ニュース・活動報告

無限の可能性を未来へ 社会課題の「今」に挑む日本オラクル

親を頼れず、公的制度の枠からも外れる――。何も救いの手がないまま、将来の夢をあきらめようとしている学生がいます。日本オラクルは2025年のブリッジフォースマイル(B4S)への支援として、こうした学生向けの給付型奨学金を新設しました。公的制度の目が届かぬ存在に光を当てることができた背景には、常に社会課題の「今」に挑もうとする日本オラクルの姿勢があります。ソーシャル・インパクトの機運をほぼゼロの状態から11年かけて高めたのが、同社プリンシパルスペシャリストの川向緑さん。企業として社会課題の解決に取り組む狙いとメリット、そして支援の機運を社内で醸成するための具体策を聞きました。
(聞き手:フリーライター中谷庄吾)

<日本オラクル プリンシパルスペシャリストの川向緑さん>

 

「公的制度も親も頼れず」 学生の苦しみに衝撃

――給付型奨学金「オラクル チャレンジ プログラム 2025」を新設しました。

 

B4Sと相談しながら、将来実現したい夢があるにもかかわらず、学費や生活費で親を頼れないほか、日本学生支援機構の給付型奨学金を受けられない大学生や専門学校生が対象のプログラムを作りました。2024年に実施した別の給付型奨学金の募集過程で、想定外の課題が見つかったことから枠組みを見直して今回の内容にしました。

 

――どういった課題が見えたのでしょう。

 

昨年の「Re チャレンジ サポート プログラム 2024」は、日本学生支援機構が給付型奨学金を始める2020年4月より前に、経済的な問題で大学や専門学校に進学できなかったり、中退してしまったりした人が対象でした。学び直しを支援することで、タイミングと家庭環境によって狭められた将来の可能性を取り戻せるのでは、との考えが背景にあります。
ただ、ふたを開けてみると、在学中の学生から複数の応募が寄せられました。親の年収が一定以上あるため機構の奨学金対象から外れてしまう学生の中に、虐待する親から逃げ出してきた人や、余裕はあっても親の望んだ道とは異なる進路のために支援してもらえない人など、さまざまな要因で進学を諦めざるをえない学生がいることを知りました。公的制度や親に頼れず苦しむ学生がこんなにもいるのかとショックでした。

 

 

社会課題は「動く的」 今の見極めこそ大事

――公的制度の仕組みによって支援を受けられない学生を、2025年は対象に据えたのですね。

 

「Re チャレンジ」を継続するのか、親を頼れず公的制度の対象からも外れる現役の学生に焦点を当てたいのか、B4Sのスタッフと対話を重ねました。非常に悩ましい問題で、何度も議論を繰り返した結果、親を頼れない若者を支援するというB4Sのミッションにより近い、後者で進めることを合意しました。

 

 

――本当に親を頼れないのかといった事情を見極めるのは難しい点もあります。ウソをつく人が応募してくるかもしれません。

 

そこはB4Sとの議論でも論点になりました。ただ、「騙されるのを怖がって、本当に救わなければいけない人を救えない方が問題」とスタッフが言ってくれたのです。これだけ熱意を持ったB4Sのスタッフが書類選考をしたうえで複数人で面接するわけですから、仮に騙されてもこちらに見る目がなかったとも言えます。
一定のリスクや難しさはあっても、本当に必要としている人に支援を届けることで「この人の人生がこう変わりました」というストーリーを世の中に伝える方が、騙されることを恐れた安全パイな施策よりもよほどインパクトがあります。

 

――支援策を頻繁に見直すのは労力がかかりませんか。

 

目まぐるしく変化する社会において、課題は「ムービングターゲット(動く標的)」です。あきらめずに試行錯誤し続けなければ、絶対に解決できません。やるべきだと思ったことが昨年と違っていても、新しい方向で全力を尽くす柔軟性も必要です。社会が「いま」必要とするものに真摯に向き合って、自分が変わることや失敗することを恐れずに今やるべきだと、信じることを伝えてくれるB4Sのようなパートナーは、非常にありがたい存在だと感じています。
見直しにかかる労力は社内調整ぐらいでしょう。ポイントの外れた領域に支援策を打って、時間とコストを無駄にするよりはるかにましです。

 

NPOの選定 決め手は人の表情

 

――日本オラクルは奨学金や仕事体験を中心にB4Sを10年にわたって支援してきました。きっかけを教えてください。

 

2014年に日本におけるソーシャル・インパクトの専任担当者を任された時、米国の上司から言われたことがあります。「国ごとに抱えている課題はさまざまなので、ぜひ日本の社会課題のスペシャリストになって欲しい。あなたが専門性を持って日本の社会課題の実情を把握していることがわかった時は、あなたの判断を尊重する」という内容でした。
そこでいろんな講演会や勉強会に足を運んで情報収集をしているなかで、B4Sの林恵子代表の講演を聞いて衝撃を受けました。まだ子どもの貧困問題や社会的養護という言葉が今よりも浸透しておらず、日本でも「親を頼れない子ども」という社会課題がとても深刻であることを理解していませんでした。早速B4Sのスタッフから提案を受けて、社員向けに小規模なセミナーをしていただくことになりました。

 

――NPOは公開情報が限られます。支援する団体の選定では苦労しませんでしたか。

 

会計報告や活動実績、ウェブサイト上の情報などは判断材料としました。結果として10ぐらいの団体が最終候補に残っていたところ、「現場に行って働いている人の表情を見てきたらいい。そうしたらあなたのハートが決めるから」と上司から言われたのです。
B4Sはボランティアの方が本当にいきいきしていて、スタッフともニックネームで呼び合い、誰もが率直に意見を出していました。現場にいるすべての人からこの課題を解決したいという熱量を感じ、「この団体なら継続的に一緒に活動できる」と直感しました。パートナーとして社会課題を解決していきたいと思えるかどうかは、どの社会課題を解決したいのかというのと同じくらい、その団体で働いている人も重要だと感じています。

 

 

寄付は社会への投資 ROIは質・量が両輪

 

――企業として積極的に社会課題解決に取り組んでいます。根底にはどういう考えがあるのでしょう。

 

大きくは2つあります。1つは未来志向の会社であること。もう1つは可能性を広げて社会的にポジティブなインパクトを生み出したいということです。テクノロジーを活用してお客様のビジネスの可能性を広げるという、当社の根幹業務にも通じています。こうした考えに沿って、教育、環境、コミュニティー、健康問題の4つを社会課題の柱に据えました。寄付は社会的な投資だととらえており、いかに大きなインパクトを生み出せるかを常に考えています。

 

――社会課題解決のリターンは、自社ではなく社会に還元されがちです。投資に対するROI(費用対効果)が捕捉しづらくないですか。

 

その難しさはあります。NPOに提出いただくプロジェクトの企画書には、いくらの資金で何人がどういう支援を受けられるといった量的な要素を盛り込んでもらいます。ただ、何人の学生がいくらの奨学金を受け取ったという数字の説明だけではステークホルダーへの説明として不十分です。数字を追いかけることは弊害も生みかねません。
例えば奨学金によって、ある学生の人生がこういう風に変わったというストーリーの方が、伝わりやすく説得力も生みます。こうした質的なROIを捕捉するためにも、できるだけ現場に足を運ぶようにしています。

 

――社会課題の解決に取り組むことで、企業自体が得られるメリットにはどのようなものがあるのでしょう。

 

社会人世代にもボランティアや社会貢献への意欲が高い人が増えてきていると感じるので、社会的な活動をする企業の方が人材は採用しやすくなると思います。社会のために自分は何ができるのかという課題意識を持ち、自ら行動に移せる人材は、変動する社会の中で物事を主体的に考え、問いを見つける素養も備えているはずです。こういう人材は、どの企業でも欲しているでしょう。また、企業が社会課題の解決に取り組む姿勢を見せ、社員の間でも「今日はボランティアに行ってくるね」「行ってらっしゃい!」という会話が気軽に成り立つ職場であれば、社員のボランティア参加率も高まります。それがひいては社員のモチベーションや帰属意識の向上につながるのではないでしょうか。
人材育成の面でも大きな効果が生まれるので、コスト面を踏まえても積極的に取り組むべきだと思います。

 

――人材育成の面ではどのような効果を実感していますか。

 

例えば、まだプロジェクトまでは任せられない若手であっても、ボランティアなら周囲にサポートをしてくれる仲間がいますし、「失敗しても、みんなでサポートするから大丈夫」と伝えることで安心して挑戦してもらえます。サポートする側にとっても、人を育成するにはどういう環境や支援の仕方が必要かを学ぶ機会につながります。業務外のことで仲間と創造的なコミュニケーションをとる関係が生まれれば、組織も活性化するでしょう。
よく人事担当者へのインタビュー記事で「待っているだけの社員はいらない」といったコメントを見かけます。そうであるならばなおのこと社会課題の解決やボランティアへの積極性を、企業として見せた方がよいと思います。

 

 

ボランティア数11年で100倍に まずは小さな一歩を

 

――外資系で寄付文化と近しい企業だからこそ、社会課題解決やボランティアに取り組みやすい雰囲気なのでしょうか。

 

よくそう言われますが、それだけではありません。今でこそ社員2400人のうち400~500人が年に1回以上ボランティア活動に参加するようになりましたが、私がソーシャル・インパクトの専任担当になった2014年時点では年間で5人ほどでした。私自身もそれまでボランティアを経験したことがなく、「暇な人」や「いい人」がやることだと思っていたぐらいです。上司から「最も期待しているのは社員のボランティアを増やすこと」と伝えられ、戸惑った記憶があります。

 

――どのようにして社内で機運を高めていったのですか。

 

最初に取り組んだのが、当社に声掛けがあったビルのロビーで実施する無料のボサノバコンサートへの支援でした。何か崇高な考えがあったわけではなく、純粋にボサノバが好きで楽しそうだと感じたのが動機です。周囲にも「タダで音楽が聞けるから一緒に手伝おうよ」と声をかけて参加者が増えました。自分が楽しいと思っていると、自然と周囲にも伝わるものです。すると、今度は別の人が「自分はこれが楽しそうだと思うから一緒にやってみないか」と誘う流れが徐々に生まれました。

 

――最初は本当に小さな一歩だったのですね。

 

その一歩がとても大事だと思います。最初は社会課題といった難しいことを考える必要なんてありません。会社の周囲の清掃活動でも何でもいいんです。やりがいとしては社会的意義が高い活動の方があるので、そのうち自然と「こっちもやってみようか」「より社会に求められているものはこれかもしれない」と自分たちなりの方向性が見えてきて、機運も高まるはずです。
ボランティアへの参加に数値目標を掲げることを過去に社内で議論したこともありますが、強制すると目的と手段が逆転しかねません。100人が必ず参加しなければいけないという制度より、「やってよかった」と思える社員が1人でも増えて周囲に声をかけて輪が広がる方が、ポジティブなインパクトを生むはずです。企業としては、そういうコミュニケーションが増えやすい環境を整えていくことが重要だと思います。

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