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【当事者インタビュー】「いずれは支援する側にも回りたい。B4Sは、そう思わせてくれた」おざ

現在神奈川県にある大学に通う大学3年生の「おざ」は、大学1年生の2023年9月に児童養護施設を出て一人暮らしを始めました。そして現在はほぼ毎週末、ブリッジフォースマイル(B4S)が運営する居場所B4S PORT よこはま」を利用しています。大学では英語を学び、B4Sを通じて得た奨学金で夢だったヨーロッパ一人旅を実現させた彼は、B4Sの居場所をどのように利用しているのでしょうか。「B4S PORT よこはま」で聞きました。

 

 

■誰かと話したいときや、一人で休みたい時に来る場所

おざは、「B4S PORT よこはま」に来るようになって1年半になります。きっかけは、施設で生活していた高校3年生のときに参加した「巣立ちプロジェクト」でした。

 

「『施設を退所して一人暮らしをし始めるときに利用するといい』ということで、実際にB4Sの居場所に行ってみるプログラムがあったんです。その後、大学生になって一人暮らしを始めたので活用するようになりました」

 

B4Sが運営する居場所は、さまざまな理由で親を頼れない若者が、気軽に立ち寄れる場所です。スタッフやボランティア、ほかの利用者とお菓子を食べながら話したり、ゲームをしたり、一緒に食事を作って食べたり。1人で本を読んだり、何もしないでぼーっとしたりしていてもOKです。

 

おざにとってB4Sの居場所は、「誰かと話したい時だけでなく、一人で休みたい時に来る場所」。そして、「ちょっと疲れている時に来ると気分転換にもなります」といいます。また、食料品などの寄付品がもらえるのも助かっているようです。

 

「お米や新鮮な野菜、インスタント食品や、食器洗剤などの消耗品がもらえたりもするので、節約になってとても助かっています。僕はたまたま人と話すのが好きなのですが、話すのが苦手な人でも、寄付品をもらうことを口実にして居場所に来ることができるので、いいんじゃないかな」

 

■一人暮らしをする前は不安だった

 

おざは、2023年3月に高校を卒業。その後も大学1年生の夏まで5カ月ほどは、「措置延長」により施設で生活しながら大学に通い、9月に施設を出て一人暮らしを始めました。

 

以前は、施設で生活する子どもたちの多くは、高校を卒業するタイミングで施設を出なければなりませんでしたが、最近は措置延長の手続きを取ることで、高校を卒業してからもしばらくの間は、引き続き施設で生活ができるケースが増えています。さまざまな理由で親を頼れない状況の中で、一人暮らしをするのは経済的にも精神的にも大変なことです。措置延長をすれば、高校を卒業し、就職や進学などで環境が大きく変わるときに、引き続き住み慣れた施設などで、既につながりのある職員の方たちの支えがある中で、もう少し巣立ちの準備をすることができます。

 

それでも、一人暮らしをする前は、とても不安だったとおざは話します。

 

「施設を出て一人暮らしをすることには不安がありました。体調を崩さずに生活していけるのか。大学の勉強をしながらバイトをするという生活の中で、自分の時間があるんだろうか。心配なことはいろいろありました」

 

自炊も心配でした。

 

「一人暮らしをする前は、漠然と『自炊を頑張らなくちゃいけない』というイメージを持っていました。自炊というのは『頑張らなくてはいけないもの』で、ご飯と汁ものにおかず3品くらいは作らなければいけないと思っていたんです。でも、巣立ちプロジェクトで『一汁一菜』(ご飯、汁もの、おかず1品)という言葉を知りました。『そんな簡単でいいんだ。それなら続けられそうだな』と思いました」

 

ただ、実際一人暮らしをしてみると、一汁一菜も大変です。「最初の2、3カ月くらいは頑張ってお味噌汁を作ったりしていたんですが、だんだん面倒になってきて、今ではご飯とおかず1品みたいになっています。体調を崩さないよう、栄養も考えなくてはいけないので、鶏肉やブロッコリー、卵など、簡単なおかずを作り置きしています。あまり難しく考えなくても、野菜とお肉が入っていればいいかな、と」

 

時間をかけないで済ませるコツもつかんできました。

 

「最初は、朝食を作ったりすることを考えると、朝、出掛ける何時間前に起きて準備すればいいかわからず、不安で3時間くらい前に起きたりしていました。それが、だんだん慣れてきて、最近では1時間とか、場合によっては30分前でも間に合います。朝食も手抜きを覚えて『シリアルとヨーグルトでいいか』となってきました。時間が経てば、慣れてきて何とかなるものですね」

 

■居場所にはいろんな大人がいる

B4Sが運営する「B4S PORT よこはま」(横浜市受託事業)

 

「寂しさ」「孤独感」は、児童養護施設を退所して一人暮らしをする若者が直面する、大きな壁の一つです。だからこそB4Sは「孤立を防ぐ」ことを一番に考えています。困ったことや不安なことがあったときに気軽に相談でき、仲間や頼ることができる大人がいる居場所を作ったり、仲間や大人とのつながりを作るためのイベントを開催したりしています。

 

おざの場合も、「先に施設を退所していった人たちの話を聞くと、みんなホームシックになっていたので、僕もなるんじゃないかと思っていました。実際は、それほどではなかったですが、やはり施設の職員さんや、一緒に生活していた仲間がちょっと恋しくなるようなことはありました」と話します。そしてそんな時には、B4Sの居場所に立ち寄ります。

 

「ちょっと寂しいな、と思ったときだけでなく、悩んだり困ったりした時にも居場所に来ています。居場所には、スタッフやボランティアとしていろんな大人がいるんですが、自分の中で『この人にはこういうことが相談しやすいな』というのがあるので、話したい内容によって違う相手に相談したりしています。ほかの利用者に聞かれたくない時には、個別に話ができるスペースがあるので、そこを利用したりもします」

 

2024年に行われた「クリスマスアトモ」の集合写真

 

仲間とのつながりも支えになっており、バーベキューやクリスマスパーティー、巣立ちプロジェクト同窓会などの、「アトモプロジェクト」のイベントにも、よく参加しています。

「大きいイベントでわいわいするのが好きですし、何より、似た境遇の人たちばかりというのもいいです。施設を退所して一人暮らしをしている人も多く、そういう人たちの頑張る姿を見るのは励みになるし、『僕も頑張ろう』という気持ちになります」


■居場所が“初めての海外一人旅”実現のきっかけに

おざは現在、大学で英語を学んでいます。英語に関心を持つようになったきっかけは、中学校の英語のALT(外国語指導助手)でした。「教え方もうまくてとても楽しい人だったんです。それで、英語圏の文化に関心を持つようになりました」。そしてその後、高校3年生で参加したB4Sの巣立ちプロジェクトでは、海外で暮らした経験を持つボランティアに出会います。「僕も外国の文化に関心があったので、とても話が合いました。大変なことでもプラス思考にとらえるのが上手な人で、おかげで僕もポジティブになったように思います」

 

巣立ちプロジェクトは、児童養護施設や里親家庭からの巣立ちを控えた高校3年生を対象としたプログラムで、引っ越しの手続きや金銭管理、危険から身を守る方法、自炊や健康管理、性教育など、一人暮らしに必要な知識やスキルをワーク形式で学びます。遠方に住む人向けにオンラインでも開催していますが、おざは、同じ地域に住む高校3年生が集まって行う集合形式のセミナーに参加しました。児童養護施設や里親家庭で生活する同じ学年の仲間との交流の場になっているほか、さまざまなバックグランドの多様な社会人ボランティアがサポートするので、ここでの出会いが興味の幅を広げる刺激になったり、将来の職業選択の参考になることもあるのです。

 

さらに最近では「B4S PORT よこはま」が、初めての海外一人旅を実現させるきっかけにもなりました。

 

「ヨーロッパに行ってみたかったんですが、『きっと高いから無理だろうな』と思っていたんです。でも、(「B4S PORT よこはま」でボランティアをしている)サーフが、格安航空券の比較サイトを教えてくれて、見てみたら思ったよりも安かったんです」

 

夢のヨーロッパ旅行に少し現実味が生まれたところに、同じくB4S PORT よこはまのスタッフ、やすみんからB4Sとピクテ・ジャパン株式会社による奨学金制度「グローバル・タレント・プログラム」についての共有がありました。将来英語を使う仕事を目指す、児童養護施設や里親家庭など出身の学生を対象とした返済不要の奨学金です。「応募資格の条件はすべて満たしていましたし、給付される奨学金の使い道は自由。ぴったりだと思いました」

 

応募時期がちょうど大学の期末試験とかぶっており、「ちょっと焦りながら準備をした」といいますが、無事選考に通り、10日間のヨーロッパ一人旅を実現させることができました。

 

■英語力が鍛えられ、視野も広がった

奨学金が得られたとはいえ、ヨーロッパの物価は高く、円安も続いています。なかなかの貧乏旅行でしたが、自分で旅程を考え、5カ国を回りました。予約をしないで現地で宿を探したり、宿泊料金を交渉したりと、度胸もつきましたし英語力も鍛えられました。

積極的に地元の人に話しかけ、友達もできました。「オーストリアで知り合った人は、2025年4月に旅行で日本に来るらしいので、会う予定なんです」と楽しみにしているようです。

 

「ゼミの、イギリス人担当教授が、『現地の文化を知りたいなら、パブに行ってみるといい』とアドバイスをくれました。それで、イギリスやチェコ、ハンガリーではパブに行き、地元のおじさんと話したりしました。まだ、この旅が将来にどう繋がるかはまだわかりませんが、視野も広がったし、英語力以外にも得るものが大きかった」と振り返ります。

 

今年(2025年)4月に大学3年生になり、これから就職活動も始まります。「日本だと、真面目に、真剣に働くのが当たり前というイメージがあったのですが、ヨーロッパで出会った人たちは、リラックスして楽しみながら働いているように見えました。従業員同士でも、お客さんとも楽しめるような仕事もいいなと思うようになりました」

 

■いずれは支援する側にも回りたい

 

今のおざにとって、B4Sは「日常生活の一部になっている」といいます。ただ、それが「当たり前」になって感謝の気持ちを忘れてしまったりしないように気を付けているそうです。

 

「イベントに参加したり、(居場所に)定期的にご飯を食べに来たり、困ったことがあったら話を聞いてもらったり……。それは、B4Sのスタッフやボランティア、寄付してくれる方々がいるから成り立っているわけですが、最初はありがたいと思っていても、いずれ慣れてきてしまうと『当たり前』になってしまいます。こうした支援が続くといいし、それが当たり前の世の中であってほしいと思うけれど、そのありがたさを忘れないで利用していきたいと思っています」

 

そしていずれは自分も、「支援する側に回りたい」といいます。

 

「日本全体を見ると、『人のため』より『自分のため』ばかり考えている人が多いように思います。そんな中で、僕たちのような施設出身者や子どもたちのためにと活動してくれているB4Sのスタッフやボランティア、支援者の方たちは、すごくありがたいし尊敬しています。僕も人に喜んでもらうことが好きなので、将来は何かのボランティア活動にも参加したいと強く思います。B4Sは、そんな風に思わせてくれるようになったきっかけの場所です」

 

質問を投げかけると、一生懸命考えて、思いを丁寧に言葉にしながら答えてくれたおざ。自分の考えだけでなく、「こんな風に受け止める人もいるんじゃないかな」と、想像力を働かせ、俯瞰して捉えようとする姿が印象的でした。海外に関心を持ち、ヨーロッパで一人旅をした経験も、おざの視野の広さにつながっているのかもしれません。

 

おざは、自分自身についてこんな風に語っています。

 

「『児童養護施設で生活していた』という、ほかの人とは違う経験を持っていることは、自分のアイデンティティの一部ですし、そうして得た価値観は、自分の強みになっているようにも思います。ほかの人とは違うものを持った自分が、これから世の中のために何ができるようになるのか、自分でも楽しみ」

私たちも、おざの今後が非常に楽しみです。B4Sは、おざをずっと応援しています。

 


■運営事務局からのメッセージ

B4S独自で実施するセミナーやイベントは、自治体からの予算が使用できないため、みなさまからのご寄付を活用させていただいています。いつもご支援いただいている個人・法人の寄付者のみなさまに、この場を借りて心より感謝を申し上げます。

 

引き続きB4Sでは、虐待や貧困などで親を頼ることができず児童養護施設や里親家庭などで暮らしている子どもたちが、自立の際に直面する課題を乗り越えるために、巣立ち前から、巣立った後も、さまざまなプログラムで支援してまいります。

今後とも、B4Sの活動へのご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。

 

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