
ニュース・活動報告
認定NPO法人ブリッジフォースマイル(B4S)は、児童養護施設や里親家庭で暮らす子どもたちが、自立の時を迎える際に直面するさまざまな困難を乗り越えられるよう、巣立つ前から巣立った後も「伴走支援」を行っている団体です。
児童養護施設等で暮らす子どもたちは、虐待や親の病気・経済的困難など、さまざまな理由で親と離れていますが、その中で最も多い理由は「親による虐待」です。
「親がいても、頼ることができない」そんな子どもたちが、今も日本のどこかで生活しています。

※養護問題発生理由は、母子生活支援施設入所者約5,000人を除く
対象児童数出典:社会的養育の推進に向けて(令和 7 年 6月):こども家庭庁pdf
児童養護施設入所児童等調査の概要(令和 5 年 2 月 1 日現在): こども家庭庁pdf

進学を選択した人たちは、専門学校や大学に通いながら生活費をまかなうため、アルバイトに励みます。一方、就職のために地元を離れ、まったく新しい環境で生活を始める人もいます。
生きていくために必要なすべてを、ひとりで考え、決め、実行していく。そんな暮らしが、巣立った後すぐに始まるのです。
新しい環境の中、多くの子どもたちが生活・仕事・人間関係の壁に直面します。しかし、気軽に頼れる身近な大人であるはずの「親」に頼れない子どもたちは、悩みを抱えたまま孤立してしまうことがあります。
さらに、過去の虐待経験が後遺症となり、フラッシュバックに苦しみながら一人暮らしをしているケースも多く、孤独感によって心身のバランスを崩し、生活に支障をきたすことも少なくありません。

このように、さまざまな理由から親と離れて生活せざるおえない環境下の子どもたちは、巣立った後にも困難を抱えることがあります。ですが、本来はこのようなことを未然に防ぐことができれば、子どもたちは過去の経験から一歩踏み出し、新しい未来を踏み出すことができます。
だからこそ、B4Sでは「巣立ち前から巣立ち後まで」、予防を含めた「継続した支援設計」で子どもたちを応援するしくみを作りました。

「継続した支援設計」の一つである「巣立ちプロジェクト」は、子どもたちの“巣立ち”を支えるため、児童養護施設や里親家庭で暮らす高校3年生を対象に8月から翌年1月まで全6回にわたり実施されるセミナーです。
2025年8月に開催されたセミナーには、オンライン型と会場型併せて257人の高校3年生が参加してくれました。中には、電車と徒歩で片道2時間以上かけて会場に来てくれた子もいました。
「巣立ちプロジェクト」とは

高校卒業後すぐに始まる一人暮らしや就職に備え、生活力や社会で必要とされるスキルを身につけることを目的としたセミナーです。セミナー内で取り上げられるテーマは「家計管理」「住まい探し」「就職活動」「人間関係」「心身の健康」など多岐にわたり、毎回子どもたちはワークなどを通じて深く学べる構成となっています。
セミナーには社会人ボランティアが参加し、子どもたちとグループワークを行ったり、自らの経験を語ったりすることで、「社会の先輩」としてリアルな声を届けています。子どもたちは、普段出会わないような年齢や職種の大人たちと関わることで、コミュニケーションの仕方を学んだり、大人から新しい視点を得たりすることができます。
さらに「巣立ちプロジェクト」では、同じような境遇の同級生と施設や里親の垣根を越えて半年間交流するので、新しい仲間をつくるきっかけにもなっています。
このセミナーを通して「自立のための知識」を身に着けられるだけではなく、巣立ち前から「気軽に頼れる大人」と「仲間」を得ることができるのです。
第1回巣立ちセミナー(オンライン型)の内容
2025年度の「巣立ちセミナー」第1回は、2025年8月に会場型とオンライン型で開催されました。会場とオンラインでは、希望するお子さんの傾向や規模感、行いやすいことに違いがあるため、それぞれの長所を活かして取り上げるテーマやその切り口を変えています。
例えば、第1回目のオンライン型で取り上げられたテーマは「コミュニケーション」でした。巣立ちの第一歩を踏み出すにあたり、社会生活の土台となる人との関わり方を学ぶ時間となりました。
そんなセミナーの内容をご紹介します。
■ オープニング:3つの約束とルール
最初に確認したのは「巣立ちプロジェクト3つの約束」です。
・報告・連絡・相談を心がける(ホウレンソウ)
・失敗を恐れず挑戦する(Let’s Try)
・自分も相手も認め合う(I’m OK, You’re OK)
これに加え、オンラインで安心して学べるように「ビデオはオンにする(自分の顔を画面に出す)」「スクリーンショットは禁止」「個別チャットはオフ」といったルールも共有されました。安心・安全な学びの場を守る工夫です。
■ 自己紹介:「私の推し紹介」
緊張をほぐすための自己紹介では、団体内で使用するニックネームなどの紹介にとどまらず「自分の好きなもの・推し」を紹介するワークを実施しました。アニメや音楽、スポーツ、得意なことなどを語り合い、質問を受けることで自然な交流が生まれました。子どもたちにとって「自分を表現する」練習となり、コミュニケーションの第一歩を踏み出す時間になりました。
■ 自立への不安を話し合う
次に「施設や里親家庭を出たらどんなことに困る?」をテーマにしたグループディスカッションが行われました。住まい探し、家計管理、人間関係、孤独感など、多くの子どもたちが抱える不安が率直に語られました。進路予定を共有する中で、「同じように不安を抱えているのは自分だけじゃない」と知ることが、子どもたちに安心感を与えました。
■ 「企業が新入社員に求めること」を考える
社会に出ると何が求められるのか。高校生同士で意見を出し合い、「企業が新入社員に求めることベスト3」を考えるワークを行いました。時間を守る、あいさつをする、協調性を大事にするなど、シンプルながら大切なポイントが挙げられました。ボランティアの社会人からも「実際に職場で大切にされていること」が共有され、子どもたちは現実に即した学びを得ました。
■ コミュニケーションワーク:「断り方」と「伝え方」
アルバイト先の店長に「シフトに入ってほしい」と頼まれたときにどう断るか、あるいは「正社員の仕事が決まったからバイトを辞めたい」と伝えるときにどう伝えるか。実際の場面を想定したロールプレイが行われました。「相手を尊重しながら自分の事情を伝える」練習は、子どもたちにとって実生活で役立つスキルの習得につながります。
■ 社会人の体験談
ボランティアの先輩社会人からは「社会人1年目で気を付けたこと」が語られました。失敗してもやり直せること、報連相の大切さ、助けを求めていいことなど、さまざまな経験をしてきた社会人の等身大の体験談を、子どもたちは真剣に聞いていました。
■ サンキュータイム
セミナーの最後は、毎回恒例の「サンキュータイム」です。少人数に分かれて、ボランティアから子どもたちへ「今日の良かったこと」や「感謝の気持ち」を伝えます。その後、子どもたち自身もセミナーを振り返り、不安や感想を話しました。安心して気持ちを共有できる時間は、自己肯定感を高め、次回への参加意欲にもつながっています。
セミナー終了後には、子どもたちからこんな声が聞こえてきました。
「結構考えるのが好きだから楽しかった」
「今日は緊張したけど、意見を出せてよかった」
「みんなの不安を知れて、自分と同じ気持ちの人がいると分かって安心した」
「疲れたー!」
5.5時間という長時間のセミナーにも関わらず、最後までやりきった子どもたちの表情には、緊張から解放された安堵と、初回を乗り越えた達成感がしっかりと感じられました。
参加によって付与されるポイントで、寄付品と交換できる「トドクン」

また、このセミナーでは参加時間ごとにB4S独自のポイントが付与され、そのポイントを使って一人暮らしに必要な家電や家具と交換できる仕組み「トドクン」があります。
会場にいた子どもたちにその仕組みを紹介し、「トドクン」のサイトで実際の商品を一緒に見てみました。
「知らなかった、パソコンもあるやん」
「中古もあるけど、新品もあるんだ」
「自分で選べるんやね」
高校生たちの目の色が変わり、画面を真剣に見つめながら「一人暮らし」を少しずつ思い描いているようでした。
「6カ月間、頑張ってみようかな」——そんな前向きな気持ちが、心の中に少し芽生えたのではないかと感じました。
これからの開催と応援のお願い
第1回を終えた「巣立ちプロジェクト」は、今後も毎月1回ずつ、全6回にわたり半年間開催されます。オンラインの場合は、9月に「体と心の健康管理」を取り上げます。その後も「お金の管理」「住まいの探し方」「仕事の準備」など、子どもたちの自立に直結するテーマを扱っていきます。最終回は翌年1月、いよいよ巣立ちを目前にした子どもたちを力強く送り出す内容となる予定です。
親の支えを得られないまま自立を迎える子どもたちにとって、このセミナーは「学びの場」であると同時に「安心できる居場所」でもあります。社会へ一歩踏み出すその瞬間に、少しでも心強さを感じられるように、ブリッジフォースマイルは全力で伴走してまいります。
どうか、この挑戦を見守り、応援してください。今後も、親を頼れない子どもたちが希望を持って羽ばたけるよう、みなさまのご支援を心よりお願い申し上げます。
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