日本で3万人の子どもが暮らしている場所 施設での生活

2歳から18歳の子ども3万人が全国600施設で暮らす

児童養護施設とは、さまざまな家庭の事情により、家族と暮らせない子どもたちが生活する施設です。児童養護施設は、全国に600施設あり、2歳から18歳の子どもたち約30,000人が生活しています。児童福祉法では、第41条に「児童養護施設は、保護者のない児童(乳児を除く。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を含む。以下この条において同じ。)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設 」と定義されています。

むかしは「孤児院」だった

歴史をさかのぼれば、聖徳太子の時代にまでルーツを見出すことができますが、いまある施設の多くは、第二次世界大戦後、幸せな社会を願う多くの個人や団体が、戦争によって家族や家を失った子どもたちを保護、救済したことから始まっています。しかし、いまの児童養護施設に親のいない子どもたち、いわゆる「孤児」は1割もいません。
時代と共に、施設の役割も変化しています。戦後は、衣食住の提供が中心でしたが、いまは、不適切な環境におかれている子どもたちに対して、心身の健全な成長と発達を保障していく役割をになっています。心理療養、家庭復帰支援、学習支援、自立支援、退所後支援にまで広がっています。
児童養護施設は、公的な措置施設であり、主に社会福祉法人が行政から委託される形で運営されています。施設の運営資金は、国からの「措置費」と地方自治体からの「補助金」で成り立っています。なお、公的機関(都道府県の社会福祉協議会など)により運営されている施設(全体の10%程度)もありますが、民間に委譲される傾向にあります。社会福祉法人は、宗教系の団体や篤志家により設立されています。キリスト教系の施設にはシスターがいて日曜礼拝があるなど、文化や方針にもそれぞれの創設者の思いが表れています。

林代表の想い

最近の動向と課題

社会問題化する「児童虐待」。児童養護施設では虐待を受けた子どもたちの入所が急増し、施設において、より手厚い援助・支援が必要とされています。また、社会の変化に伴い、多様かつ専門的な役割を期待されていますが、施設がその役割を実現するまでにはまだ多くの壁があります。

「施設数」と「職員数」の不足
施設入所が必要と判断される子どもの数は増加していますが、受け入れる施設が特に都市部で不足しています。また、1976年(昭和51年)の法改訂で「職員1人に子ども6人」とされた配置基準は、2012年(平成24年)4月「職員1人に子ども5.5人」に改善されましたが、子どもに対する個別のケアが重要になってきているなか、まだまだケアを担う職員の人数はあまりにも不足しています。
建て替え、小規模化への移行が進まない
1945年前後(昭和20年代)を中心に立てられた施設は現在建て替えの時期を迎えていますが、改築には膨大な費用がかかります。一方で、現状の「大部屋・大集団での生活の場」から、「ひとりひとりの子どもの発達保障を考えた小集団」への施設形態の移行が推奨されています。しかし小集団に対応する職員の配置、勤務体制の整備、それによってかさむ人件費の問題など、多くの財政的な問題があります。
求められる専門性に追いつけない
心の傷を抱えた子どもたちは、暴力や非行、リストカットなどの問題行動を起こします。職員は、その背景や心理を正しく理解し、日々の生活を通して長期的視野から(時に治療的に)支援をしなければなりません。また、障害(知的、精神、発達)を抱えた子どもたちの入所が増加しており、ますます高い専門性が求められています。しかしながら、職員は研修の機会も乏しく、勤続年数も短いため、スキルや経験が蓄積されにくい状況です。
拡大する役割に手が回らない
一方で、子どもが家庭に帰るためには「親への支援」も必要であったり、虐待を未然に防ぐための「地域の子育て支援の拠点」としての役割も期待されていたりと、施設では保護者や地域との調整にさく時間も増えてきています。 さらには、2004年(平成16年)の児童福祉法の改正により、入所している子どもたちの自立支援への取り組みに加え、児童養護施設は退所後3年間の子どもたちへの退所後支援を義務付けられました。しかしながら、予算が新たに加算されたわけでもなく、経済的困窮や、離職、家族とのトラブルなど、退所した子どもたちからの相談は多岐に渡り、かつ重度化していきます。

このように、児童養護施設に求められているものが質・量ともに上がってきているにも関わらず、対応が一向に追いついていないのです。

一緒に暮らす子どもの数、6人から150人

同じ児童養護施設でも、施設の形態によって生活環境がかなり異なります。
全施設の6割は、大舎制という形態をとっています。一つの大きな建物の中に、一つの大きな玄関、食堂、浴室などがあり、子どもたちの居室は、個室から8人部屋などに分かれています。生活の管理がしやすい反面、プライバシーが守られにくい、家庭的雰囲気が出しにくいなどの問題があります。
そこで最近は、子どもたちが育つ環境は、家庭的な雰囲気が望ましいとされて小規模化への移行が推奨されています。一つの施設の敷地内に独立した家屋がいくつかある形態は「小舎制」。大きな建物の中を区切りながら小さな生活集団の場を作り、それぞれに必要な設備を設けて生活する「中舎制」と呼ばれる施設や、マンションや団地のような「ユニット制」と呼ばれる形態の施設などがあります。

また、地域社会の住宅を利用して6人を基準に少人数の児童と職員が入居して生活する「グループホーム」も増えています。外見だけでは児童養護施設であることは分かりません。大舎制の施設とは異なり、毎日の生活を通して、生活技術(料理、戸締りなど)を身につけたり、地域社会との密接な関わりなどを体験できたりと、自立を前にした高齢児童の自立生活訓練にも効果的な形態です。
また、夫婦が養育する場合には、「ファミリーグループホーム」と言うことがあります。子どもたちにとって、最も望ましいとされている施設の形態です。
このように、一口に児童養護施設と言っても、形態次第で、施設での生活経験は全く異なります。子どもは入る施設を選べない以上、このような格差はなくさなければいけません。

3年以内で辞める職員は54%

子どもたちと一緒に生活する施設の職員は、正式には、「児童指導員」もしくは「保育士」と呼ばれます。親と別れて入所した子どもたちにとっての親代わりとなるべき重要な存在です。

仕事内容
職員は、食事や入浴など日常生活の世話や学校行事への参加から、進学や就職相談など自立をめざした支援、まで行います。さらに、入所に至るまでの辛い経験から他人に全く心を開かず自分の殻に閉じこもってしまう子どもや、暴力でしか自己表現できない子どもと信頼関係を築き、専門の心理職員と協力してメンタルケアを行います。また、 家庭再統合を目指す上では、子どもの家族への支援も重要な役割です。日常業務の合間には、バザーやクリスマス会といった施設イベントの運営もこなしています。
勤務時間
「親代わり」の仕事は、労働基準法の下で割り切れるものばかりではありません。職員が忙しいのは、子どもたちが施設にいる時間帯です。週末や夏休み、子どもたちにとっての休日は、職員にとっての勤務日です。職員は、早番・日勤・宿直などで対応しています。しかし、自分が担当する子どもに問題が起これば休日でも対応せざるを得ません。
職員配置人数
これまでは、「 児童指導員及び保育士の総数は、通じて、満3歳に満たない幼児おおむね2人につき1人以上、満3歳以上の幼児おおむね4人につき1人以上、少年おおむね6人につき1人以上とする」と児童福祉施設最低基準第42条において定められてきました。1人の職員が、6人の子どもたちの生活の世話をし、毎日の様子を記録し、学校行事に親代わりとして出席するという状態が、30年以上続いてきたのです。ただ、1日8時間の勤務としても、1日3人の職員が必要です。単純に計算すると、一人で最大18人の子どもを担当する可能性があります。
この配置基準は、ようやく2012年度(平成24年度)に改正され、「少年」(小学生以上)は5.5人に対して職員1人以上となるなど、改善の兆しは見えています。
林代表の想い

児童養護施設の職員に関わる課題

一人の職員が複数の子どもを見ている状況の中、虐待が増え、子どもたちに対する個別のケアが必要となってきています。しかし、人員不足のしわ寄せにより、一人の職員で対応できるような状況ではないのが現実です。そしてオーバーワークした職員が仕事上のストレスにより、バーンアウト(燃え尽き症候群)していくケースが目立っています。職員の勤務環境の改善は緊急を要する課題です。また、親から離れても安心して暮らすことができるはずの施設で、内部での虐待が相次いで報告されているという実情があります。施設職員による体罰や性的虐待、子ども同士のいじめや暴力…。国には年間十数件の施設内虐待が報告されていますが、研究者によればこの数は氷山の一角にすぎず、公表されないまま施設内部で処理されているケースが多数あるといいます。これについては、2008年11月に児童福祉法等改正案が可決され、児童養護施設に入所している子どもへの体罰や性的暴行など「施設内虐待」への対策強化がはかられています。

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