退所者支援の現場から〈1〉施設を退所するタイミング

1947年に制定された児童福祉法により、児童養護施設は18歳までの子どもたちを支援することとされています。しかし高度経済成長期、子どもたちは働き手として金の卵と重宝され、義務教育を終えると当たり前のように施設を退所し就職していきました。

 

経済発展を遂げた日本で高校進学が一般的になると、1973年より施設でも高校進学が選択できるようになり、高校に進学する人は高校卒業まで施設に居られるようになりました。それから少しずつ高校進学率は上がり、いまでは96.3%の子どもたちが高校進学をしています(※)。

 

中卒で就労する場合は中学卒業と同時に、高校を中退する場合も、学校に行かないことは、つまり「 働く」と解釈され、退所を促されます。しかしながら、中卒者や高校中退者こそ自立が困難で、社会適応が難しい子どもたちといえます。
自立援助ホームという働きながら自立を目指すための小規模施設での支援が生まれたり、通信教育とフリースクールを組み合わせて施設でなんとかサポートを続けたりといった取り組みが進められてきました。

 

18歳に達した後も、児童養護施設での養育を20歳に達するまで延長できる「措置延長」は、児童福祉法第31条に定められていますが、判断をするのは児童相談所です。例えば、自立の準備が整っていない子どもに対して、施設職員が措置延長の必要を訴えても、児童相談所がダメと判断すれば施設職員は従わざるを得ません。

 

現状、簡単に措置延長を認めることができない事情があります。一時保護所には施設への入所待ちをしている子どもが多数いるからです。そのため、施設が定員いっぱいの状態になっている地域では、措置延長が認められないことが多くあります。平成29年のデータでは、高校卒業と同時に施設を退所する子どもは82.7%となっています(※)。

 

(事務局スタッフA)

 

※出典:社会的養育の推進に向けて(厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課:平成31年1月)


すでに報道されているとおり、2月25日東京都内の児童養護施設で施設長が亡くなる、そして容疑者として逮捕されたのが施設退所者である、という大変痛ましい事件がありました。この事件をきっかけに児童養護施設のことや、退所者たちの状況を知った方も多いと存じます。
今回の事件の背景をご理解いただく一助になればと考え、施設職員や退所者の置かれている状況をご説明いたします。

弊団体は2004年より児童養護施設から社会に巣立つ若者の自立を支援する活動をしております。施設で生活する中高生や退所後の若者たちと接するなかで、自立の大変さを目の当たりにしてきました。
特に施設退所後のサポート不足や、退所者たちが抱える孤立感は大きな課題だと捉えています。

様々な家庭の事情や心の傷を抱えて子どもたちは児童養護施設にやってきます。
一般家庭とは違うけれど、職員の支援の下で子どもたちは学校に通い、友達とゲームをするなど普通の生活をしています。一般家庭の子どもたちと大きく違うのは、18歳で施設を退所し自立しなければならないことです。頼れる親がいないなか、お金をやりくりし、自分でなんとか生活をしなければならない不安は計り知れません。

納税や社会保険の手続き、冠婚葬祭のマナーはどうしたらよいのか、具合が悪いときは病院の何科に行けばよいのかなど、社会に出てからわからないことに直面しても気軽に聞ける相手がいません。退所者のなかには、人と信頼関係を築くことが苦手で、トラブルが起きてもSOSの出し方がわからず、誰にも相談できないまま問題を大きくしてしまう者も少なくありません。
頼れる実家がないため、失業すれば住む家を失い、病気になっても収入の確保が優先で治療に専念することもできません。何かあったときに、安心して再出発ができる環境がないのです。

2004年に、退所後支援は施設の役割であると法律で義務付けられて以降、制度は少しずつ整ってきました。しかし、多くの施設は入所中の子どもたちのケアで精一杯で、退所後支援まではとても手が回っていません。
さらに、退所後の若者たちの状況は同じものはひとつとなく、10人いれば10通りの支援をする必要があります。その一つひとつに細やかに対応するためには予算も人員もとても足りず、施設職員たちの熱意と努力に頼りきっているのが現状です。退所者への支援には、退所者を受け入れる社会の力と、多くの方の力が必要なのです。

ブリッジフォースマイルは、社会と児童養護施設をつなぐことを目指し活動してきました。『親を頼れない子どもたちを社会全体で育てる』という考え方が、あたりまえになることを願ってやみません。これからも子どもたちの自立支援について考え、行動して参りたいと存じます。

今回の事件で亡くなられた大森信也さんは、自立支援をテーマにした共著を出されたり、全国各地域の職員向けの研修で講師を務めたりするなど、社会的養護全体の推進力になる大切な取り組みを数多く担われていた方でした。
大森さんに心から感謝するとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。

NPO法人ブリッジフォースマイル

Bridge for Smile

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