の中でも、2004年の設立当初から取り組んでいる代表的な活動に「巣立ちプロジェクト」というものがあります。

 

巣立ちプロジェクトは、さまざまな児童養護施設や里親家庭で暮らす高校3年生が集まって社会人ボランティアのサポートを受けながら、一人暮らしで役立つ知識や自分の将来を具体的に思い描くワークなどを行っています。
現在大学1年生の「みう」も、児童養護施設で生活していた高校3年生の時、巣立ちプロジェクトに参加しました。

 

■だんだん行くのが楽しみになった「巣立ち」

19歳の「みう」は現在、東京都内の国公立大学で社会学を学んでいます。今年(2025年)春までは児童養護施設で生活していて、高校卒業を機に一人暮らしを始めました。「4、5歳の頃から施設で生活していたので、施設以外での生活がどんなものなのかまったく想像がつかず、一人暮らしには不安しかなかった」といいます。

 

そんなみうが、「施設を出る前に参加しておいてよかった」と言うのが、B4Sの「巣立ちプロジェクト」です。「高校3年生の時、施設の職員さんから、『参加するとポイントが貯まって、そのポイントで家電などの生活必需品がもらえるから、一人暮らしをする人は参加しておいた方がいいよ』と言われたので参加を決めました」と振り返ります。

 

最初は、「大学受験の勉強と重なり大変なので、行きたくない気持ちもあった」というみうですが、「ほかの施設で生活する、同じ境遇の子たちや、ボランティアの方たちと話すのが楽しくて、だんだん月1回のセミナーが楽しみになりました」と話します。

 

参加者は、巣立ちを控えた高校3年生ばかりです。毎月、同じメンバーで集まるので、顔見知りになり、一人暮らしの夢や不安、将来の悩みなども話すようになりました。子どもたち一人ひとりに寄り添ってプログラムをサポートするボランティアも毎回同じ顔触れで、仕事のことやプライベートのことなども話すようになります。「普段、周りにいる大人は、保育士や社会福祉士など、施設職員さんばかり。でも、巣立ちに来るボランティアの中には、普段会ったことがないような、デザイナーや銀行員の人もいます。転職経験を話してくれる人もいて、すごく視野が広がりました」

 

■防犯、家計、アパート選び…一人暮らしに役立った

 

巣立ちプロジェクトでは、引っ越しの手続きや金銭管理、危険から身を守る術など、一人暮らしに必要な知識やスキルをワーク形式で学びます。

 

みうが印象に残っているのは、「お金のトラブル」の話です。

 

「一人暮らしの人が騙されることが多い、詐欺のパターンの紹介があったのですが、例えば昔仲が良かった友達から急に連絡があって、カフェで会うことになって話していたら、詐欺の話を持ちかけられて……といったストーリーでした。詐欺といえば『オレオレ詐欺』くらいしか知らなかったですし、『詐欺なんてひっかかるわけがない』と考えていたのですが、この話を聞いて『私がこんな風に言われたら、騙されていたかも……』と、心から気を付けようと思いました」

 

アパートの借り方も役立ちました。「どんな部屋を選んだらいいかについて、みんなで話し合いながら学んだのですが、『家賃は、収入の3分の1までに抑える』と聞いて、実践しています。今住んでいるアパートの家賃も、ちょうど奨学金などの3分の1に収まっていて、家計もなんとか回せています」

 

何階の部屋を選んだらいいかについても、気付きがありました。「最初は、階段の上がり降りが面倒だし、1階がいいと思っていたのですが、『女子は防犯上の理由もあるので、2階以上を選んだ方がいい』と言われて、確かにそうだなと思いました。自分で探すときにも、1階は避けて探しました」

 

みうは、巣立ちプロジェクトへの参加以外にも、退所に向けてさまざまな準備をしていました。進学し、一人暮らしをするにあたって一番大きな課題は「お金」です。高校3年間、ファミリーレストランやコンビニでアルバイトをして、資金を貯めました。ただ、そのために犠牲にしたものもありました。

 

「高校生活の心残りは、部活ができなかったこと。本当は、すごく吹奏楽部に入りたくて、何度も施設の職員さんと話し合ったんですが、大学に進学したかったですし、『将来のことを考えたら、やっぱり部活よりもアルバイトの方が大事だよ』と言われて断念したんです。

今は、大学でピアノのサークルに入っていて、とても楽しくて充実していますが、当時は部活で頑張っている友達を見て、うらやましく思ったりもしました。高校時代の思い出がほしかったなと、今でも思います」

 

■巣立ちの「アトモ」つながり続ける

2024年に行われた「BBQアトモ」の集合写真

 

巣立ちプロジェクトは、高校3年生の夏休み、8月に始まり、翌年1月に最終回を迎えました。巣立ちプロジェクトで貯めたポイントで「トドクン」という仕組みを使い、掃除機、スーツ、救急セットなどの生活必需品をもらいました。スーツは、スーツ専門店に赴いて、店員さんに体にあったものを選んでもらいます。「施設では、年下の子たちに勉強を教えたりするのが好きだったので、大学生になったら塾講師のアルバイトをしようと思っていたんです。スーツは、入学式だけでなくアルバイトでも使うので、本当に助かりました」とみうは話します。

 

巣立ちプロジェクトが終わって、施設を退所してからも、B4Sとのつながりは続いています。大学1年生になってすぐの5月には、同じ境遇の仲間が集まる「アトモプロジェクト」のイベントで、バーベキューが開催されました。「そこで巣立ちで仲良くなった子たちや、ボランティアの人たちに会えたのが楽しかったです。巣立ちの仲間とは、普段はなかなか会えないですが、LINEでつながっていて、時々連絡を取り合っているんです」と笑顔を見せます。

 

■寂しい時は、B4Sの居場所に

B4Sが運営する「B4S PORT よこはま」(横浜市受託事業)

 

施設での生活は、「門限もあるし、スマホが使える時間にも制限があります。一人暮らしで自由な生活ができるのは、楽しみなところもありました」と話すみう。でもその一方で、「いつでも近くに誰かがいた」生活から、「家に帰ると一人」という生活になり、「最初は結構さびしかった」といいます。

 

そんな時には、B4Sの運営する親を頼れない子ども・若者たちの居場所「B4S PORT」に向かいます。「一人暮らしを始めたばかりの頃は、暇さえあれば来ていました。1人で家にいると寂しいので、今も月に2、3回は来ているかな。ほかの利用者と話したり、カードゲームをしたり、一緒にご飯を作って食べたりしています」

 

特に、一緒にご飯を作ったりするのは、一人暮らしにも役立っています。「施設にいる時、もっと料理をしておけばよかったです。私がいた施設は、専属の調理員さんがいて、食事の用意から後片付けまですべてやってくれるので、料理をしているところを見る機会さえなかったんです。B4S PORTでみんなと一緒にご飯を作るのは楽しいし、料理も学べて役に立っています。家ではなかなか作れない揚げ物をするのも楽しみ」と笑顔を見せます。

 

B4S PORTで受け取ることができる、企業からの寄付品にも助けられています。「レトルト食品なども、よくもらっているんですが、本当にありがたいです。防災リュックに入れたりもしています」。確かに、一人暮らしで災害に遭ったらと考えると不安です。防災リュックを用意しているなんて、しっかり者のみうらしいですね。

 

■B4Sは「めっちゃ利用しています」

B4Sの「自立ナビゲーション」も利用しています。一人暮らしを始めたばかりの子ども一人ひとりに、専任のメンターボランティア(自立ナビゲーター)が付いて、巣立ちを伴走してくれます。みうは、月に1回、横浜や新宿で会う約束をしていて、昼ごはんを食べながら話をしています。

 

「最初は雑談が中心だったけど、何度も会っているので、今は悩みごとも話すようになっています。アルバイトや家族関係の悩みを相談したり、『部屋のこんなところが汚れていて、なかなか取れないんだけどどうしたらいいかな』と、生活で疑問に思ったことを聞いたりしています」

 

高校3年生のときの「巣立ちプロジェクト」に始まり、「アトモプロジェクト」、居場所事業の「B4S PORT」、「自立ナビゲーション」など、B4Sを「めっちゃ活用しています」というみう。
「寂しいとき、困ったときに頼れるのは本当にありがたいです。(以前生活していた)施設も、もちろん頼れなくはないけど、担当だった職員さんが異動していたりもするので、ちょっと頼りにくいところもあります。初めて会う人には相談しにくいし、自分のバックグランドやこれまでのことを一から説明するのも大変。困ったときは、顔見知りのB4Sのスタッフやボランティアの方に相談したり、B4S PORTに来ている一人暮らしの先輩たちに聞いたりすることが多いです」と話しています。

 

■一人暮らしは、自分だけの力では難しい

 

そして、こうも話します。「B4Sとつながるようになって、人を頼れるようになってきたと思います。昔は、何でも一人で解決しようとしていたんですが、特に一人暮らしは、自分だけの力では難しい。B4Sのいろいろな活動に支えられて、何とかやっていっているという感じです」

 

大学生活が始まってまだ半年。「勉強は大変だけど充実しています」と満面の笑顔で答えてくれたみう。「一人暮らしで門限がなくなったので、ピアノサークルで仲良くなった先輩と一緒に晩御飯を食べにいったりするのも楽しい」と話します。

 

大学では、社会福祉士の資格を取ることを目標にしています。「将来は、資格を活かして児童相談所のケースワーカーになりたいんです。自分が施設にいたとき、担当してくださったケースワーカーさんが本当に頼もしい方で、憧れました。相談するとすぐに動いてくれたんです。そんな風になりたいです」と目を輝かせていました。

 

「人を頼れるようになってきた」というみうの言葉に象徴される通り、自立は一人だけでするものではありません。うまくいかないことや、わからないことに直面したり、トラブルに遭ったりするのは当たり前。そんな時に、抱え込まず、早いタイミングで相談することができること、そして、相談できる人が複数いること。私たちはそんな状況を目指しています。そのためには、できれば巣立つ前、社会的養護のもとにいる時から関係性を作り、つながり続けることが必要だと考えています。

 

高校3年生のときの「巣立ちプロジェクト」をきっかけに、上手にB4Sとのつながりを活用してくれているみうの言葉は、だからこそ私たちの心に響きました。これからもずっと、みうに伴走していきたいと思っています。

 


■運営事務局からのメッセージ

B4S独自で実施するセミナーやイベントは、自治体からの予算が使用できないため、みなさまからのご寄付を活用させていただいています。いつもご支援いただいている個人・法人の寄付者のみなさまに、この場を借りて心より感謝を申し上げます。

 

引き続きB4Sでは、虐待や貧困などで親を頼ることができず児童養護施設や里親家庭などで暮らしている子どもたちが、自立の際に直面する課題を乗り越えるために、巣立ち前から、巣立った後も、さまざまなプログラムで支援してまいります。

今後とも、B4Sの活動へのご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

 

当事者のための相談・支援

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