複雑に入り混じる感情と背景 自立支援の難しさ

セーフティネットがない危うさ

生活がうまく行かなかったとしても、施設退所者には頼れる親がいないため、帰る場所はありません。
家計がやりくりできなくなったり、体調を崩したり、仕事を辞めたり。悪い人にだまされたり、犯罪に巻き込まれたり。なにかしらの理由でお金がなくなり、家賃を払うことができなくなってしまったら、ホームレスになってしまいます。
最も頼れるはずの家族というセーフティネットがない。しかも、多くは10代という早い時期に自立を余儀なくされており、生活保護などの知識を持たなかったり、どこに(誰に)相談していいかすらわからないという人も多いのが現状です。生活保護などの社会保障制度につながるチャンスがなければ、公的なセーフティネットも生かされません。経済的、心理的支えが期待できない中、弱みに付け込む犯罪組織や、悪徳宗教、性風俗産業など、悪い組織に取り込まれてしまうこともあります。

頼りたいのに頼れない

出身施設を、実家の代わりにできないのでしょうか。お盆やお正月に帰ってきたり、体調不良で仕事を辞めてしまった時にしばらく滞在できたりと、施設で家庭のように過ごせたら理想です。しかし残念ながら、多くの施設にその状況は整っていません。
施設職員は、今いる子どもたちの世話で手がいっぱいです。退所者も、それがわかっているので、職員を頼ることを遠慮してしまいます。また、職員も激務の中、施設での勤続年数は数年程度と、短いという傾向があります。たとえ宿泊ができる施設だったり、職員を頼る気持ちがあったりしても、親代わりとして一緒に生活した職員が仕事を辞めてしまうと、関係性が途切れてしまいます。

もどかしい親との関係

児童養護施設の子どもたちの約9割には、親がいます。子どもたちが施設に入所する理由は、たとえば親子関係の不調や、経済的に自立できていないなど、「親が家庭で育てられない状況」が多く、子どもたち自身も「今後も親は頼りにできない」とわかっています。
施設にいる間は、行政や施設職員が親との関係性のクッション役になってくれますが、退所するとそうはいきません。退所者は、親との複雑な関係に、直接向き合わなくてはならなくなります。親との関係をうまく整理できていないと、退所後に親の悪い影響を受けてしまうことがあります。
例えば、生活保護をギャンブルにつぎ込んでしまう親が、子どもが仕事を始めたとたん、「お金を貸して」と言ってお金をせびってくることがあります。退所者も、お金が返ってこないことはわかっているので、はっきり断れればいいのですが、「やっぱり自分の親だから」とお金を渡してしまうのです。
自立できていない親子が相互依存関係になることもあります。仕事を辞めてしまった退所者が、住む場所を失い、生活保護を受けている親と同居を始めた場合、もう一度働こうとすると、親の生活保護が止められてしまうため、再就職しようという意欲が失われることもあります。

居場所がほしい

退所後困ったこととして一番多く挙がるのが「孤独感」。施設での集団生活とのギャップからくる寂しさもあり、「居場所がほしい」という退所者の思いは、非常に強いものです。このため、暴力団や新興宗教、キャバクラといった、好ましくない集団に居場所を求めてしまうこともあります。
また、頼れる家族がいない寂しさや、自分自身が家庭で暮らせなかった思いから、「早く幸せな家庭を持ちたい」と考える退所者はたくさんいます。そして実は、キャバクラで働く女性退所者も少なくありません。彼女たちにとって、キャバクラは効率よくお金を稼げるアルバイト先であると同時に、自分の存在を認めてくれる居場所であり、早く結婚相手を見つけるチャンスを提供する場であるという点も否定できません。

女の子が抱えるリスク

最近では一般の女の子の間でも、キャバクラ嬢が「なりたい職業ランキング」で上位に挙がるそうです。華やかで、お金を稼げるキャバクラの仕事に、抵抗感は減ってきたようです。しかしながら、露出の高い装いでお酒を扱う仕事には、性的なリスクが付きまといます。金銭的なバランス感覚を失った末、性感染症を患ったり、望まない妊娠をしたりすることもあります。女性の若さを売りにした、経験やスキルとして積み重ならない仕事に時間を費やしてしまうと、将来ますます自立した生活をすることが難しくなります。その結果、男性に依存せざるを得なくなってしまい、たとえ家庭内でDV(ドメスティックバイオレンス:家庭内暴力)があっても、立場の弱さから何もできなくなってしまいます。

いつまでも消えない心の傷

「親に虐待を受けた」「見放された」「捨てられた」周りの大人に「裏切られた」……。子どもの時に受けた心の傷は、完全に消えることはありません。大人になってからも、就職する時、結婚する時、親になる時など、人生のさまざまな場面で複雑に影響します。自信を持てない、自分を大切にできないなど、ふとしたタイミングで、メンタルの弱さが首をもたげます。精神病を患ったり、自分の子どもを虐待してしまったり、罪を犯したり、自らを殺めたりすることもあります。大人になってからも、いつまでも、消えない心の傷を抱えることになるのです。

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