
ニュース・活動報告

社会的養護自立支援拠点事業は、2024年度から導入されたまったく新しい制度です。その最大の特徴は、虐待経験がありながら一度も公的支援を受けることなく育った若者を含め、「親に頼れない」すべての若者を対象に、年齢制限なく、自立のための支援を行うことです。
この事業の対象者の定義は、以下の通りです。
①小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親への委託を解除された者
②乳児院、児童養護施設、児童心理治療施設又は児童自立支援施設への措置を解除された者
③母子生活支援施設における保護を受けていた者
④児童自立生活援助の実施を解除された者
⑤児童福祉法第33条第1項又 は第2項の規定により一時保護が行われていた者
⑥法第26条第1項第2号又は第 27 条第1項第2号に規定される指導が行われていた 者
⑦虐待経験がありながらもこれまで公的支援につながらなかった者等であって、社会的養護自立支援拠点事業所において支援が必要と認める者
上記のうち①~④は児童養護施設や里親家庭などの社会的養護下で育った若者。⑤は虐待などの理由で児童相談所に一時保護されたことがあるが、児童養護施設などへの入所にはいたらなかった若者。⑥は虐待など何らかの理由で保護者のもとにいながら公的な指導・支援を受けたことのある若者。⑦は虐待経験がありながら一度も公的支援につながることのないまま育った若者で、最近は一般に「虐待サバイバー」とも呼ばれています。すなわち、さまざまな理由により「親に頼れない」状況下で育ったすべての若者が対象となるのです。
事業内容は、以下のように定義されています。
①相互交流の場の提供
②支援計画の策定
③相談支援
④心理療法支援(任意)
⑤法律相談支援(任意)
⑥一時避難的かつ短期間の居場所の提供(任意)
①~③はこの事業を手がけるすべての事業者が行うもの。④~⑥の「任意」事業は、事業者が任意で行うことができるものです。なお、この事業は都道府県、指定都市、その他児童相談所設置都市が事業主体となりますが、実際の事業運営は社会福祉法人、NPO法人などに委託するケースが大半です。
具体的には、「親を頼れない」若者が気軽に立ち寄れる「居場所」を作り、そこで互いに交流したり、必要に応じてスタッフが相談に乗ることが事業の柱となります。「居場所」を直接訪ねなくても、LINEなどで気軽に相談できる体制を作っている事業者もあります。若者から相談を受けた事業者は、必要に応じて助言や情報提供を行います。公認心理師や弁護士などが事業者内にいる場合は心理療法や法律相談にも応じますし、いない場合はそうした相談につなぐことができるよう、関係機関と調整します。
⑥の「一時避難的かつ短期間の居場所の提供」は任意事業ですが、「親に頼れない」若者にとって重要な事業であると言えます。職場の寮などに住んでいて職を失った時、経済的に行き詰まって家賃が払えなくなった時、家庭内暴力などから逃げ出さざるを得なくなった時など、「親に頼れない」若者の多くはたちまち行き場を失ってしまいます。絶望して自身を傷つけたり、あるいは懸命に生き延びようとあがいた結果、犯罪に巻き込まれたりするリスクもあります。そんな時、短期間であっても安心して食事をし、眠り、今後の生活について相談できる場があれば、救われる若者たちはたくさんいることでしょう。
問題は、この事業の拠点数がまだまだ不十分なことです。制度スタートから半年経った2024年10月時点で、事業主体となる80自治体のうち事業を開始したのは約3分の2の54自治体で、拠点数は56(都道府県と市との共同実施は合わせて1か所と計算)。拠点数が最も多い東京都内でも7カ所にすぎません。緊急時に滞在できる住まいが準備されているのは全国でわずか12カ所です。「親に頼れない」若者たちが気軽に相談し、助けを求めるには、あまりにも少ない数です。
児童養護施設や里親家庭などから巣立つ若者は、毎年数千人にのぼりますが、彼らは「親に頼れない」若者の、ほんの一部にすぎません。児童相談所が対応する虐待相談件数のうち一時保護されるのは1割強。児童養護施設などへの入所にいたるのは2%程度です。相談の結果問題がないと判断されるものも相当数あるとはいえ、問題を抱えながら保護されることなく大人になった若者は、現在20代の若者に限っても数万人以上、ひょっとしたら数十万人にものぼる可能性があるのです。
「親に頼れない」若者が、気軽に相談できる場所。真に自立できるようになるまで、温かく見守ってくれる場所。その日に寝るところがない、いっそ死んでしまいたいなど本当にせっぱ詰まった時、ただちに保護してくれる場所。そうした場所を十分に整備することは、社会の当然の義務であるはずです。
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